アユム
2023-11-11 22:16:13
1725文字
Public khmdワンドロワンライ
 

しなやかな君のまま

こは斑ワンドロワンライ【いいおなかの日】 鍛えたいこはくと見守る斑の悪戯な夜/情事の雰囲気匂わせあり

「こら! 何じろじろ見とんのや!」
 時刻は二十三時を回る頃。シャワーと簡単なスキンケアを終え、スウェットのパンツを履いたこはくが寝室のドアを潜る。少年から青年へと変わりゆく伸びやかで細くしなやかな腕と腰。頭にバスタオルを被りながら、こはくは口を尖らせた。ふわりと香るシャンプーは、斑がサロンで買い付けたものだった。

 すぐに役目を終えるかと思われた斑の仮住まいで、薄暗い拠点でもあったそこは、いつの間にかあたたかい居場所へと姿を変えて久しい。
 ベッドに寝転んだ斑は雑誌のページをぱらぱらと所在なさげに捲りながら、近づくこはくの姿を見ていた。
「うーん、見事にぺたんこだなあと思って」
水飛沫を飛ばすタオルで頭をかき混ぜながら、こはくは斑を一瞥する。
……趣味悪いで」
「知ってる☆」
「余計タチ悪いわ」
 眩しい弾けるようなウインクと共にこはくを迎えた斑が持つ女性誌は、過ぎ去った夏にプールの特集がなされたものだ。瑞々しい水着姿で紙面を賑わす2winkとCrazy:Bの面々に、斑はまた笑った。
「あれから随分トレーニングしたのになあ? やっぱり筋肉が付きにく体質みたいだよなあ、こはくさん」
……鍛えすぎたら背ぇ伸びんようになるやろが」
「それもだいぶ古い言説になったなあ、平成の遺物というか」
「さよけ」
 乱雑にタオルをベッドに投げ付け、こはくは斑の横に腰を下ろす。不快極まりない——そういう顔をしながらも隣を選んでしまう関係は、この一年で築き上げた二人だけの距離だった。
 座るこはくの腰と腹にするりと猫のように滑り込んだ斑の手が、
「おいこら」
一撫で、こはくの腹を優しく撫でる。
「笑いものにするんか自分、ほんまけったクソ悪いやっちゃな!」
「ふふ、お口が悪いぞお?」
「誰のせいや」
 険しい剣幕のこはくを意に介さず、もう一撫で。もう一撫で。指はごく薄く割れ始めたこはくの若い腹筋の溝を謎り、
……っ」
臍を通って、また一撫で。
……こら」
居心地が悪そうに微かに身震いしたこはくの瞳が斑を射れば、悪戯に悪う斑の瞳もこはくのアメジストを映す。
「若い日の姿なんて、いつか会えなくなる日がくるだろう。それまで、こはくさんは〝今〟のままでいいんじゃないか? 言っただろう、十分魅力的だって」
……もうすぐ死ぬ老兵みたいな言い方やな」
「酷いなあ!?」
 そう皮肉に笑い合いながら、こはくの前髪から落ちた雫が斑の頬を濡らす。いつの間にか触れ合う唇の隙間でまた笑う。未だに腹を往復する斑の手を制して、こはくの唇が斑の首筋に触れる、——その直前。
「さあさあ寝る子は育つ! こはくさん、おやすみなさああい!」
「へっ!?」
「んん?」
ベッドへ寝直る斑を見るやいなや素っ頓狂な声を上げたこはくを尻目に、斑はまたも悪戯に笑う。ん? と、なにか言いたげな、聞きたげな、その唇とその瞳。続きを促すその瞳。
「なに勝手に寝とるん」
「夜遅い時間だし、そもそもここは俺のベッドだぞお?  好きに過ごす権利はあるんだが?」
……屁理屈捏ねおって」
わかっている。完全に。そう、こはくの眉間に皺が寄る。
「ごめんごめん。つい、なあ……
台詞に見合わない笑顔で斑の唇がこはくに触れた。何度も何度も啄むそれに翻弄され、するする滑る大きな手のひらがこはくの腹と胸を攫う。感嘆のため息が盛れ始めたこはくを前にして、斑は満足げに口角を上げた。
「いいお腹じゃないか。俺だけのものにしたいぐらい」
 体勢を変えてこはくの薄い腹の皮膚に口付ければ、目を細めてますます満足げに微笑む斑。そして挑発的にこはくを見上げ、今度はぺろりと腹を舐める。
……っ、あーーー! ほんまに、もう……っ!」
思いがけない蠱惑的な光景に顔を真っ赤にしたこはくは、勝てない、そう、頭を振った。漏れる斑の含みを帯びた笑い声。
「こはくさあん?」
「いつもいつも煽んな言うとるやろ! ……責任、取ってや」
 
 体勢を変えながら斑の腹を撫でる負けず嫌いな手のひらに手のひらを重ね、斑が短い吐息を零した。

fin.

こは斑ワンドロワンライ
【いいおなかの日】
60min
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