いまち
2024-02-21 21:03:37
1718文字
Public
 

蝙蝠と雛鳥の共に過ごす夜

そのうちちゃんと直す

 夜の宿屋の一室、ランプすらない安宿ではカーテンの隙間から差し込む月明かりだけが部屋の中を照らしている。
「ガキじゃねェっつったのは手前ェだろ?」
「そー、ですけど……えぅ」
「ならとっとと腹ァ括れ」
 普段は甲冑を纏っている男は中着のみで、憮然としながら目の前で縮こまる女を睨め付けた。
「えぅ、でも、その、私こういうこと……
 初めてなので。そう消え入りそうなそうな声で呟く女に、男はため息をついた。
「あンだよ、やっぱガキじゃねぇか」
「こ、子供じゃないです! 一応……
「ならいいだろうが」
「うえぇ」
 そんなやりとりを何度となく続け、ついに痺れを切らした男はいっとう大きなため息を吐くと、着ていた中着を肌着ごと脱ぎ捨て、そのまま女を組み伏せた。
「ぴっ!? あうぅ……
「くくっ、男の裸を見るのは初めてか?」
 やっぱりガキじゃねぇか。目を白黒させる女を面白がりながら、男は女のブラウスに手をかけようとした。すると、先まで騒いでいた女が急に大人しくなったことに気付く。
 まさか気絶したんじゃあるめぇな。だとしたら興ざめもいいところだ。
 そう思い女の顔を見ると、女は困惑した様子もなく、じっと男の腹に目を向けていた。
……あンだよ」
「えっ」
 腹を括った様子もなく、けども急に大人しくなった女に男は眉間に皺を寄せた。そこにはわずかばかりの劣等感が浮かんでいた。
 男は他の兵より背も低く、決して身体も大きいわけではない。それでも任務に支障がないため、これまで気に掛けることもなかった。
 けれど、女と番ってみて、そこにわずかな葛藤が生まれた。人間の女は厳つい男を好むと風の噂で聞いたからだ。実際、女は隊でも一番の体躯を誇るバウルに懐いている様子を見せている。
 それに対し女は「とても似ている友人がいるから親近感を抱いているだけ」であり、好意などはないと断言していた。
 男もその時はそういうものかと女の言葉をそのまま受け取り、気に留めていなかった。けれど時間が経つごとに、女のバウルへの態度が雄への好意からくるものなのではないかと疑念が湧いた。
 口では否定するものの、実際はどうなのだろう、と、疑問を抱いた。それは今の今でもずっと燻っている。
 だからこそ、今の、自身の身体を見て緊張が解けたような顔をする女が癪に障ってしまったのだ。雄としてのプライドにヒビを入れられたので。
 男のそんな葛藤を知る由もなく、女は男の、先までとは違う雰囲気の不機嫌さに気付き、内心首をかしげた。
 けれど、短くない間、男を側で支えてきた女だ。見た目ほどの阿呆でもないため、男が何かしらの誤解をしているのだと漠然と察した。
 何を誤解しているのかは分からないものの、早急に解かねばと思い、おずおずと男を見上げた。
「リリアさんって胎生なんですね?」
……。は?」
 急に頓珍漢なことを言い出す女に男は呆れ声を上げた。
「えと、胎生っていうのは、ママのお腹で育って生まれる赤ちゃんのことで」
「それは知ってる」
「あの、だから、リリアさんもママのお腹から生まれたんだなーって」
「顔も知らねぇけどな。それがどうした」
 わけの分からない話をしみじみ語る女に男は呆れた。ついでに見た事もない母親の話をされて少し気は萎え始めていた。
 そんな男をよそに、女はぽっと顔を赤らめた。
「だから、そのぅ……私、リリアさんの赤ちゃんを産めるんだなって、その、思っちゃったんです」
 恥じらいながら紡がれた言葉を受け、女の肩を押さえる男の手に力がこもった。このままコトを進めれば、そうなる可能性は十二分にある。
 だからといってやめる気は毛頭なかった。そもそもやめる理由にはなり得ないのだけれど。
……お前、赤ん坊が欲しいのか?」
「そー、かもです」
 くすぐったそうに笑う女に、男はいたずらっぽく笑った。ついでに萎えた気を持ち直した。
「ガキがガキこさえようってか?」
「リリアさんは子供と子供を作るんですか?」
「言いやがる。泣いても止めねェぞ」
「臨むところです」
 はにかみながら言い切った女に男はほんの少し、口元を緩めた。