母と父が、互いに見つめ合ったまま燃える。兄が妹を、逃さぬよう抱えて燃える。視界の半分が、灼熱の温度と色彩で燃える。生まれ育った家が、派手な音と嫌な匂いを放ちながら燃える。
痛みで転げ回って、恐怖で泣き叫んで、それでも同じ様に生きようとする妹に手を伸ばす。必死に兄の腕を掴んで、炎から遠ざけようとする。しかし、兄の腕は妹を縛ったまま動かない。どこか満足そうな顔が、憎くて怖くて仕方がない。
ガシャン! 落ちた金属片を見て、考える前に身体が動く。熱された金属片を素手で引き抜けば、皮膚が焼かれる感覚が襲う。それでも懸命に破片を振りかざし、兄の腕に突き刺す。突き刺そうとする。寸前のところで、躊躇した。当然だろう。妹も愛しているが、兄のことも愛しているのだ。傷付けたくない。
その一瞬で、全てが大きく赤に包まれる。妹の悲鳴、両親と兄の笑い声。爆風に押し出される自分。何もかもを置いていく速度の絶望が、一切の希望を無理矢理に捨てさせる。視界も意識も、黒く黒く焦げていく。
病院で目が覚めた時、生きている安堵よりも先に喪失を実感した。腹と胸の間辺りの内臓が、丸ごとゴッソリ抜けた錯覚。空虚な穴があった場所に居たのは、助けようとした妹だけではない。あの狂った両親と兄も、確かにそこに存在していた。
ああ。過ぎ去った。失った。そうしてようやく、気が付いた。
自分は家族全員を愛していた!
インチキカルトに染まったあの狂人たちを残らず愛していたのだ!
欠落したこの空白が、魂を揺さぶるほど愛を証明している。笑みが零れる。涙が溢れる。醜悪な虫が、繭を破ってしまう。
怪物に成り果てたこの気味の悪い愛情は、いつか誰かを好き勝手に喰い荒らす。そうなる前に誰かを助けたい。
こんな虫以下の人間でも、きっと何かを成し遂げられる。今度こそ、失う前に叫ぶんだ。まだ出会っていない、出会えるかも分からない、そんな存在たちへそっと囁くんだ。オレの愛で、全てを貪ってやるんだ。
人でも神でも悪魔でも、同じ虫でも構わない。血肉を啜り、骨を齧り、内臓を千切り、心臓を呑み、皮を噛み、全てを分解する。その過程が悍ましくて恐ろしくて楽しみで仕方がない。次に愛を失えば、自分は確実に壊れる。この愛が裁かれる日も、遠くないはずだ。
と、長々と語ったけれど。寂しいことにその愛情は、贖罪すらも許されなかったけれどね。
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