nina_40enaga
2024-02-26 15:14:13
2327文字
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アルバスハイパーかわいいタイム




「アルバス、ちょっとごめん。かわいがらせて?」
 初めてそう言われたときには面食らったものだった。しかしスコーピウスにそう言われるのは初めてのことではない。アルバスは頷いて、スコーピウスに近づいた。すると彼の長い両腕が巻き付いて、あっという間に閉じ込められる。
 どうやらスコーピウスは疲労するとアルバスをかわいがりたくなるらしい。疲れている様子のスコーピウスに、「何かしてほしいことある?」と尋ねたとき、「かわいがらせて」と真剣な顔で頼まれたのには本当に驚いたが、スコーピウスはアルバスの頭を撫で回して抱きしめることで癒されているようだった。それからときどき、「ごめん、かわいがってもいい?」とすまなそうな顔で頼まれることがあった。そんな時はにやけだしそうになる顔を無理やり引き締めて、神妙に頷く。
「アルバス……
 うっとりと味わうように抱きしめながらスコーピウスが囁く。何度されてもどうしたらいいのかわからない。わからないのに身体から勝手に力が抜けていく。スコーピウスがどうされたいのかわからなくて、背中に手を回してみたり頭を撫でてみたりしたこともあるが、「できれば何にもしないでほしい」と頼まれたことがあった。そのときのスコーピウスの表情がいやに艶っぽくて、アルバスには忘れられなかった。スコーピウスはアルバスの性感帯をわざと刺激してくることはない。ただ抱きしめて口説き文句を飽きずに口にし続けるだけだ。アルバスのことを散々その気にさせておいてあっさり手放して「ありがとう」と言う。一連の行動にもやもやとする気持ちがないわけではない。しかしそんなもやもやが瑣末に思えるほど幸福を感じる行為だった。だからアルバスはスコーピウスに誘われるとどうしても断れないのだった。
「大好きだよ。本当に好き」
「うん」
「かわいい。もっと近くに来て」
 そう言ってぐっと抱き寄せられる。もうこれ以上ないくらい密着しているのに。抱きしめられたまま引っ張られて、ゆらりと体勢を崩しかけて、また元の位置に戻った。
「もうこれ以上無理だよ」
「うん」
 スコーピウスは顎をアルバスの肩に置いて、両手で背中や肩を撫でたりぎゅっと抱きしめたりする。両腕ごと抱きしめられているので何かしてあげたくてもできないし、どうやらそれは求められていない。すりすり、と唯一動かせる首を動かしてスコーピウスに頭を擦り付けるとスコーピウスの右手が頭に伸びてきた。頭を撫でろと催促したつもりではないのだが、そう受け取られたからと言ってなにか問題があるわけではなかった。
「ふわふわ、かわいい」
「そんなこと言うの君くらいだ」
「もちろん。そうじゃなかったら困る」
 スコーピウスがくすくす笑うと呼気がアルバスの首筋をくすぐる。スコーピウスの口元がアルバスの首のすぐそばにあるのだと意識せずにいられなかった。ドキドキと心臓が高鳴りそうなのを、なんとか抑える。こういうときのスコーピウスにその先の行為を期待しても無駄であることはアルバスにはわかりきったことだった。何しろ彼は大層まじめで、夜、シャワーを浴びたあと、翌日が休日の全ての条件が揃った時でないと行為に及んでくれない。泣いてねだっても、考えられる全力で誘っても、優しく微笑んで体を撫でてくれるだけだった。今は夕食のおよそ三時間前で、まったく彼が抱いてくれる条件は満たしていない。談話室からは賑やかな笑い声が時折聞こえてきているが、世界から切り離された二人は、部屋でただお互いのことだけを見ていた。
「好き……
 スコーピウスの口から溢れる言葉はアルバスの頭の中で甘美に響いた。何度言われても飽きてしまうことがない。初めてそう言われた時と同じくらい嬉しくて、飛び上がって駆け出したいくらいの喜びがアルバスの全身を満たす。スコーピウスの特別が、世界中でたった一人アルバスにだけ向けられている現実がくらくらするほどの陶酔感をアルバスに与えていた。
「ぼ、僕も」
「うん。知ってるよ」
 スコーピウスは優しい声でそう言うと、再びぎゅううっとアルバスを抱きしめた。
「かわいいね。もう少しここにいて」
「いいよ。いくらでも」
 求められることが嬉しくてたまらなかった。自分の居場所はここにしかないのだと確信と依存を深める。スコーピウスはそのまましばらくただアルバスを抱きしめ、背中や頭を撫で、手を握ったり離したり、顔を覗き込んで愛おしそうに微笑んだりした。その合間に「かわいい」「好きだよ」「大好き」と口説き文句を口にした。ずっと一緒にいようとか、そう言う言葉は意図的に避けているのかいないのか、口にすることはなかった。ただ溢れかえりそうな愛情だけがそこには存在していた。
「気が済んだよ。ごめんね。ありがとう」
 スコーピウスは謝罪と感謝を口にする。謝る必要なんかないのだ。アルバスはスコーピウスにこうやって愛される瞬間を何より心待ちにしているのに。しかしそれをうまく言葉にする方法が思いつかなかった。
「別に、いつでもいいよ。ほんとに」
「君は本当に優しい。またかわいがらせて」
 スコーピウスはそう言うとアルバスの額にちゅ、と口付けた。愛おしさでいっぱいの表情だった。それを見てしまったとき、アルバスは普段なら出せない勇気が急に心に漲るのを感じた。スコーピウスに心の中を全部満たされたからだ、と思う。
「ねえ、おでこじゃなくてこっちがいいんだけど」
 そう言って口を指さしてしまってから、流石にやりすぎただろうかと後悔するより一瞬はやく、スコーピウスは唇を重ねてくれた。満たされきった心のまま、アルバスはゆっくり目を閉じた。