〝わしらの間に芽生えた繋がりは、絆は、情はな〟
いつまでも続いていく日々、前に向かって太陽の下を歩んでいく日々。
当たり前だが隣に誰かの姿はなく、長い間のソロ活動でしか得ることのなかった感覚を少しずつ取り戻していた。
いや、それ以上に胸が高鳴る。少しの野心が体を突き抜け、それすらすべてが輝いて楽しい。人々の笑顔が眩しくて嬉しい。
――楽しい。
自分がこんなにも清々しく人を愛せるのだと、ごく最近になって斑は知った。
それを教えてくれたのは誰だったろうか。
『斑はん』
声が聴こえる。よく聴き慣れたその声が。
たくさんの人に巡り会い関わり合い、たくさんのものを拾い上げて、猜疑心や卑屈な心にすら悩まされ、煩悶し、自分に向けられた愛情を時にかなぐり捨てて生きてきた。痛みには目を瞑り、いつしか忘れたまま。
それらすべてを、取り零してきた大切なものたちの拾い上げ方を、砕けていた心の救い上げ方を自分へ教えてくれたのは、誰だっただろうか。
『斑はん』
声が聴こえる。嘘のないその声が。
◆◆◆
「こはくさん」
桜の香りのする季節。夜の静けさ。それに加えてしんとした涼しさが混ざり始めた質感に三寒四温の夜を感じ、しかし香る独特の春風に心がふわりと軽くなる。
「
……なんや?」
ベッドの中で抱き合う形で自分の腕に頭を擦り寄せていた恋人。少しだけ眉を潜めたその人は、斑の目を射る。いつだってそうだ。真っ直ぐに斑を射る瞳。
「
……いやあ、なんだと言われてもよくわからないんだ、自分でも」
「
……今日、ずっと上の空やったやろ」
「そんなことないぞお」
「そんなことあるじゃろが」
まだ少しだけつけていてくれとその人が望んだ暖房と、人肌と、布団のあたたかさ。徐々に思考が心地好く鈍ってくる感覚。よく見知った眠気が足元に迫っている。
それと共に、胸に込み上げるなにかが確かにある。それが何ものかはまだわからなかったが、
「ありがとう」
斑は唐突にそう告げた。はっきりとその人を、こはくを見据えて。
「
――いつも君が隣にいてくれて幸せ者だなあと、最近本当に、心からそう思うんだ」
嘘じゃないぞお、そう付け足して密やかに耳を赤くした斑は、こはくの目を見る。いつだって嘘のない真っ直ぐな紫眼を。今にも蕩けそうな、優しく甘やかで慈愛に満ちた緑眼で。
青天の霹靂といった面持ちで固まったこはくは、
「まぁた、なんや小難しいこと考えよるなっち思っとったけど
……」
眉間に皺を残しつつ、しかしやがて花が綻ぶように笑った。
「
……こっちこそ。おおきにな、斑はん」
「
……」
斑の肩に頭を乗せたまま頬を撫でるその手。一度は、いや、何度も血なまぐさくて後暗い危険な場所をまさぐったその手で、優しく優しく頬を撫でる。
「斑はんが何度も手ぇ離しかけたのに、それをわしが無理やり掴んで引っ張り倒したんやないかって思ったこともあるんよ」
「
……そんなことはないが」
「あるやろ、今の言い方」
ふふ、と二人して声を漏らした。優しい、優しい甘い笑い声を。
「それでもな、首輪もつけんっち決めて。お互い一人の人間になって、こうしてまたわしの隣におってくれて
……ほんまにおおきに。ありがとうなぁ、斑はん」
いつだって真っ直ぐなのだ。この人が斑に向ける最たる情は。その瞳とたなごころに導かれ、斑は自身の甘やかな弱さを知った。それに恋と名状するまでに随分遠回りしたものだ。
「照れとる?」
その問いに未だ赤い耳を隠すこともせず、斑は困ったように眉尻を下げる。いつもいつもこはくを惑わせているつもりで、敵わないのは自分の方なのだと実感させられる瞬間。
「
……そうだなあ、照れてはいる、が
……それより嬉しさが勝る」
そしてこの情を導き出した。
「コッコッコ♪ 随分素直になったやないの」
「君の〝せい〟でなあ」
「わしの〝おかげ〟じゃろが」
「押し付けがましい男は嫌われるぞお?」
「ぬしはんにだけは言われたないわ」
「それもそうだ」
ここに、二人に生まれた情は確かに育ち、その新しい形に名状されることを今か今かと待っている。
それと名がつく頃には再び共に歌えるのだろうか。とびきりの、その歌を。
fin.
こは斑ワンドロワンライ
【あいのうた】
60min
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