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スサ
2024-03-01 00:39:04
4030文字
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【ヴィク勇】アリアのその後(春待つ君へ)
はなそばアリアはヴィが滑るために作られた曲…だったと思ったけど、最初なんかあの世界に存在してるオペラの曲想定なのか?と思ってたことがあって、それを膨らませていったらこうなる…か?という話です。多分ここから始まって春の本に…なるんじゃないかな…と思います。ナチュラルに同棲しています。
#1 孤独の岸より旅立つ
「『離れずにそばにいて』って一曲しかないの?」
勇利の質問が唐突なのは今に始まったことではないが、ヴィクトルは最初言われている意味がわからずぽかんとした。
「
……
デュエットを入れたら二曲だけど」
とりあえず、違うだろうなと思いながら答えたところ、そうじゃなくて、と返ってきたのでやはり違ったらしい。難しい。
「ごめん、ちょっと質問がよくわからなかった。どういう意味?」
「えっと、
…
オペラっぽい曲でしょ?」
「
…
うん?」
「最初、そういうオペラがあるのかなって思ったんだけど、そうじゃなくて、ヴィクトルのあのフリーのために作られた曲って」
勇利自身どう説明したらいいか迷うところがあったらしい。だが、そこまで聞いたら大体わかった。ヴィクトル・ニキフォロフ、勝生勇利語検定そろそろ六級を自負している。一応補足すると、ヴィクトルが独自に定めた勝生勇利のためのスケールで、七級まである。
「ああ、そう
…
、そうだね。あの曲だけ」
「ストーリーもないの?」
やけにこだわるなと思いつつ、ヴィクトルは顎に指を当て、んー、と天井を見た。
「
…
ある、にはある」
「やっぱり!」
「やっぱり?」
当たった、とでも言いたげな楽しそうな様子には屈託がなく、ヴィクトルはつられたように微笑んでしまった。
「勇利はあの曲に
…
曲だけじゃないかもしれないけど、どんなストーリーがあると思う?」
「んー。でも、僕アリアしか知らないからなあ」
「いいから。聞かせてよ」
ね? と念を押せば、少し考えた後、上の方を見ながら「えっとね
…
」と口を開く。
「ある街に
…
同い年くらいの若い男が二人。悪友、みたいな。子どもの頃から一緒に育って。だけど
…
、そう、えっとね、これは昔の話で。悪い領主がいて、二人は義賊みたいにこの領主に反抗している」
ヴィクトルは茶化すことなく続きを待つ。
「それで、だけど
…
そうだな、オペラっぽいから。多分領主の娘はすごくいい人で、この二人の若い男のどっちか、友達の方がこの娘と恋に落ちて、色々あって街は変わって、友達は領主の娘と結婚する。
…
大丈夫?」
まだ終わらなそうだったが、勇利が心配そうにヴィクトルに尋ねてくる。全然、とヴィクトルは首を振る。勇利の想像の話を聞くのは、わりといつも面白い。
「それで、主人公
…
、アリアの男は街を出ることを決める」
「なんで?」
友達が結婚したからって、なんで街を離れる必要があるんだ、とヴィクトルは心底不思議に思って聞いた。勇利は瞬きして、だってそうじゃないと話が進まないし、と答える。本当のところ、彼と幼なじみ夫婦の関係からの影響があるのかないのかはわからない。
「友達は結婚して、次の領主になる。そしたら、それまでみたいに無茶なできないし、義賊っていったってやっぱり、脛に傷はあるわけだし。だから主人公は、あれは全部自分だって言って街を出て行く。
…
そういう感じ」
なるほど、とヴィクトルは頷いた。それはなんとなく理解できる気がした。
「だけど
…
、兄弟みたいに育った親友と離れるのはやっぱりさみしいことだよね。きっと」
「
……
」
さみしい、とヴィクトルは呟いた。さみしい
…
。
その感情は、ヴィクトルにとって長らく未知のものだった。ちゃんと肌で、感覚で理解できるようになったのは、そんなに前のことではない。
「だけど、旅立つべきだと思ってる。親友のことを思うなら。たったひとりの門出だけど、誇らしい気持ちもある。そういうことかなって思って」
「
……
すごいね」
「あっ、ごめん、勝手に
…
」
「いや。いいと思う。演じてる時、そういう気持ちでできていたら少し違ったかもしれない」
「なにが?! ヴィクトルは完璧だったけど?!」
突然ヴィクトル過激派の勇利が顔を出したので、聞いている方が呆気にとられてしまう。だが、遅れて笑いがこみあげてくる。
「
…
俺、勇利に愛されてるなあ」
「何言ってるの?」
演技とは思えない呆れ顔には少々傷つくものがあったが、まあ、気にしない。
「それで? じゃあ、アリアで終わりなの?」
まさか、と勇利は目を丸くして首を振った。
「そんなわけないじゃん。たぶん一幕の最後、盛り上がりのシーンでアリアだよ」
「
…
何幕構成なの?」
「二幕か三幕」
「一応聞くけど、そこまで考えてあるってこと?」
勇利はきょとんとした顔で首を傾げた。何を当たり前のことを、とでも思っていそうな顔だった。
「教えて、その続き」
「いいよ」
勇利は頷いてから、何か思いついたような顔をし、にんまりと笑った。少し悪戯っぽい笑み。珍しい。
「
…
主人公は、大きな川を下っていくんだ。歌いながらさ。それで、河口近くの街に来る」
いい? と勇利の目が聞いてくるので、黙って頷く。
「そこは前までいた街より南にあって、温かくて、活気がある。河口だから港もあって、外洋からの船も入ってくる。男はすっかり街が気に入って、そこで暮らすことにするんだ」
活気がある、の部分はともかく、河口の街で港がある、という説明に少し引っかかりというか、長谷津にたどり着いた自分の話のようでどきりとする。
「その街の中の場面で流れる曲は、愛について、エロス」
「え?」
想像していなかった物がきたので、ヴィクトルは目を丸くする。勇利は面白そうに笑った。
「初めて見る踊り子とか、なんだかわからないものがいっぱいあるスークを歩くんだよ。その時にあの曲が流れる。踊り子の場面でもいいかな」
ストーリーだけでなく、演出的な部分にまで話が及び始めた。ヴィクトルはただ瞬きして続きを聞いていた。
「それで、主人公は噂を聞く」
「噂?」
「街の高台にはお屋敷があるんだけど、兄と二人暮らしの街一番の美女がいるって」
「
………
」
街一番の美女。
ヴィクトルは思わず口と目を丸くした。口なんて、うっすら開いてしまったくらいだ。
「なんだか気が抜けてた主人公は、この街一番の美女に興味を持つんだ。誰が求婚しても断られる美女。よし、なら自分が
…
って思うんだ。主人公は」
「自信過剰じゃないか?」
「主人公? オペラの主人公なんてそのくらいじゃないとつとまらないじゃない?」
こてんと首を傾げる勇利に、それはそうかもしれないけど
…
、ともごもご言ってはみるものの、その通りなので続かない。そもそも最初から架空の話をしているのだし。
「
…
だけど、やっぱりガードが堅くて、主人公もなかなか美女に会えないんだ。それはそうだよね」
「お嬢様なんだ? お屋敷に住んでるんだもんね」
そう、と頷いて、勇利は続ける。
「で、ところで、この街にもやっぱり悪い奴がいて、成金の
…
マフィアみたいなやつ。こいつも美女を狙ってるわけ」
「わかった、主人公はそいつを倒して美女を手に入れる?」
「そうだけど、主人公はその街じゃよそ者だ。そんなにすぐに仲間を集められない」
「そうか
…
」
そこはご都合主義じゃないのか、とヴィクトルは思った。口には出さなかったが。
「だけど、仲間というか
…
友達ができるんだ。昔の友達とまた再会できたみたいで、主人公は嬉しくなる」
「ふうん」
「でも、訳ありで。とうとうこの友達っていうのは、美女の兄だってことがわかる」
「なるほど?」
「だけどまだ一ひねり。この兄っていうのは実は存在してなくて、美女が男装してるんだよ」
「
……
なんだって?」
ヴィクトルは軽く額を抑える。話が込み入ってきた。
「美女が主人公に会わないのは、まあ面倒なのも、警戒してるのもあるけど、単に悪い奴の悪事の証拠を捕まえるために男装して駆け回ってるからなんだ」
「はあ
…
、なるほど」
ちっともなるほどではなかったが、一応ヴィクトルはそのように相づちを打つ。
「そんなこととは知らず、主人公はこの友達と仲良くなる。信頼を寄せるんだ。
…
だけど、美女は自分の素性を隠して行動するうち、主人公に惹かれていく」
ヴィクトルは軽く頷いた。
「そうか、すれ違いなんだね」
そうそう、と勇利が頷く。お互いに気持ちは寄せ合う状態だけれど、互いのそれはかみ合っていない。それは、見ている方からしたら面白い。
「ここで二幕かな
…
。三幕目で、悪事を暴いて、
…
これは街中を巻き込む暴動になるんだ。群舞の場面が入るのはここかな
…
。その中で友達だと思ってた相手が実は美女で、自分は無二の親友を手に入れたのか、それとも恋人を手に入れたのか
…
、っていう悩みの末に、二人で離れずにそばにいてのデュエットが流れて、終わり。どう?」
ヴィクトルは思わず拍手してしまった。
「俺、そんなオペラの曲を」
「存在しないけどね」
勇利は笑った。
「エロスが自然に入ってきて面白かった。ユーリ・オン・アイスとかアガペーも入るの?」
「うーん、アガペーは入れても馴染むかもしれないけど、ユーリ・オン・アイスはどうかな
…
?」
どうだろ、と明後日の方を見ながら考える勇利に、ヴィクトルは微笑んでいた。
「それ、いつか俺と勇利でやろうよ」
「え?」
勇利にとって本当に予想外だったのだろう。きょとんとした顔でヴィクトルを見る。
「勇利が街一番の美女と、謎のその兄。俺は主人公ね」
「まあ、
…
ええ? 女性の方がいいんじゃない
…
?」
「あれ、勇利は自信ないんだ?」
簡単な挑発だけれど、負けず嫌いの勇利はむっと眉を潜めてのってきた。
「そんなわけないじゃん。見せてあげるよ、本物の街一番の美女ってやつを」
完全に売り言葉に買い言葉である。
普段はおどおどしていることも多いくせに、こういう時に勇利は開き直ったかのように強気で来るから侮れない。全く飽きない。次に何をするのか、言うのか、ヴィクトルの今までの経験が予想に少しも役に立たない相手。
**続く(たぶんこれが春の本)
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