今年が去年に変わろうとしている今。星奏館のテレビには、日常を共にする仲間たちの煌びやかな姿が映し出され、大きなドームいっぱいの観客との破裂せんばかりの一体感を伝えていた。
「
――案外、〝おやすみ〟っちうのもええもんやな」
ソファに座り中継を眺めるこはく。その隣に座る斑も、話を聞いているのかいないのか曖昧なまま頷いた。まるで力の抜けた表情の二人が、ただ楽しく観客となって中継を見やる。
今日の二人は完全にオフだった。件のカウントダウンライブには二年連続で出演したため、今年は他のユニットが大きくフィーチャーされることとなった。それにビデオレターは企画として送ってある。
本当に、平和なオフだ。することも思いつかないくらいに静かで、テレビだけはそのボルテージを伝えて。騒がしく賑やかな面々はそのテレビの向こうにいるのだから、今更ながら不思議な気持ちだ。
『カウントダウン! 行っくよ〜〜!!』
あと十秒で、今年は去年へと姿を変える。
その時。
こはくの指が、隣合った斑の指を捕らえた。そのまま絡ませて、吐息のような声に乗せて二人で数字を呟く。まるで鼓動を数えるように。指先に灯った温かな体温が徐々に徐々に熱を帯び、こはくは一層強く斑の手を掴んだ。一瞬驚きに身を固くした斑も、すぐにそれを弛緩させればこはくの指先を、手のひらを、味わうように握り返す。
「ん
……明けたな」
「そうだなあ。おめでとう」
お祭り騒ぎがトレードマークのような三毛縞斑という男が、今年は特別にこうして大人しくこはくの隣に収まり、穏やかな顔で新年を迎える。そんな不思議とくすぐったい心地を抱いて、こはくは少しつった大きな目を細めて笑う。
「今年もよろしゅうに、斑はん」
斑は斑で鋭い目を優しく解いて笑う。
「ああ、今年もよろしくなあ。こはくさん」
指先は繋いだまま。お互いにその確かな存在を手のひらに抱き、テレビの中の賑やかな音を聴く。互いの鼓動が近くに感じる、その音を聴きたい。そんな距離になるようなそれを期待しながら、
「君、いかにも下心丸見えだぞお?」
「
……仕方ないやろ、こんな大晦日今までなかったし。ちょっとは期待、するわ
……」
「もう〝大晦日〟じゃない」
「揚げ足取るなやボケナス」
「はは! 容赦ないなあ」
そんな会話の最中も、指と指は繋いだまま。また熱が伝わる。じんわり滲んだ汗が指の股をくすぐった。
「斑はんかて、期待しとるんと違う? すぐしたいっち顔しとる」
「
……流石に寮で行為に及ぶ気はない」
じんわり、じわり。指先も鼓動も、賑やかな音楽に乗せて高まって止まらない。手のひらに伝わる高揚が二人を包んで離さない。
「場所、変えたらええんやろ?」
指に一層の情熱を灯しながらこはくが問う。
「ああ、少し風に当たるのはいいなあ」
「うん。初詣行ったってええけど。日が昇ってからやな」
ふわりと花が綻ぶように頬を緩ませたこはくは斑を見上げ、斑は少しだけ眩しそうに眉を下げ、寄せる。いつからか、斑はこんな風に穏やかに笑うようになった。こはくは、それが嬉しくてならない。愛おしい愛おしいと雄弁に語るその笑顔。
「
……こはくさん」
「ん?」
「はやく、行こうか」
その顔で、甘やかにねだる特有の声で。斑がこはくの目を捕らえる。繋いだままの指と指。
促されるまま頷いたこはくは少しだけ顔を赤らめてソファから立ち上がる。今日ここに皆がいなくて良かったと心底ほっとしながら。
「ん、行こ」
当然のように指は繋がれたまま。寮の玄関に足を進める。期待に胸が高鳴るまま、一歩、二歩、三歩。
「こはくさん」
「あ?」
「ん」
「っ
……!」
呼ばれるまま振り返ったこはくの視界は、瞬く間に暗く色を失う。そして少しずつ、ピントのぼやけた斑の顔を映し、柔らかい唇の感覚に気づく。
一瞬。ほんの一瞬のその触れ合いに沸き立つ気持ちを、二人抱いて。
「
……それ、わしの仕事やろが」
「うーん? 共犯かなあ」
笑いながら肩を叩き脛を蹴り、二人はまた歩き出す。
これからも歩き続ける二人の鼓動は、穏やかな大晦日と元日の狭間で揺れ動きながら前へ進む。愛しい気持ちはいつでも、同じだけ、否日々膨らみながら歩んで行く。
――こうして今年は去年へ変わる。
fin.
こは斑ワンドロワンライ
【大晦日】
60min
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