「“その人”が所望した物を、必ず持って帰ってくるくらいの」とか。
「凜々しい」とか。ああいうのを言うんだろうなと初めて見たとき思った。
列の最後で、だらしなく椅子を教室の後ろにめいっぱい下げて座る。学校の机ってオレにはちっさすぎて脚が入んねえんだよな。
今日も授業が
本気でだっりい。
この学年には、いわゆる、イケメン、美男子というのが数人居るのだが、その数人にはそれぞれあだ名がついている。
クソダサいあだ名が。
そのうち一人はオレ。
オレのあだ名は『イナズマ』あるいは『
雷』。ダサすぎて笑える。
よく知らないが、違うクラスの一人は『
絶世』あるいは『
焔』、もう一人は『
詩の無い歌』あるいは『ディーバ』。ダサすぎてもう笑えねえ。
そしてオレと並べられる対極のクラスメイトのあだ名は『
月』あるいは『
美幽』。んだそりゃ。
そいつは、その凜々しい美しさでどれだけでも貢がせることができそうな男だった。無茶な物を持ってこいと命じる、昔話に出てくるやつ。それをがんばって遂行しようとして死ぬ奴が続出しそうな雰囲気の男。
同じくクラスだから視界の端に、目立つ。
背丈の関係で常にいちばん後ろの席のオレは、授業中、ヒマであくびしながら教室全体を眺めると、なんとなく目がいく。
しかし、まあ、『雷』のオレには『月』なんて、干渉されることもすることもない。
一生、交差しない。
だから、絡んでくるのが、不可思議。
オレと遊びたがる。なんか、オレには甘えたでワガママで、不敵で強気で来る。他の奴にはお上品で、光り輝く月のお姫様ぶっているのに。
きっと、自分になびかない奴がレアで、物珍しいんだろうとオレは思っていた。こいつはオレと遊びたいんじゃなくて、オレで遊びたいのだ。
昼下がり、眠いからサボり、渡り廊下の階段のしたのベンチに寝ていた。
屋内テラスな空間で、ひなたぼっこ状態で心地良く横になっていたのに、陰る。
目を開けた。
「なんでいないの?」
「センコーかてめえは」
「視聴覚室だよ?」
「だからなんだ」
言って、起き上がる。
うるっせぇな、と思ったのと、そうしないと顔をじぃっとのぞきこんでくるのがうっとうしかったからだ。
ベンチに座るとなりから、まだこっちを見てくる。
「なんだよ」
「画家のドキュメントだって」
「ああそうかよ」
うす暗い視聴覚室で何か見るより、ここで太陽を浴びていたほうがよっぽど身体にいい
……と思って、オレはとなりの奴をひと睨みして、言った。
「んなもんより、日光浴して、寝ててーんだよ。オレには、太陽が、必要なんだよ」
「
……」
あだ名へのあてつけだと、さすがにわかったのか、となりの奴は幼い
怒な表情で黙った。
オレはあくびをした。横になりたい。
近ごろまた、夜に成長痛のような痛みがあり、どうにも眠りが浅いのもあって日中眠かった。
降り注ぐ陽射しに目を細め、空をしばらく見上げてから、オレは横に視線をやった。
となりの奴はまだそこに座っていて、怒な表情のまま、前を見ていた。
なんだか、さっきのあてつけが、こいつにとってはそこそこショックというか、よく効いたようだ。いつものワガママさが感じられない。こんな場面だったらオレを引っ張って連れて行こうとするのに。
横顔が元気が無く見えた。
オレは、うなじから背をがりがり掻いた。ったく仕方ねえな
……。
ぐいっと腕を伸ばして、肩を抱き寄せた。
猫を抱えるようにし、そいつを身体の上にのっけてベンチに横になる。
腕の中でいちど、びくっとしたあとに、静かになった。
やや重かったが、どうでもいい。
そいつを抱えて、オレは太陽光を吸いこむように呼吸して、眠りに落ちる。
たとえ
――こいつに何を望まれたって、オレは何も持ってこないというか、端から聞く気も無い。
何か欲しいんであれば、おまえが月から出て来いと思った。
眠った手が、頭を撫でるようにゆっくり髪を梳く。
もういちど、びくっと腕の中で大きくふるえたのを眠る雷が気づくことは無かった。
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