アユム
2023-12-24 13:17:04
2178文字
Public khmdワンドロワンライ
 

深雪

こは斑ワンドロワンライ【クリスマス】出会って三年目、二人きりで雪を見ながらすごすクリスマス

 しんしんと雪が降る。
 この日は一段と冷える日で、『一日通して雪に注意』と天気予報が告げていた。
「ほんま、一面の雪なんて珍しいなぁ!」
「ああ。都会で降るのはいわるゆボタ雪やみぞれと言って、水分が多くて積もりにくい雪なんだ。だから粉雪は本当に珍しいなあ」
「ほぉん……
 結露で曇った窓に触れて外の様子を伺うこはくは、斑のうんちくを話半分で聴きながら感慨深そうに告げる。
「ホワイトクリスマスっちうんやろ? まさか、こうして斑はんとクリスマスをすごすなんてなぁ」
 こはくの柔らかな紫眼が斑の緑眼をとらえれば、
「ん? 俺じゃ力不足かあ? 」
笑いながら皮肉を一つ。随分と丸くなったはずである斑のその物言いは、こはくにだけは変わらずに力を発揮している。
「ド阿呆が」
こはくの口の悪さも、こと斑には顕著だった。
「でもなあ。本当に意外なのは俺だってそうだ」

 そう、本当に。
 本当に、これは意外な出来事だった。そのはずだ。
 こはくのESでの最初のクリスマスはCrazy:Bの面々と行動を共にしていたし、その次の年はカウントダウンライブに生出演していた。そして今年は――
「恋人とすごすクリスマスが意外もなにもないんやけどな」
 こはくの言葉通り、二人の関係はそんな風に変わっていた
 Double Faceの解散を経て、前を向き、もがいて模索し、それでも胸の中に広がる確かなその感情から手を離せないまま流れた年月。
 隣合ったソファに座る斑の肩に頭を寄せて、それ以上言葉なくこはくが甘える。その関係こそが心地好いと思える、二人の着地点を見つけた。敢えて終着点とは言ってやらない。
 しんしんと降り続ける粉雪。
「〝恋人〟となら、もう少しいいプランを練るべきなんだろうが」
「そんなのいらんわ。……斑はんがおって、こうしていられれば、わしはそれでええよ」
……君は本当にもう……
斑が少しだけ顔を伏せるから、こはくの頭が鎖骨に滑る。そんなことすら心地が好くて、こはくは頬を緩ませた。
 一回、二回。こはくは髪で斑の肩をくすぐって頭を寄せて、またその居場所を探す。少しして、パズルのピースのようにはまるその場所を見つけたらしい。相変わらず上気した顔を伏せたまま口元に手を当てて、その心情を探られまいとする斑に、また甘えて。
「コッコッコ♪ 照れんでええよ。恋人が隣におるクリスマスなんて最高やろ」
……君は真っ直ぐすぎて危なっかしいぐらいだなあ」
 ついに頭を垂れてしまった斑。
 そしてまた滑るこはくの頭。
「こら、じっとせんかい」
笑いながら斑を引き寄せてこはくが口を尖らせる。しんしんと降る雪の影。
「俺は君のヘッドレストになった覚えはないんだが?」
「今さっきなったやろ?」
……屁理屈が上手いよなあ」
「斑はんほどやない」
……
斑は、はぁ、とため息を一つ。
「こはくさんには敵わないか……
 ゆっくりと斑の顔がこはくを見下ろし、こはくがその視線を追う。目の端には雪の残像。
 こうして、今の二人は、きっとなにもかも同じことを共有している。同じ景色を見て、同じコンビニのチキンとケーキの香りと味を楽しみ、胸の音は高鳴って止まらない。
……斑はん」
……、っ、ん」
 少しだけ背伸びしたこはくと斑の唇が重なった。
 日頃からケアをしているとはいえ、特別に柔らかいそれではない。それでも何度でも求めてやまない互いの体温を唇と吐息に感じながら、こはくの手が斑の髪を梳いて、そして編み込まれたその中に指が差し入れられる。
 また深く、唇が重なった。

 日常の中の非日常は二人の気分を高揚させたまま、少しずつ雪に雨が混じり始める。
「あー、積もらんと消えてまう」
 唇の合間でこはくが残念そうに呟いた。微笑ましいとばかりに笑う斑と、また口先を尖らせるこはく。ふふ、と斑は意味深に笑い、
「こはくさん、……カーテン閉めてくれないか」
こはくのその唇を塞ぎながら呟いた。もっと、とだけ零して。
「っ、――
 まさに不意を突かれたこはくの耳が赤く染まる。間髪入れずにその耳に流れ込む睦事。
「照れなくていいんだぞお? 恋人が隣にいるクリスマスなんて最高じゃないか」
……タチ悪いでほんまに」
いつの間にか体重をかけてのしかかる斑の胸を押し返しながら、
「っ、カーテン、閉めるんやろ」
……離れたくない」
また込み上げる愛おしさ。
「こら」
斑の頭を軽く叩いて、こはくは斑を抱き締めた。その大きな体をすべて。すぐに首に回される斑の腕。

「メリークリスマス、斑はん」

 時刻は○時。部屋の時計の長針と短針がぴたりと離れず重なって、それはまるで誰かの、どこかの二人のようで、
「やっぱり君には敵わないなあ……
斑がくしゃっと顔を歪めて泣きそうな声で笑った。その顔を見上げたこはくも、きっと同じ顔で笑うのだ。
 あたたかい幸せが、胸に溢れ出して止まらない。
「今日は俺がプレゼントだぞお」
……おっさんくさ」

 何年も使い古された言葉の応酬。それでも二人にしてみれば初めての詰まった言葉たちだ。
 すぎゆく非日常を胸に抱えて、二人の夜は更けてゆく。


fin.

こは斑ワンドロワンライ
【クリスマス】
60min