はじまりは路上の先

2300字ほど 一次創作BLのss.0013 俺×彼 路上ライブがきっかけで(出会いまでの話の導入が長いです)

 出会いはわらしべ長者に少し似た過程だった。
 わらしべ長者とは一本のわらからの、何かを助けて、物々交換が連鎖反応的に起こって最後は長者になる、ラッキーストーリーな昔話だ。

 音楽を志し半ばニート状態の半ばフリーター状態の俺は、ある日、本屋に行った。買った雑誌には付録が付いていて、それはマイバッグだった。
 好きなアーティストのインタビュー記事が数ページだけ載っている雑誌本体が欲しくて、そのマイバッグは特に必要なかった。実家暮らしで、親に「使えば」と渡して「必要ない」と返される。まあ、捨てるのもあれだなと仕舞う場所を考えて、ここに入れときゃいいかと普段使っているリュックサックに放りこんだ。

 そして、明くる日に、俺は道端で、高齢の女性が提げた買い物袋が持ち手から破れて袋の形を為さなくなり、中のものが道に散らばっていく瞬間に居合わせた。道に散ったものを拾っていく間に、そうか今背負っているリュックサックにはあのマイバッグがあるなとそれを取り出した。「どうぞ」使ってくださいと譲った。高齢の女性は俺に大変、感謝して、おまけにこのマイバッグは人気の付録だったようで、よけいに感謝されて、そそくさと俺が「礼は要らないです」と立ち去ろうとするのに引き留められ、商店街の福引き券を数枚もらった。
 福引き券を無碍むげにするのもなんだなと俺はその福引きを引きに行った。商店街のスーパーと八百屋の前の簡易な福引きコーナーで俺はガラガラと回し、六等の箱ティッシュくらい当たるかもと思っていたのが、三等の洗剤詰め合わせセットが当たってしまった。当たったのを福引きコーナーの人たちは盛り上がっていたが、持ってこられた有名メーカーの台所洗剤、洗濯洗剤などの詰め合わせの箱をまえに、俺は(……どうすっかな)と思った。
 俺は実家暮らしである。そして、実家の洗剤などは親が昔から「このメーカーのが好き」だと選んでいる。これしか使わない、というくらいに。そして、俺が当たった有名メーカーの洗剤は、実家で親が使っているのと違うメーカーの洗剤だった。この箱を抱えて帰っても、「ええ? 使わないわよ」と言われるだろう。
 しかし、「兄ちゃん、運が良いねえ!」と言って箱を渡そうとしてくる人たちに、当たりを辞退するとも言い出せず、俺は「ありがとございます……」と洗剤詰め合わせの箱を抱えた。
 大きく重たい箱で、俺は道で一回休憩した。
 ふと見ると、視界の先のマンションの前の道路に引っ越し会社のトラックがとまっていて、引っ越し家財を荷室から下ろしてマンションの内へ運んでいる。
 俺は箱を抱え直し、そっちへ(駅はそっちの方向)歩いていった。
 すると、引っ越し作業の途中の、いったん積んだと思われる小さめのダンボールのタワーが急に倒れてきて俺は避けようとして、洗剤の箱は俺の腕から飛んでいって、俺自身もすっころんだ。
 引っ越し業者の男性と若い人妻っぽい女性が駆けてきた。
 俺は「いや、大丈夫なんで……」と言いながら、身体に付いた砂を払って、飛んで道に落ちてぐしゃりと角が潰れた福引きで当たったと分かる札の付いた洗剤詰め合わせの箱を見た。
 それを引っ越し業者の中年男性と若い人妻っぽい女性はとても気にして謝ってくるから「いえ、……あの」よかったら引き取ってくれないかと言うと、驚かれて「いいんですか?」と若い人妻っぽい女性は洗剤詰め合わせの箱をもらってくれた。
 俺はよかったよかった、とその場を去ろうとしたが、引っ越し業者の男性がおわびにと近くの観光地の施設優待券を出してくる。(また、使いどころがないものを……)と思いながら、押しの強い引っ越し業者のおっちゃんのノリに、俺は断れずにその優待券を手にした。
 そこからまたいくつかの物々交換があった。
 半年くらいの期間の物々交換の果てに、俺は数年前から欲しかった、新しいギターを購入することができてしまった。
 そのギターで学生時代からの夢だった、路上ライブを初めてした。
 素人の俺の歌を、耳にとめる通行人なんていないと思って、路上で自作の曲を好きに歌っていたら、ある夜、ひとり、年の頃は同世代くらいの、なんとも目立つ男性が、路上でぽつんと歌っている俺のすぐ目の前にしゃがみこんで、聞いてくれる。
 目立つというのは、ちょっと変わったお洒落可愛い帽子とオシャレでかけているっぽいサングラス、そんなサングラス越しでもなおイケメンとわかるレベルのイケメンというか美貌で、いるだけで華があるというか、存在感がある。
 なんだか、どこかで見たことがないかと思った。
 タートルネックのニットの袖が長く、萌え袖になった両手で頬を囲むみたいにしてしゃみこんで、こちらをまっすぐ見て、不思議な華やかな笑みを浮かべて
「良い曲」
 と言った。
 足をとめて聞いてくれた上に曲を褒められ、嬉しかったが、それにしても、やっぱり、どこかでこの男性を見たことあるなと俺は思い出そうとした。

 始まりは雑誌の付録のマイバッグだった。
 その買った雑誌の、巻頭の数ページに、彼の写真とインタビューは載っていた。
『チャレンジか……歌にも挑戦してみたいですね』と書かれたインタビューだった。
 夜の路上ライブでの出会いから、俺は、SNSでも人気の彼の動画チャンネルのレギュラーとなり、楽曲を提供し、稼ぎで実家暮らしも脱した。

 その後、俺は彼を好きになったが、すぐには告白できなかった。だが、またなぜか道端からの物々交換の期間があり、手に入れた有名レジャーパークのチケットを口実に、遠出の旅行に誘った。
 「お忍びデート?」と見透かしたように微笑まれたあと、俺は有名な告白スポットで、交際を申しこんだ。

 彼に贈る指輪は、自力じりきで買った。