果汁100%
2024-02-23 00:20:06
11787文字
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天ふみ R-18 ♡喘ぎ・濁点喘ぎあります

 身体がもたない。天彦と睦み合った翌日、疲労が色濃く残る身をぐったりとソファに預けたふみやは思案する。
 だいたい、睦み合ったと言えば聞こえはいいが、あんなものはほとんど捕食だ。昨日だって、自分にその気はなかったのだ。天彦のお誘いから、逃げられなかっただけで。まずい、と思ったときにはもう遅く、退路など選べない状態にされていた。
 天彦の誘い方は、あまりにずるい。晴れた冬空のような淡い瞳がどろりとした欲に染まって、耳心地のいいバリトンよりも雄弁に己を口説き落とす。熱の篭ったその視線にじわじわと体温を上げられ、性に陥落した記憶が刻まれる身体はそれだけで期待してしまう。駄目押しとばかりに名前を呼ばれる頃にはすっかり出来上がっており、自分のこぼした返事はひどく上擦って掠れていた。その後のことは、思い出したくもない。だってこんなに疲れているのに、うっかり天彦を求めてしまいそうになるのは御免だ。思い出すと欲しくなるだなんて、酒や煙草への依存と何が違うというのか。まあ酒も煙草もまだ、すんでのところでお預けを食らっているので知らないが。
 さて、そんなわけで天彦との行為は避けることが難しく、一度許してしまえば一晩中続く運動となる。さしもの十九歳も体力の消耗が激しい。そこでふみやは、一計を案じることにした。とは言っても、嘘を吐いて騙すような邪な作戦ではない。おそらく、ふみやでなければ真っ先に思いつくであろう正攻法。素直に理由を話して抱くのを控えてもらう、という当たり前の手段に改めて気が付いただけである。
 これは名案、と口角を上げるふみやは妙なところで純粋さの残る青年であり、そして天彦は人並み以上に経験豊富な大人だった。性的な方面に強い恋人を持つ認識が甘く、また自分が快楽に弱いという自覚も無いふみやは、今夜も無防備に二〇四の扉を叩く。



「待って天彦」

 それは、深夜二十三時頃。高級感のある丸いベッドに転がりながらスイーツの話や同居人達の話を楽しむ二人の間に、ふと数拍の沈黙が生まれた。頃合いかと天彦の大きな掌がふみやの頬を包んだとき、静かな声がその場の空気を止める。触れた手が頬をじんわりとあたためたまま、僅かに熱の灯る空色がふみやの表情を伺うように覗き込んだ。
 この目だ。この目にいつも流されてしまう。しかしこうなることはふみやも織り込み済みで、冷静に昼間練った作戦を決行する。広い背中へ手を回して抱きつくと、天彦の肩に顎を乗せて物理的に視線をシャットアウトした。こうしてくっついてしまえば、引き剥がそうとはしないはず。現に、ふみやの頬が離れて行き場を失った手は、戸惑いがちにオレンジ色の背へと添えられた。気付けばもう片方の腕も腰に回されていて、ひとまず天彦の目に誘われない作戦は成功である。あとは、制止されたまま抱きつかれて困惑している天彦に理由を話すだけ。なんだ、意外と簡単。回避を確信したふみやは、恋人からは見えないその位置でにんまりと口角を上げた。
「ふみやさん?」
……激しくされるの、しんどくて。だから、今日は休み」
 素直に言えた上、拒絶するような酷い言い方もしていない。完璧。表情の読み取りにくい青年は、心の中でガッツポーズを決める。そして、満足気に天彦の首筋へ鼻先を寄せて甘えてみせた。そう、休みたいのは、我を失うほどに貪り尽くされるセックスだけ。恋人との甘い時間まで休むつもりは毛頭ない。特に、この時期の夜は寒くて。独りで寝るだなんて、もはや考えることすら嫌になる。
 ひと仕事終えたような表情で天彦に甘えるさなか、やわらかな低音が年下の恋人の名を紡いだ。呼ばれた張本人は、首元にすりつけていた顔を離して視線を合わせる。そこには、なんとも申し訳なさそうに垂れた眉と、笑み。そうして形のいい唇が開くと、言い訳のひとつも零さず謝罪の言葉を響かせた。無理をさせていた自覚は、多少なりともあったらしい。
 しかしそれでは終わらないのが、ワールドセクシーアンバサダーである。でもね、これはお願いなんですが、と続く言葉は、ふみやの目を少しだけ見開かせた。通常であれば断れたかもしれない懇願。けれど、天彦の体温にしっかりと甘やかされ、今日はもう大丈夫と油断しきっていて。身も心も程よくほぐれたふみやは、つい、頷いてしまった。それくらいなら平気、なんて思いながら笑みを浮かべた口元には、あっという間に天彦の唇が重なって。喰らいつかれるのとは異なるやわい感触に、こんな夜も最高、と目を閉じた。



『少しだけ……くちびるや指で、ほんの少し。可愛がらせて、ふみやさん』

 はじめに囁かれた言葉の通り、今日の天彦はとても優しかった。キスひとつ取っても、呼吸も余裕も根刮ぎ絡め取られてしまういつもの激しいそれとはまったく異なって。やわらかな唇が、何度となくふにゃりと触れ合った。時折、ごく僅かに唇を食み、気を引くように軽く吸い付くものだから、擽ったくなったふみやは少しだけ笑ってしまう。口付けながら身体へ伸びる手にも、性的な含みを感じない。あたたかな腕に包み込まれて、甘く啄まれるばかりの時間に、うっとりと菫色の瞳がとけていく。
 完全に緩みきったふみやは、頬をそっと指の腹で愛でられても抵抗することはなかった。その愛撫が、徐々に耳の輪郭や首筋と敏感な箇所へ移ったとしても。たとえ、その手つきに、じわじわと性の色が混ざり始めても。
 産毛のみを撫でるかのようなフェザータッチは、ともすれば気付かないほど秘めやかな快感を生む。そうして、とろ火で炙られる身体は少しずつ体温を上げて、天彦の愛を受け入れる準備を整えていった。
……今夜はね。ここを可愛がれたら、天彦はとても嬉しいのですが。ふみやさんは、こんな風にされるの……いや?」
 やがて、窺う声色と共に指の先がつんと触れる。ふみやの胸元にひっそりと色づく二つの突起。その片方をシャツの上から的確に当てた天彦に、なんで分かるんだ変態、と悪態をつこうとして。指がくるりと小さな粒のかたちを辿るものだから、ふみやはつい、息を呑んだ。知らぬ間にたっぷり焦らされた肉体に、初めて明確に訪れた快感。それも一度きり、こんなふう、だなんて気持ちのいいことを匂わせるいじわるな指先。だけど、それでも。今日はこの甘ったるい雰囲気に溺れていたい。だというのに、今のひと撫ではひどく魅力的で。どうしよう、と紫の瞳が葛藤に揺らぐのを、天彦は見逃さない。
「ふみやさん。貴方の腰を掴んで揺さぶったり、おなかの奥の奥まで暴いたり。今日はそういうものは、無しにしましょう? 本当に、ここだけで。貴方を満足させてみせますから。……さあ、僕に委ねて」
 静かな声は、日頃与えられる強い淫楽を思い出すには充分だった。言葉が転がるのと同時に指も動き出して、再びゆっくりと胸の先をなぞる。ふみやは思わず、比べてしまう。いつもの夜と、今日の夜。どちらも気持ちがいいけれど、今夜はとろけるほど甘くて。絶え間なく注がれる淡い快楽に、ぼんやりと思考が霞む。
 天彦は、ここだけ、と言ってくれたから。いつものあんな、とんでもなく気持ちいいやつ、じゃなくって。こんなにふわふわした、あまったるいやつなら、いいかも。もっと、もっとほしい。きもちよくして、ほしい。
 くる、くる、と辿る指のように回転の遅くなったふみやの頭は、天彦の生み出す快感にすっかりと夢中になってしまった。誘われるからと見ないようにしていた空の色を自分から覗き込んで、甘い心地に惚けた表情を向ける。そうして、平生の堂々とした態度はどこへやら。やけにしおらしく、幼子のようにこくんと頷いてみせたのだった。



 円形のベッドの中心で仰向けに転がるふみやは、脚の間に天彦を迎えた。緩く膝を立てて恋人の胴を挟み、投げ出した手は時折シーツを握り込んで細かな皺を作る。ふみやがこうしてまな板の上の鯉になってから、十数分が経過していた。
 天彦の人差し指が、シャツにうっすらと浮いた両の胸粒を余さず撫で続ける。ずっと、ずっと変わらないペースでじっくりと、まるい形に沿って動く指先。それは飽きが来るほど単調だというのに、ふみやの呼吸はだんだんと荒くなっていく。我慢できないほどではないが、無視もできない刺激が延々と続いて。脳みそがはちみつ漬けにされている、なんて考えてみたところで、やっぱりそれは変わらなかった。けれど、もどかしさを堪えて内腿を恋人の脇腹に擦り付けたとき。ほんの少しだけ手元の狂った天彦のつめの先が、撫で回されて痺れた尖りを掠める。
「っあ、ぅ……
 それは、あまりにも甘美なもので。ふみやの口から、甘く酔いしれたような声が漏れた。腹の底に溜まるねっとりとした蜜が波打って、大人しくシーツに落ち着けていた腰をかくん、とあらぬ方向へ引き攣らせる。大仰な反応に口端を吊り上げた天彦は、四角い爪先を二つの先端へ宛てがった。その感覚だけでひゅっと喉を鳴らすふみやは、もう完全に出来上がっていて。期待と怯えの混ざる瞳で、自らの胸元と空色を交互に見つめる。
……しんどいの、嫌でしたよね。それじゃあ、天彦と一緒にがんばりましょうか」
「え。なに、なにがんばるの、待って」
「ふふ、いえ。気持ちよくなったとき、射精してしまうと辛いかな、と思うので。ねえ、ふみやさん。今、おなか、どろどろになっていますよね。甘くって、気持ちいいのがたっぷり詰まって。……今日はね、そこにだけ集中して。ふみやさんの"格好良くて男らしいところ"、今夜だけは忘れてしまいましょう。できますね? 貴方、出さない方が得意ですから」
 やさしく導く低音が、最後に少し、意地の悪い響きを持った。天彦に根気よく育てられてきた被虐心がそれを拾うのと同時に、二枚の大きな爪が布地ごと突起を擽り始める。撫でていた時と同じように、くりくりとまるく滑るそれに背筋を駆け抜ける悦。途端に腰が右へ、左へ、前へ。不規則に揺れては止まり、跳ねては止まる。お行儀よく天彦を挟んでいた肉づきのいい脚も、ベッドにまっすぐ寝かせたり、また膝を立て直したりと落ち着きなく動き続けて。ふみやの下半身は、溜まりに溜まった快楽の出口を探すかのように暴れ回った。胸からもたらされる喜悦を、どんな風に発散したらいいのか掴めない。青年が未知のそれを処理しきれずとも、天彦のつめの先は、一秒たりとも逃してくれなかった。丁寧に、執拗に、固くなった粒をなぞりあげる。弱いところを探るように、少しずつ位置や角度を変えながら。粘着質な甘やかしがよほど効いているのか、ふみやの呼吸は度々少しだけ止まってしまう。すると腹や尻の筋肉がびくびくと痙攣して、時にきつく強張って。そうしてやっと力が弛んだ時には、深く深く息をついて、なんてことを繰り返し、繰り返し。
 キスから始まり何十分と焦らされた身体が必死になって快感を掬い上げるものだから、ふみやは堪ったものではなかった。これが絶頂なのか違うのか、そんなことすらも曖昧になる。ただずっと、波が来て、引いて、気持ちのいい満ち欠けに翻弄されて。ふみや自身でも、あの天彦でも知らなかった甘え声なんかが出てしまって、二人の心の感想がシンクロする。こんな声、出せたんだ。
「ぁ、……っあ、ふ……ぅ゙、ッは、うぅん……♡」
「ああ……セクシーです、ふみやさん。お顔、とろとろですよ。ほら、僕の手元、見て。貴方こういうの、結構クるんじゃないですか? ……"これ"に狂わされて、どんな気分ですかね♡」
 ひく、と喉が動く。いざなわれるまま目をやった先には、ほとんど動いていない指があった。ふみやが虜になっている甘ったるい愛撫は、目にも素晴らしい妖艶な手つき、なんてことはなくて。爪先が五ミリも移動すれば大きい方、というほどの小さな小さな動きでしかなかった。人並みの羞恥心やプライドを持ち合わせる青年が後生大事に抱えていた『天彦がいつもえぐい性戯を施すから、負けてしまうだけ』という建前は、ぐちゃぐちゃに壊されて。見る見るうちに紫の瞳は濁りを増し、じっとりと据わる。かしこいふみやの脳みそは、被虐の悦びをそれはもうきちんと覚えていた。天彦の言う通り、こんなものを見せられたらたまらない。そんな身体になってしまっている。
「っうそ、うそだ。こんなの、ちがっ……♡」
「いいえ。貴方はさっきから、こんなもので。……ふふ。もっと見せてあげましょうね、ふみやさん」
 ふみやの否定をばっさりと切り捨てた天彦は、シャツ越しに尖りを摘んだ。ほとんど力も入っていない、ただ二本の指が粒に触れているだけの光景。恍惚の色を隠せずとろけた菫色の視線が、そこに釘付けになっていて。その表情に応えなければと、天彦は摘む指先を動かさずにほんの僅かな力の入り抜きで凝った粒の芯をねちねちとほぐす。
「ぅ、っそ、これ……っぁゔ、へん、変だって、ぇ゙……ッ」
「そんなことありませんよ。たったこれだけでそんなに気持ちよくなれるのは、素敵な才能です。さあ、よーく見て」
 動かない指にもてあそばれるのが滑稽で、情けなくって、どうしようもなく気持ちいい。相反する思いがふみやの心をぐずぐずにとかして、ひどく興奮させた。
 そうして悶える中、ふと今まで以上の快楽が押し寄せる。固さを持つ二つの芯が、揉みくちゃにされた。尖った核がぐにゃぐにゃとかたちを変えられ、性感をやさしくすり潰される。こんな強烈な刺激は、ねっとり円を描くような、いやらしい指の動きで。大胆に、激しく捏ね回されている、としか思えない。だというのにやっぱり、目の前の景色はほとんど静止画にも近くて。もっとも、さっきまでよりほんの少し、すり合わせるような手つきは見えたけれど。それでも、そんなちょこっとだけの蠢きに、ふみやは狂わされていた。それは、まるで自分ひとりで勝手に気持ちよくなって、乱れてしまっているかのような錯覚を起こす。そんな錯覚がもたらす羞恥は、間を空けずに濃厚な淫悦となって、ぞくぞくと背筋を這いずる。
 精神と肉体の両面から逃げ場なく追い詰められたふみやの両脚は、ぴんと伸びきって。ベッドから少しだけ、浮いていた。シーツを握り締める手も、なんだか制御が利かない。両方の肘がベッドに張り付いて、ぐっと力むものだから背中も不安定に浮いて。腹筋が酷使されるおかしな体勢は、天彦から集中するよう告げられたところを強く強く力ませた。ふみやは、上手く声が出せずに吐息だけで壊れたように制止を繰り返す。それも長くは続かず、あまりにも深すぎる絶頂が訪れるのに合わせて、唇がまあるく開いた。
「だめ……っだめだめだめ、ダメ、もっ、イ゙……ッく、…………っお゙♡ 〜〜〜〜ッ♡♡」
 尻の肉が長いスパンで緊張しては弛み、次第にひくつく間隔が短くなって。ふみやが頂点から降りかけたとき、天彦はそれを許さないとでも言うかのように二粒へと爪を添えた。小さな突起の中でもある一点だけに絞って、根元から先端までを優しくこそぐ。途端、ふみやは突っ張った身体を大袈裟にぎくんと強張らせて浮きっぱなしの脚で宙を蹴った。幾度か爪先を往復させてやると、甘い悲鳴と共に、菫色の瞳から涙がこぼれて。絶頂のさなかであることを差し引いても、過剰な反応。
 それは、天彦がつめの先で執拗に探りを入れていたときに、目星をつけていた箇所。ああやっぱり、ここが一番効くらしい。こんな小さな部位ですら、いっとう感じやすい部分があるなんて。セクシー。たまらない。エレクト。愛らしい痴態への興奮と、ふみやの弱点を見つけられた興奮が混ざりあう。当然のように天彦の天彦はずいぶん前から元気であったが、それをどうこうするよりも大きな悦びがここにあった。
 天彦の性への探求心は、無情にもふみやを一番気持ちのいいところに留め置いた。力強くも肉感的な若い脚が、膝を曲げてばたばたと暴れる。けれど、硬い爪がほんの少し官能を伝えてやるだけで、すぐに足の甲まで一直線に伸びきってしまう。
 何度か味わった甘く軽いそれと違って、今日はじめて迎えた深いオーガズム。その直後で極限まで感度の上がったふみやに、耐えられるわけがなかった。我慢しようにも、一度膝が伸びてしまうと、悦楽の波が押し寄せてくる。繰り返し弾ける絶頂感を味わうふみやは、立派な眉をうっとりと垂らして。半開きの唇からは、甘ったるい啼き声が止まらなくなっている。
 天彦は、感度の壊れた両粒にゆったりとつめの先を這わせながら、それに合わせてふみやの耳元にバリトンを落とす。恋人が悦ぶ言葉選びなど、とうに把握しきっていた。
「ふみやさん、気持ちいいですね……♡ ここです、ここ。ほ〜ら……かり、かり……かりかり……って♡ あは、止まりませんねえ。脚、ぴーんってなってますよ? イキたい、イキたいって必死なふみやさん、とってもキュートです。……ふふ、言われちゃうのたまらないって顔して。かりかりってされるの、完全にハマっちゃいましたねえ〜……♡」
「っくそ、それやめろ、って! ぅ゙あ、待っ、ぁ、っこれ、ぃく……ッ♡ っ……は、ッはーっ、はぁ゙……っは……ッあ、ァ゙、あっうそ、むりっ、イ゙く、ぁ、……っあ゙、ぁー……ッ♡♡」
 幼い言い方でじっくりと羞恥心を炙られたふみやは、ほんの僅かな悪態をつく。しかしそんな強がりは数秒ともたず、疼きに疼いた尖りを休むことなく可愛がる手に意識を持っていかれた。それくらいならいいか、とか、とんでもなく気持ちいいやつじゃないなら、とか。その認識の甘さを、身をもって知る。今夜も、『とんでもなく気持ちいいやつ』を嫌というほど味わってしまった。その上、終わりが見えない。こんなことなら、いつものように腹の奥を何度も突かれて気絶した方がマシだったのではないか。どろどろに煮込まれた脳みそが、うっかりそんなことを考えてしまうほど。こんなに何度も極まっているのに、強制終了すらも許されないなんて。体力切れも、失神すらもできない甘すぎる快楽を、少しばかり恨んだ。
 そんな極限状態にあるふみやに、天彦はそうっと囁きかける。
……ふみやさん。そろそろ脚、キツいですか? 最後に一回、思いきり気持ちよくなったらおしまいにしましょうね」
 やっと終われる。真っ赤に染まった耳で恋人の声を拾ったふみやは、一も二もなく頷いてみせた。幾度か首を縦に振ったところで、やっと言葉のすべてが頭で処理される。こいつ今、思いきりって言ったか。
 怯えの混ざる紫が捉えたのは、熱を孕んでどろどろに溶け崩れた瞳を淫猥に細めて、舌なめずりをする天彦の姿。脳も身体もすっかりバグを起こしている今のふみやにとって、それは刺激の強すぎる表情だった。目が逸らせないのに、見ているだけで息の上がるような。腹の奥底からぞわぞわと込み上げるような、そんな心地に息を呑む。やばいこと、される。もうやめてほしいのに、期待した顔を隠せない。捕食者の前で、ふみやは弱りきった身体を差し出すことしかできなかった。差し出したくって、仕方がなかった。
 天彦は、ふみやの両脇に四指を添えて。いっとう弱いところの付け根を、シャツ越しに大きな親指の爪で捉えた。そうして、今までの軽やかな指使いと違って、芯へ届くように僅かばかり力を込めて。もう、つめの先を当てる角度も、指を動かす速さも、掴みきっていた。ふみやのここが擽るのにも弱ければ、じっくり揉み転がされるのにも弱い、どうしようもない性感帯であることも。なにもかも、すべて。掌握しきっていた。
 今まで味わった快感を一気に与えられることを察して、まさか、まさか、と恐怖心と渇望の混ざった愛おしい表情を見せるふみやを、にんまりとした笑みで眺めながら。天彦は爪の甲をほんのちょっと、動かして。どうしようもない性感帯の、天彦でなければ気付かなかったであろう一番感じやすい一点を、ぞり、と掻きほじる。爪でかしかしと気持ちのいいところを甘くけずって、芯をやわらかく捏ねくって。ふみやを、堕とす。
「待……ッ、っお゙♡♡ ぉ、っあ゙、それ、そぇ゙ッ、ん、んん゙ん……っ♡ つぶ、すの゙っ、ァ、あ、っしぬ゙……ッんぉ゙、っお゙、ふ……ぅ、ッお……ぉ゙〜〜……っ♡♡」
 本気の咆哮が耳に心地良く、天彦は恍惚とした笑みをこぼす。ふみやの内腿が、左右から天彦の胴体を強く挟み込んでいた。若さ故の張りと筋肉を兼ね備えた肉付きのいいそれは、加減もできずにぎゅうぎゅうと締めつけてくる。さすがに少し痛い。それでも、この青年が身体を自由に動かせないほど乱れきっている姿に、天彦はひどく満足していた。ふみやのすべてを見届けるべく、腿から足先へと視線を走らせて。自身でも驚くほど、熱い呼気が漏れる。浮いた脚が暴れている気配はずっとあったけれど、肉眼で捉えるとあまりにも淫靡で。力んだふくらはぎが、ぽっこりと丸く張り出している。そうして、膝下の太い骨から足首を通って、親指の先まで。指が白くなってしまうほど力を込めて、一直線に伸ばしていた。それだけでも絶景だというのに、限界まで伸び切ったつま先が時折ビクッと跳ねて上下に振れるものだから、たまらない。ふみやの制御下から完全に外れたその動きに、鳥肌が立つ。こんなにも男らしい身体を持ち、それでいて信じられないほど愛らしい恋人を。快楽で征服しているのは、この天堂天彦だと。その自覚に、興奮に、天彦は大きなその身をぶるりと震わせた。
 ひとしきり愛しい子の脚を堪能した獣は、視線を前に戻す。これもまた絶景だった。肘をついて背中を浮かせていたふみやは、精一杯の抵抗のつもりなのか、右の腕に体重をかけて必死に身をよじっている。どちらの手の先も、シーツを固く、固く握りしめていて。左手など、その白い布地を引き千切らんばかりの強さで力任せに引っ張っていた。桃色に染まる喉を大きく曝して仰け反る姿は、逃げを打っているのか見せつけているのか。天彦が背筋を伸ばしてふみやの顔を覗き込むと、きつく寄せられた太眉の下で菫色が焦点を失って、瞼に半分隠れかかっていた。だらしなく開いた口の中で、ねっとりと唾液をまとう赤い舌が僅かに上を向いている。その先端がつんと尖っているのを見るに、相当力が入っているらしい。雄々しい声が止まらないふみやの、ほんの少しだけ下品と言えるその表情も、また。天彦にとっては、極上のセクシーに他ならなかった。
「っは、ぁ゙ッ……♡ はっ、は、ん゙ふ……ッは……はぁ、はっ、ふー……っぁ……
 大いに満足した天彦がようやく弄るのを止めて宥めるようにやさしく粒を撫でてやると、ふみやはやっと、かかとをベッドに下ろすことができた。シーツに投げ出される身体が呼吸に合わせて膨らんではしぼみ、そうして短く吐き出される息は震えていて、甘い。弄られすぎて痺れる胸を指先で慰められ、熱が引かないふみやはたびたび腰を跳ねあげる。へこ、へこ、と前後するそれはあまりにも目に毒だった。おまけに、どうやら余韻イキまでしているらしいふみやは、時折ベッドの上で可愛らしく脚を突っ張らせていた。今更恥ずかしくなったのか、背けられてしまった顔もまだまだとろけていて。へたりと垂れた眉に、力の入っていない濡れた瞳。酸素を取り込むのに必死で閉じられない唇から、飲み込めなかった唾液が細く枕へ垂れている。その様子は、常日頃見ている事後とさほど変わりない。いかに本気で昇り詰めていたかが伺えて、天彦は自身の持つ空色の瞳がぎらつくのを抑えるのに忙しかった。
 乱れた黒髪を大きな掌でそっと撫でると、恍惚とした紫が嬉しそうにきゅうと細められて。天彦は、ますます悶々とした欲が増していくのを感じた。とは言え、しんどいと言わせてしまうほど前日に無理をさせていたのであれば、やはり程々にやめるべきだろうか。世間一般的には既にかなりやりすぎの域ではあったが、性のカリスマは気付かない。葛藤する天彦をよそに、話せる程度にまで落ち着いたふみやが口を開く。
……さっきのやつ、なに。あの……なんか、すごかった……
「え、ああ……。ふみやさんの、とびきり気持ちいいところ、ですよ。天彦、見つけちゃいました」
…………おれの、とびきりいいとこ……
 そのとき、露に濡れて煌めいていた菫色にじっとり重い欲の色が差したのを、天彦はしかと見てしまった。そして、ひっそりと溜息をつく。このいじらしい恋人は、弱点を暴かれるのが大好きな変態さんだった。うっかり素直に答えてしまったために、ふみやはもうその気になりつつある。可愛い。これは仕方ありません、さすがに天彦悪くない、いえ返答は確かに悪かったけれど、と心の中で言い訳をしながら。期待に応えたい男心と自分の欲望がぴったりマッチした偶然に、先ほどまでの葛藤を放り投げて。天彦は、再びふみやの胸に手を伸ばした。


▶▶▶


おまけ:『誰に向かって話してんの』

 あの後、ふみやさんを可愛がりながら、彼の好みを探りました。やっぱり、僕の見つけたところが最も弱かったようで。今後もたっぷりと、愛していきたいですね。
 ……少しだけ、あのときの様子をお教えしましょうか。ふみやさんはね、ちょっとだけ意地悪をされるのが好き、だなんてセクシーなところがありまして。意外でした? 捕まってしまっただとか、やめてもらえないだとか、そういった要素があると燃え上がってしまう質なんです。可愛らしいですよね。ですから、触り方や言葉でほんの少し誘導してあげると……それはもう、愛らしくってたまりません。あのときも、彼の乳首を摘んだ指で、ちょっとだけ爪を立てて。ふみやさんの一番気持ちのいいところを、入念に掻いて差し上げるのがいっとうお気に入りでしたよ。指や爪で優しく……根元からほじくって、先っちょまで丁寧に扱き上げるのがいいですね。それに、紙縒りを作るみたいにすりすりと側面だけ擦ってあげるのも覿面でした。どちらも服越しにできるので、肌を痛めないのが安心です。この二つを交互にずうー……っと続けて、なんでしたかね……ああ、確か「つままれちゃって逃げられませんね♡」と声をかけまして。そのときのふみやさんったら、もう。天彦、思い出すだけでイッてしまいそうです。半狂乱になって、あんなに泣きじゃくって……ふふ。驚きました? 彼のそんなところ、見たことがなければ分からないでしょうから。僕にしか想像のつかない顔ってセクシーですね。あの姿を全世界に公開しないことは、世界の損失だと感じるワールドセクシーアンバサダー心もありますが。……トップシークレット、というのもまたセクシー。なによりこの天彦、世界セクシー大使としての顔以外に、伊藤ふみやさんの恋人、という大切な顔もありますからね。独占欲だってあるんですよ。大人気ない? ありがとう。時に余裕のないところを見せるのもいいスパイスだと思っています。おっと、話が逸れましたね。そうそう、ふみやさんがしばらく後遺症のように反応していた言葉がありまして。あまりにもセクシーで、部屋から出さないでおこうか真剣に悩んだんですよ。あのですね……かりかり、と囁くだけで、腰が立たなくなってしまったんです、彼。そうなったときは、決まってお顔も可愛らしくなってしまっていて。天彦にめちゃめちゃにされたい、と訴えるような目で、見てくるんですよ。たまらない。我慢しろなんて殺生な。まあ、ふみやさんは気まぐれキャットなので後から拗ねるんですけどね。あれは僕が悪いんでしょうか。天彦分かりません。
 ああそういえば、もうひとつ。服の中に手を入れても叱られなかったので、少しだけ触ってみたんですが……どうもシャツの上から引っ掻かれるのにハマってしまったようで。服を着たままシたいとねだられることが増えました。あ、これふみやさんに聞かれたら怒られますね。僕が脱がそうとするのを止めた結果、着衣のままになっているだけでした、失礼。……なあんて言い訳、いつまで続けるつもりでしょうね? ふふ、もうしばらくは許してあげようと思います。
 さて、次はなにをしましょうか。少し興味があるのは、歯ブラシなんですよね。やわらかいの、あるでしょう? ふみやさんはかなり敏感なので、やわらかいものでじっくりと磨いて差し上げたらどうかなって思ってます。視覚的には直接、が素敵ですが……あの様子だと服は着ていた方がいいかな。彼次第ですね。何百本の毛先を前に、よわ〜いところを曝け出して"逃げられない"なんて、ふみやさん大悦びなんじゃないでしょうか。きっとね、僕がこのお話をして、歯ブラシの一本でも見せたらイイ顔をしてくれると思います。物欲しそうな、期待にまみれたお顔、大変セクシー。ああ、興奮してきました。ふみやさんのお部屋に遊びに行っちゃおうかな。