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happasent
2024-02-22 13:27:01
2928文字
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大学とか通うようになった辺りの秋葉の話
こいつの話書くとマジ明るくなることなくて草
脳が一番最初に認識したのは、ブレーキの甲高い音だった。
余韻のように頭の中に反響して、少しずつ意識が他を受け入れる余裕が出来る。
次に入ってきたものは、自分が見上げる夕暮れの空。茜色に染まったそれは、大層綺麗に感じて、それを遮る雲さえも風情を感じる。
次第にズキズキと肩と背中、後頭部が痛み始める。地面の感触はコンクリートだ、こんな所に身体を打ちつければ痛いに決まってる。
腕の中にいる子供が大声をあげて泣き始めた。ぱっと見た感じでは大きな怪我はなさそうに見える。
何泣いてんのよ。あたしの方が泣きたい気分なんだけど。そう言いたくなるのをグッと堪えると、そんな事を思ったあたしを責めるように道路に転がったサッカーボールがあたしの頭を小突く。
少し言った先で止まった車から、男の人が降りてきてスマホでどこかに電話を掛けながら、焦った顔でこう聞いてくる。
「君たち、大丈夫か!?」
「今月に入ってもう3回目だよ、遠乃木さん」
「すみません、重音先生
…
」
薬品の匂いが漂う医務室では、重音と呼ばれた女性が呆れた様相で遠乃木 秋葉の頭に包帯を巻いていく。
上着を脱いだ彼女の体には他にも背中や肩に包帯が大きく巻かれており、端正な顔立ちを歪めるように大きなガーゼも頬に貼られていた。
重音が不機嫌そうに秋葉に言葉を掛けるのには理由があった。
まず今月の1件目。街中を歩いていると工事中のビルの高所から作業道具が落下。近くにいた男性を助ける為に秋葉はその男性に対して飛び込んだ。
秋葉、男性共に大きな怪我はなく、重音自体もこれにはなんの文句もなかった。当初は立派な事をしたものだと誉めたくらいだ。
次に2件目。坂道上でベビーカーから母親が手を離し、ベビーカーが坂を下っていってしまった。
偶然居合わせた秋葉はベビーカー正面で抱くようにしてベビーカーを静止。ベビーカーに乗っていた子供に怪我なかったが秋葉は複数箇所に打撲、親指を脱臼した。
これも決して悪い事とは言えない。けれど秋葉の身体能力を考慮すれば両方助からない可能性の方が大きいと重音は注意した。
そして今回の三件目だ。内容としてはボールを追いかけた少年を助けたという美談ではある。運転手が低速で走らせていたのもあり、今回の場面は車は止まれていた。勿論あとブレーキが1秒でも遅れていたら子供は轢かれていたかもしれない。しかし結果論として秋葉は無駄な傷を負った形になる。
重音が気に入らないのは秋葉が救助活動に積極的なことでもなく、よく事故現場に遭うことでもなかった。
彼女は『事後が自分の目の前で起こって良かった』と思ってすらいそうな所が危うく感じていた。
「貴方がそういう事を見過ごせない性質なのはなんとなくわかってきたけれど、貴方は少し自分の身のことも考えなさい。
貴方に何かあって悲しむのは身近な人よ」
貴方にも心当たりはあるでしょう?と付け足すと秋葉は痛いところを突かれたかのように表情を歪ませる。
気の強く優しい彼女には、彼女自身ではなく周りの人の事を考えさせる方が薬になる。それは重音が一年以上彼女と関わり合って知り得た事だった。
「貴方が死に急いでる、とは言わないわ。けど間違いなく生き急いではいると思う。
それはきっと、あの村の出来事があったから。」
「
……
」
図星を突かれた秋葉はそっと表情を暗くする。重音は村の事は彼女の知り合いと、その知り合いが助けた生き残り二人からでしか知らない。それでも深淵を知る重音にはある程度の想像はつく。
秋葉は俯いた顔を上げる。表情は暗いままだが、それでも彼女なりに何かを伝えようとする。
「先生、あたしは
…
」
「おかえり」
「
………
ただいま」
処置を終えて帰路についた秋葉。玄関の扉を開ければそこには自身の同居人であり、最も親しい関係である美琴が両腕を組んで仁王立ちしていた。
その顔は到底帰りの遅い秋葉を待ち望んでいたようには思えず、今からお前を詰めに詰めるから覚悟しろと語っていた。
秋葉もそれを感じ取れない程鈍感ではない。萎れた顔で奥のリビングを指差し、座って話さない?と提案した。
リビングにある食卓テーブルには向かい合って椅子が一対用意されている。秋葉は手前の椅子を引き、美琴に座るように促すと自分は逃げるように奥の席に座った。
美琴はその一部始終を見た上で引かれた椅子を持ち上げて秋葉の隣に移動させて、そこに座った。困惑した秋葉をよそに美琴は席に座り、秋葉の肩に頭を乗せた。
「重音先生に怒られたんでしょ?じゃあ私からはもう言わないよ」
「
…
ごめんね。」
いつにも増して申し訳なさそうな秋葉の声を聞いた美琴は、少し笑って続けた。
「けど、あんまり危ないことはしないで欲しい。私、秋葉がいなくなるなんて考えたくないから」
「
…
言ったでしょ?ずっと隣にいるって」
「
……
じゃあ教えてよ。なんで無茶ばかりするの?」
「
……
ごめん」
「
…
謝ってばっかり。」
静寂のなかの秒針の音だけがこの場を支配する。秋葉のバツの悪そうな顔は気落ちした美琴の顔を更に暗くさせた、
美琴にとって秋葉はそれなりに長い付き合いだ。最近では一緒に暮らしているのも相まって、なんとなく何を考えてるのはわかってくる。
別に秋葉は美琴に対して後ろめたい事がある訳でも、意地悪をしたい訳でも、その内容が話せない訳でもない。ただ、今の秋葉がその内容を正しく美琴に伝えられる自信が秋葉自身にないだけだった。そしてそれは秋葉が美琴を傷つけないように気を遣っていることも。
美琴もそれを理解しているから、強くは言えない。そして聞けない。こうして肩を寄せ合って、いつか話してくれる時を待つしかない。美琴の右手と秋葉の左手が机の下でぶつかり合い、そうしてそっと握り合う。
秋葉の不安と、私の不満。それがいずれ溶け合って、この手のようになればいいのに。美琴はそう祈らずにはいられなかった。
神様が居ないことなど、彼女はとっくに知っているのに
先生、あたしは
…
生きてるんだ。
こんな怪我、村に居た時はすぐに治ったの。
上から何かが落ちてきても、指が取れたって、あの時なら多分、すぐ治ってた。
多分車に轢かれても、死にはしなかったと思う。
だけど、あいつは死んだ。私の目の前で死んでた。
まだ少しあったかくて、けど、息してなくて、ちゃんと死んでた。
この世界で生きてる人は、簡単に死んじゃう。それは普通になったあたしも変わらない。
でもあたしの目の前で、誰かの人生がなくなると、その人とその人の大切な人が私と同じ気持ちになると思うと、いても経っても居られなくて
体が動くんだ。助けられなくても、動かなかったら絶対後悔する。
…
貴女が死んだって、悲しむ人はいるのよ。
分かってる!分かってるけど
…
!
でも、精一杯生き抜くって決めたから!みんなにそう誓ったから!
それって
…
後悔しないように生きるってことでしょ
……
?
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