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倉木
2024-02-22 21:56:30
3042文字
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何事にも予防っていうのは大事だ。
あらゆることを想定していれば咄嗟の事態でもどうにかなる。
そう言ったことを考えることが多い立場だし、想定した回避方法が合致した時の快感はそう味わえることではないの。
でも、だからと言ってそんな常日頃用心して過ごしているわけじゃない。
むしろ自分の事柄に関して無頓着過ぎるとたまにお叱りを受けるくらいだ。
そう、つまり今回の事態は自分の怠慢が招いたことなのは大いに理解している。
「う、わわっ!」
突然バチバチと音がして、顔を上げた瞬間火花が散った。
慌てて席を立った拍子に膝をしとどに打ち付け、痛みに呻きながら積み上がった機材に向かう。
未だ燻った煙を上げる箇所を見ると老朽化したケーブルから漏電してしまったようだ
最後の灯は触れた指先のちりりとした痛みと共に煤けた色に変わる。
埃の溜まった中で他のものに引火しなかったのは奇跡に近い。
溜息を吐いて未だ唸りを上げていた機器の電源を落とした。
修理の為に取り出すには組み立てパズルのように積み上がったこれらを安全に下ろさなくてはいけない。
その前にこの埃被ったエリアの掃除からになるだろう。
流石にすぐに何かをするには、考えるだけで気力がすり減る作業だった。
肩を落として外に出る。
リビングからは騒いでいる声が聞こえる、声を聴くにラファエロとミケランジェロがゲームをしているのだろう。
加わっても良かったが、今はちょっと騒ぐ元気はなくて逆方向に足を向けた。
下水に繋がる途中の通路、ふと足を止めて座り込んでみた。
外に出るわけでも部屋に入るでもない、中途半端な場所。
くつろぐような場所ではないのだが今はこれくらいがちょうどいい気がした。
うまくいかない時は重なるもので、思いもよらないタスクの停止が自業自得にはならずとも多少は落ち込むもの。
水流は心を落ち着かせるなんて言うものだが、その源が下水なんだからそれはそれでお似合いなんじゃないか。
まあ良い、どうせ少し休んだらまたやることやらないとだし。
「珍しいな、こんなところで」
突然頭上から聞こえた声と、視界に映る足の先。
顔を上げれば然とした様子でレオナルドがいた。
そう言えば修行がてら見回りに行くって言ってたような気がする、ちょうど帰ってきたのだろうか。
「別に、たまには一人になりたいときだってあるよ」
間違ってはいないが本質とは逸れた回答に、レオナルドはそれ以上何かを追及することはなくそうか、とだけ言った。
気を使ってくれたのはわかり、ありがたいが気を遣わせたことにまた少し嫌になる。
「
………
ねぇ、僕の話聞いてた?」
しかしそんなドナテロをよそに、レオナルドはそのまま隣に腰かけた。
湿った地面にしっかりと腰を据えているが気にした様子もなく、ドナテロの言葉にレオナルドは微笑むのみだ。
「いないものとして扱ってくれて構わない」
そう言って、本当にそのまま剣の手入れを始めてしまった。
「無茶なこと言わないでよ
…
」
ここがどちらかの部屋だったりすればなんともない光景だったが、場所がくつろぐには向いていなさすぎる。
なんにもないところで二人揃って何してんの?なんてミケランジェロが今にでも顔を覗かせそうな場所で、しかもそれに明確な回答も出せない。
しかしこうなったレオナルドは何を言っても聞かない。
面倒なことから一時的に逃げただけなのになんでもっと面倒なことになってるんだろう。
そう遠い目をしたところで、横目にレオナルドがこちらを向いていることに気付いた。
否、レオナルドが見ていたのはドナテロの手元。
「ちょっと赤くなってるぞ」
そう言って掬うように手をとり、顔を寄せた。
「待った待った待った!なんでそうなるんだよ!」
唇が触れる直前、慌ててその顔を掴んで引き離す。
「いや、ちょっとした怪我は舐めとけば治るってラファエロが言ってたから」
「治らないよ!怪我したらちゃんと言ってね!?」
どんな言動で丸め込まれたのだろう、不服そうなレオナルドはまだちょっと納得してない顔をしている。
素直なんだか頑固なんだか、ほんとたまによくわからなくない。
赤くなった指先はケーブルを弄った時に軽く傷つけたのだろうが痛みもないし、自らの治癒力を思えば今更処置する方が面倒なくらいな程度のものだ。
「
……
あのさ、いつまで掴んでるの?」
いつの間にか愛用の武器は壁に立てかけられ、右手を擦る指は6本に増えていた。
怪我した部分には触れないようにしているが何度も揉まれていると落ち着かなくなってくる。
「ああ、すまない。つい」
そう言ったものの、手が離れる様子がなく。
しばしの沈黙の後力が緩んだ隙に引っ込ませると、一瞬表情が寂しげに浮かんだことに気付いてしまった。
「
……
ほんと、無意識にやってるのが腹立だしいよね」
自由になった手で頬に走った裂傷に手を伸ばすと痛みがあるのか微かに目尻が震えた。
外で何かあったのか、なんてわざわざ聞く必要もない。
抱え込まれるのは嫌だが根掘り葉掘り聞くのもそれはそれで違うと思うのだ。
現にドナテロだってここにいる理由を強く問いただされるのは御免だった。
「
……
俺がしたいことをやってるだけなんだがな」
些細なことでも生まれてしまった不安は、ひとりでは抱えるには重すぎる。
そう思っていたのがドナテロだけじゃなかったこと、彼が隣に来たときからなんとなく気付いてた。
レオナルドなりに励ましているつもりだったのだろう、もしかしたらその様子では自分の感情の起伏にすら気付いてないかもしれない。
清廉潔白であろうとするがゆえ、自分の感情をたまに顧みないところがあるから。
そして残念ながらいいようのない不安はレオナルドが来てからいつの間にか時間とともに溶けだしている。
捨てられた子犬のような顔をしているのは今は目の前の彼だけだ。
「はいはい、そういうことでいいよ」
そう言いながら立ち上がる。
見上げているレオナルドの方が呆気に取られているが、目の前の彼のようにいつまでも不貞腐れているわけにもいかなかった。
凹みやすいが立ち直りも早いことはドナテロ自身自覚している。
此処は休むには最適とは言えないし、さぼりすぎると埃に塗れて夜を凄くことになってしまう。
ひとり取り残されるのを恐れてか、そそくさと剣を仕舞うレオナルドに声をかけた。
「あのさ、この後大掃除するから手伝ってくれない?」
そう言うと、レオナルドは一度驚いたように目を見開き微笑んで勿論、と返した。
うんうん、気を紛らわすには身体を動かすのが一番だって言うよね。
彼なりの精一杯の甘えであるのなら、それは受け止めてしかるべきだ。
促すように連れてきた部屋はまだちょっと焦げ臭かった。
その惨状に少し頬を引きつらせ、思わずとばかりに一歩引いた背をドナテロは抑える。
「すっごい助かるよ、お兄様」
結局残りの兄弟を巻き込み始めた大掃除は全てが片付くまでは2日かかった。
きっちり最後まで付き合ってくれたレオナルドは大分疲弊していたが、どことなくすっきりした顔をしていた。
結局その間のことはレオナルドの口から語られることはなかったけれど、それでよかった。
「なんだか、言いように利用された気がするんだが」
「気のせいだよ」
なので終わり良ければ全て良しってこと。
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