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小椋
2015-05-22 23:14:23
1532文字
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【つるみか】ワンライ第四回
※ お題:涙
「ぐっ」
押し殺した呻き声に、三日月ははっとした。
鶴丸の声だ。
即座に右横へ視線を送れば、鶴丸は敵と相対したたまま地を蹴るようにして距離を取っていた。いつもならば薙刀の振り払いにも怯むことなく、颯爽と反撃に踏み切っているはずだ。逃げに転じているところなど初めて見た。最も敵に接近していたせいで、攻撃をいなしきれなかったのだろうか。部隊の中で一番練度の高い鶴丸が、窮地に陥ることは滅多にない。
三日月は太刀を握る手に力を込めて、鶴丸のいるほうへ移動を開始した。援護に駆け寄る者がいたことで標的を変えることにしたのか、薙刀を携えた敵はいずれかへ立ち去っていく。一応は警戒を続けながらも、三日月は得物を手に立ち止まっている鶴丸に駆け寄った。
深々と俯いた鶴丸は、目元に手の甲を押し当てている。
まさか、視界を奪われたのか。
三日月がその肩に手を掛けようとしたところで、鶴丸がばっと身を起こした。目元から手が離れたことで、三日月も状況を理解する。
「目潰しか」
「ああ
……
薙ぎ払いを凌いだところで、砂を蹴られてな。まともに食らっちまった」
攻撃をかわされたことによる苦し紛れにか、目を眩まそうとしてきたらしい。体勢を崩していたせいで、さすがの鶴丸にも防ぎようがなかったのだろう。
軽傷には至っていないようだが、損害を被っていることは確かだ。
赤く充血した目からは、ぼろぼろと涙が零れている。眼球が傷つくことを避けるために、異物を追い出そうとしているのだろう。少なからず痛みを覚えているせいでもあるのかもしれない。いずれにせよ生理的な現象で、鶴丸自身にも止めようがないらしい。透明な滴は、透き通る金色の双眸から次々に溢れてくる。
特に頓着していないのか、鶴丸はそれをぞんざいに拭おうとする。三日月はすかさずその手を留めると、鶴丸の涙に触れた。
鶴丸の頬を濡らすそれは、ひんやりとした肌に比べればいくらか温かいのだろう。残念ながら籠手を身に着けている今、三日月にはその熱を直に感じることはできない。
「三日月?」
黙り込んだままの三日月になにを思っているのか、鶴丸はひどく無防備な顔を曝している。
鶴丸が泣くところなど初めて見た。その瞬間に立ち会えたことを喜ぶ気持ちもあるが、三日月の胸中では、それよりも全く別の感情が勝っていた。どろどろ渦巻いて、ただでは収まりそうにない。
三日月はぎこちなく涙を拭ってやると、すっと鶴丸の頬から手を離した。
「行けるか」
「
――
ああ。問題ないぜ」
今回の部隊長は三日月だ。墨俣にて検非違使との戦闘を開始し、索敵に成功したことで有利な陣形を敷いた。
部隊は善戦している。先陣を切った今剣が太刀の刀装を削り、次いで攻撃に入った長谷部が再起不能に追いやった。戦線が崩れかけた隙を突いて、鶴丸が衝力を強化した厄介な槍を討つ。三日月が無傷の大太刀を破壊したところで、もう一振りの槍を御手杵が仕留めたのだ。打ち漏らした薙刀の攻撃を皆がかわした後、長柄槍の強力な突きを長谷部が負傷することなく凌いでいる。
残る敵兵は二。大将の長柄槍と、鶴丸が対峙した薙刀だ。
元より易々と敗れるつもりはなかったのだが、こうなったら話は別だった。雑念に心を捕らわれて、立ち振る舞いを曇らせるような真似はしない。腹の奥で燻る怒りは、刃を研ぎ澄ませる糧とするだけだ。視界の先に敵を捉えた三日月は、いっそう足を速めた。少し後ろを、鶴丸が追ってくる。
「やるか」
「ああ」
いかなる理由であろうとも、愛しい相手に涙をもたらす者など己だけでいい。
此度の戦い、是が非にでも負けるわけにはいかなくなった。
小椋@OgrYtk
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