いを
2024-02-21 20:58:50
1782文字
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ワードパレットまとめ3

ワードパレットお借りしております。 それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

歩幅、溶けて(ブツメツフツマ/無告と公紲さん)

 私の左側を歩いている公紲を耳で感じる。靴がコンクリートの道路を叩く音だ。すこし、足音が細かい。左の手にあたたかいぬくもりを感じる。
……無告くん」
 まだいとけなく、ほんの少し高い声を聞いて足を止めた。私は彼を見下ろし、首をかたむける。
「どうしましたか。公紲くん」
 目を細めた。彼はそれを見上げる。近くで蝉が鳴いている。もう夕暮れだからひぐらしだろう。カナカナと、特徴的な鳴き声が私の耳に届いた。そしてきっと彼の耳にも届いただろう。私たちは今、同じ時間を生きているのだと信じることができた。まだちいさな手。私はこの子が――せめて私と共にいる時だけは楽しいと思ってくれるように、笑ってくれるようにと願っている。私はこの子の目線に合わせるように、腰を折った。夕日に照らされた薄紫色の髪の毛がきらきらと輝く。その髪の毛にそっと手のひらを差し入れて撫でた。子ども特有の、あまり痛んでいない、さらさらとした髪だった。
「大丈夫。悲しかったら悲しい、と言ってください。私はそれを咎めません。人間にとってそれは、必要な感情なのですから」
 彼はそのとき、どんな表情をしていたのだったろう。深い影を落とし、彼の顔を覆っていたように思う。
 
「黛先生?」
 窓から差し込む光が私の右目を焼いた。思わず手のひらをかざす。彼は振り返り、目を細めて私を見て「先生」と言った。外からもれる日の光が、窓の輪郭を溶かすようにゆっくりと揺らいだ。きっと風が出てきたのだろう。
……今は、悲しくありませんか。隠岐路さん」
 彼の髪の毛がさらさらと風に乗って揺れる。逆光で表情はよく見えない。けれどこの子が今、悲しくなければいい。



手と、蝶のはばたく音(刀神/寄子と灰さん)

 蝶がひらひらと目の前を横切る。春の音が聞こえてきた。寄子はそれを見上げて、人さし指を蝶にむかって差し出した。蝶はその指に反応して、翅を休めるようにとまった。この蝶たちは寄子がつくった式神だ。目がチカチカとするような原色の色の蝶。寄子が指をおろすと、式神はまた空を舞った。青空に赤、青、橙の蝶がまばらにはためいている。数はちょうど十。ふと視線をおとすと、茶色の髪の男性を見かけた。
「灰さーん!」
 と、言ってからしまった、と口に手を当てる。今ちょうど、蝶の式神の精査をしていたところだ。けれども灰は寄子の声に振り向いて、手を振った。
「寄子さん」
「あ、えと。これ、式神でね、実験をね……
 彼は分かっているよ、というように目尻を下げた。
「大丈夫」
……ほんと? ならよかった」
「たくさんつくったんだね」
「うん。もっと高いところを飛べるようにしたいんだけど……。あ! ラルゴは元気?」
 ふっと微笑んで「元気だよ」と言った。寄子が前につくった思業式神。式神に「元気」という言葉は通じないかもしれないけれど、灰がラルゴを重宝してくれていることは知っている。
「今度、ラルゴに聴覚認識の組織も練り込みたいって考えているんだけど、どう?」
「そんなことできるの?」
「こう見えても下緒院ですから!」
 寄子は笑ってこぶしをつくってみせた。式神の精度を上げるのも下緒院の仕事だ。そして灰の力になれるのなら、喜んで努力だってする。
「今も決まった言葉……自分の名前とか、灰さんの名前とか簡単な命令は聞こえるけど、それ以外も」
 灰がじっと寄子を見つめている。きれいな薄い青色の目が、寄子を見ている。
「あわわ、灰さんどうしたの?」
 ひょい、と灰は手を持ち上げて、寄子の髪の毛に触れた。その指に、蝶がとまっている。橙色の式神の蝶。
「はっ! この子、サボってる!」
「式神もサボるんだね」
「も、もしや自我が……!?」
 寄子の素っ頓狂な声に、彼は楽しそうに笑った。前と比べて、憑き物が落ちたような表情かお。寄子は彼の心の奥深くにまだ触れられいないけれど、許されるならこの手で触れたいと思う。灰は一度損なった心を、また寄子の前で取り戻してくれた。それが嬉しかった。灰の優しい声を聞くたび、寄子は少しずつ強くありたいと願うようになった。だから今、寄子がこうしているのは灰の声があるから。そう強く感じているから、これからは手を離さないでいようと思う。