鹿
2024-02-28 23:16:21
3208文字
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猫の日 ※犬もいます

2月いっぱいは猫の日でOKと言い張って書いたギャグです。土斎です。

「フシャ――――ッ!!」
「ガゥルルルッッ!!」
 土方が屯所に帰還すると、見慣れぬ猫と犬が激しく唸りあっていた。
 いや、見慣れぬというのは少し語弊がある。初めて見るはずなのに、黄土色の目で犬を睨め付ける癖毛の猫にも、白い毛を逆立て吠える青い目の小型犬にも、よく見知った面影があるような気がしてならない。
「斎藤に……永倉……?」
 まさかそんなはずはない。確かに斎藤は猫のようにするりとどこにでも入り込むところがあるし、永倉の不埒な者を威嚇する姿はまさに番犬のそれであったが、二人ともれっきとした人間の隊士である。
『毎度お馴染み霊基異常だ! 全員、今周囲に動物がいるならその場から逃さないように、そして怪我などしないよう対処を願う! 状況を確認次第追って通達するから、申し訳ないがよろしく頼んだ!』
 そこに割って入ったカルデア全館通達により、なるほど稀によくあるトンチキ現象の類であったかと、すぐに現状を受け入れた。よく見知った部下たちがケモノになった程度でいちいち取り乱していては、このカルデアでは生きてはいけないのだ。
「ミ゛ャ――ーッ!」
 納得した瞬間に斎藤猫のネコパンチが永倉犬の鼻面を叩いた。
「グォッッ……ワゥ⁉︎」
 永倉犬が怒りに任せて飛びかかろうとするのを、土方はとっさに背後から掴んで阻止した。そのまま立ち上がって、斎藤猫が届かないところまで高く持ち上げる。
「こんな姿になってまで喧嘩しやがって手前らは、全く……
 永倉犬は邪魔すんなあのクソガキ一発しばいてやると言わんばかりに土方の手から逃れようとするし、斎藤猫も上等だもう一撃くらわせてやるよと何度も跳び上がっては土方の外套に爪を掠めていた。
 このままではいずれ犬の体か猫の体か、もしくは土方の服に被害が及ぶ。どうしたものか――
『あっいたいた土方くーん! はいこれ! さっきまた託宣あったのよねー』
 ――そういえば、先ほど食堂で顔を合わせた卑弥呼から、突然に渡されたものがあった。
 新選組と縁深い邪馬台国の女王の託宣アドバイスは聞いておいて損はない。それもまたカルデアの常識であるから、意味はわからずともとりあえず受け取っていたのだ。
「ほらよ永倉、これ噛んでおけ」
 暴れる永倉犬をどうにか片手で抱え、土方が懐から取り出したのは――骨の形をした犬用のガムであった。カルデアには犬などの動物を連れたサーヴァントも複数いるため、こういうペット用品の類もそれなりに出回っていたりするのである。
「ウ゛ゥゥゥ……ワフ?」
 鼻先にチューインガムをちらつかせてやると、ふんふんとにおいを嗅ぎ始める。
…………!」
 ややあってガムに噛みついた永倉犬は、ガジガジと感触を楽しむうちに、猫と喧嘩をしていたことなど忘れたように夢中になった。腕の中で盛んに尻尾を振る様は、くすぐったいが微笑ましいものである。
「ははっ、なんだよ、かわいいじゃねえか」
 ガムを渡して空いた手で、永倉犬の頭を撫でてみると、犬は気持ちよさそうにそれを受け入れ、土方もまた、もふもふとした毛の感触を楽しんだ。
 さすが邪馬台国初代女王、後で礼の一つも言わねばなるまい――
「ふしゃ――――っ!!」
 と思ったところで、斎藤猫の不満の声は一層大きくなった。はて、こちらの対処はどうしたものか。とりあえず大人しくなった永倉犬は床に下ろし、今度は追いかけて喧嘩をふっかけようとする斎藤猫を両手で捕える。
「まあ、こっちは託宣がなくても俺がなんとかできるってことだろう」
 手足をバタバタ動かしながら騒ぐ猫の身体を、どうにか顔が土方の方を向くように持ち直し、その黄土色の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「斎藤、お前は頭も切れるし腕も良い、一本通った信念もある。俺の自慢の助勤だ。だからそんな風に喚き散らかして、手前の器を小さく見せるような真似すんじゃねえよ、わかるな?」
 姿形が変わっても、斎藤一は土方の最も信頼する隊士である。であれば、きっと伝わるものがあるに違いない。土方は持ち前の純粋さでそう考えた。
「な゛ゃ゛――――――っ!!」
 ダメだった。どうやら知能も小動物程度になっているらしい、信頼で脳を補えないのなら仕方ないかと、土方は持ち前の合理性でそう考えた。
「言葉がわかんねえなら……身体に思い出させるしかねえか」
 胡座をかいた姿勢で、今度は猫を後ろから抱え直した。に゛ゃあに゛ゃあとがなるように鳴き、爪も立てんばかりの斎藤猫だったが、土方がじっくり体温を移すように、両腕と身体で包み込むようにしてやると、徐々に大人しくなっていく。
「後ろから抱き抱えられるの、好きだもんなお前」
 そう言って猫の頭や耳の周りを、土方は高い鼻でそっと撫でるように刺激する。
「にぃ……
 そうすると、先ほどの荒ぶったものとはまるで違う甘えた声を出すようになってきた。気をよくした土方は、そのまま指先で猫の首元をくすぐってやる。斎藤猫の喉はごろごろと気持ちよさそうな音を出し、永倉犬と争っていた時とはまるで別猫のような態度である。
「お前、本当に身体の方は素直だな」
 自ら手にすり寄るようにまでなった猫の様子に、土方のいたずら心が刺激された。左腕で猫の身体を支え、右手で背筋を毛並みに沿って撫でてやると、猫は気持ちよさそうに息を吐く。そして何度か繰り返した後、尻尾の付け根のあたりをごく軽く叩いたり、くるくると撫でさする。
「にぁ、にゃぁん♡」
 とろけたような声で、もっともっとと身体をなすりつけてくる猫に、土方はいよいよ愉快な気分になってきてしまう。
「お前、猫になっても好きなところ変わんねえんだな」
 その時、背後でバタンと何か倒れる音がした。
 猫を撫でながら振り返ると、屯所に仕切りとして置いてあった衝立が倒れていた。
 いや、倒されていたのだ。衝立の向こうにいた、土方のよく見知った男に。
「斎藤に……永倉……?」
 本日二度目のその問いに、今度は応えがあった。
「い、いや俺は……! お前が部屋に入って来た時すぐ声かけるつもりだったんだよ! けど斎藤こいつが! 土方おまえが勘違いしてんの面白がって、しばらく見てようぜとか言うから、その……
 あたふたと弁明にもなっていないことを言う人間の永倉の横では、耳まで真っ赤な顔でぶるぶると震える人間の斎藤が拳を握りしめていた。
……じゃあこの猫と犬はなんだ?」
「いや放送も変身する霊基異常とは言ってねえだろ⁉︎なんか突然出てきたんだよ! つうかお前、俺がそのちっこくてふわふわした犬に見えたのか⁉︎」
…………大体同じに見えるが……
「どういう目と頭してんだテメーは!」
『解析結果が出たよ! 現在出現してる動物たちは、君たちサーヴァントの魔力の一部が形になったもののようだ。放っておいてもそのうち元に戻るけど、傷つけると身体に戻った時に悪影響があるかもしれない。自分の魔力でできた動物は大事に扱うように――
 全館アナウンスがそう説明する間も、犬はガムを噛んで尻尾を振り、猫は甘ったるい声ですり寄り、人間の永倉は手を忙しなく動かして挙動不審で、人間の斎藤はますます顔を赤くして涙目になっていった。
「俺……その……見回り! 行ってくっから! じゃあな!!」
 そう言って永倉は混乱したまま、自分によく似た犬を拾い上げてドタバタと屯所を後にした。残されたのは沈黙する人間二人と、幸せそうな猫が一匹ばかりである。
 猫の鳴き声ばかりが響く部屋はなんとも気まずい空気である。ここはやはり自分がこの雰囲気を打破せねばならないのだろうかと、土方は持ち前の責任感でそう考えた。
…………人間の方も、撫でた方がいいか?」
 そして、人間の斎藤によるネコパンチ(偽)が土方の脇腹に炸裂したのであった。