充電、終電、heart-chord

3300字ほど 一次創作BLのss.0010 奴(こいつ)×俺 夜に「携帯充電させて」と部屋にやって来る。高校時代からの、仲が良くないような男

 携帯スマホ充電させて、と奴はやって来る。
 一回目は、まあ別にいいかと思ったが、二回、三回ともなると、よくわからなくて部屋に悠々と入ってくる奴に「……電気代払えよ」と言ってみたら、奴はこちらを見下ろし、「ケチくさいことを言うねぇ」なんて言いやがるから、俺は「あ」に濁点が付いたような声が出て、文字通り、奴を部屋から『叩き出し』た。
 すると、しばらくして携帯に〈一回謝るから、入れて〉とメッセージが来て、既読無視しても奴がドアの外、アパートの通路に立っている気配がずっとするから、まあ仕方なく、ドアを開けてやり、中に入れてやる。
 俺はこういうとこ、こいつに甘いと思う。
 コードも何も持参して来て、俺の狭いワンルームの空いているコンセントに差しこみ、充電している。最初は携帯だったが、最近はタブレット端末みたいなのとかも持ってきて、充電している。
 毎週、俺がバイトのない日の夜に来る。
 なんとなく何か気になった夜に、来た奴が洗面トイレに立っている時、充電中の携帯を持ち上げて、画面をのぞいたら、携帯の電池の残量表示は六十%を切ってなくて、俺は「……?」首をかしげた。
 よくわからんが、奴は、携帯端末の充電にかこつけてというか、充電を口実に、俺の部屋に来ている。
 何の意図があるのか。

 こいつとはあんまり人間として相性は良くないと思うのに友達付き合いが高校のときから、続いている。
 直接宣言されたことはないがこいつの家はけっこう金持ちで、普段使っている物とかいろいろハイブランドで、成績も学年トップクラスで、高身長で顔も良くて、モテていた。
 俺が好きになった子はみな、こいつのことが好きになって、それをこいつは告白されたらほとんど振っていた。というより、こいつはモテて、選り取り見取りの状態だった。
 でも、俺だって、そんなにモテなかったわけではない。こいつと比べれば少しだけの規模にはなるけど、一年の内に数人、仲の良かった女子から告白された事もある。そして、何人かと付き合った。ただ問題はその後で、付き合い始めても、だんだん、ここから何をステップアップしていったらいいのかというような謎の気持ちに俺はなってしまい、相手からも「なんか……友達のときのほうが楽しかったね」みたいに言われて、あっさりと友達に戻る、という繰り返しだった。俺は恋愛が下手なのかもしれないと思った。
 その話はおいといて、こいつとは高二、高三と同級生で、こいつとの会話はいつも、俺の言葉に対して皮肉めいたこと、小馬鹿したことを言ってくるので、喧嘩腰の応酬と化していた。だから、仲は良くなかったと思うのに、卒業式の次の日、「これからも、会うのは、続けたい」とか言ってきた。このとき俺は、こいつはいったい何を言っているんだろう、あとなんで俺は卒業式の次の日にこいつとドーナツ屋で会っているんだろうかと思っていた。
 こいつが進学したのは高偏差値の有名私立四年制大学で、俺はがんばって探した、自分の学力レベルで入れそうな、かなり学費の安い私立四年制大学だった。就職か専門学校でもよかったが、俺は漠然とキャンパスライフに憧れがあったのと、まだ社会に出たくないというか、大学で四年間、ちょっと遊んだりしたいという思いがあった。
 違う大学で、卒業したらこれでもう会わないんだろうなという気だったのが、呼び出してきて「これからも、付き合いは、ときどきは」とかなんとかドーナツ屋で言うから、俺は首をひねったが、まあ、よくわからんが俺との交友関係をこいつは続けたいのかと思って「一人暮らしは、すんのか?」と訊いた。

 そして現在、俺とこいつは、それぞれの大学生活を送り、一人暮らしで、会話の調子はあまり変わらず、よく喧嘩腰にもなる。
 なんでか、俺の部屋にも来る。
 タブレット端末を持ってきた夜には「これ動画も観られたりするよ」と、自慢する口調では無い調子で見せてきて、奴が加入しているサブスクの画面を表示させて「観たいのある?」なんて訊いてくるから、俺はムカッ腹で「要らん」と押しやった。こいつの加入しているサブスクで、そのおこぼれで映画を観るなど、嫌だった。
 欲しいものは自分の力で掴み取るというのが俺のポリシーである。
 こいつは何でも持っていて、羨ましいと感じるけど、その点について俺はそこまでギスギスした感情を抱いていない。童話で例えるなら、こいつは桃太郎で、俺は金太郎である、みたいな……いっしょの物語ストーリーのなかを生きているんじゃない。それぞれの人生ストーリーを生きているのだ。
 そんなことを高校時代に話したら、こいつは珍しく「へえ……」という、ちょっと感心したような顔になった。でもこの話は、好きな曲の歌詞からの受け売りのようなもので俺が一から発想したものではなかったから、俺はその場でその曲を紹介した。
 そう、俺は俺のやり方で、欲しいものを手に入れる。
 こいつのおこぼれなど要らない。
 大学の学費は親に出してもらっているが、趣味の音楽に関連したものはバイトで稼いだ金を使っている。
 俺に「要らん」とタブレット端末を押しやられた奴は、変な表情になった。
 こいつがときどき見せる、変な表情。
 いつも自信と余裕の態度で、実際なんでもさらりとこなして、ボク、頭が良いんだよねみたいな表情なのにときどき、変な、しおしおと落ちこんだ、うまくいかなくて情けなく途方に暮れたような表情を見せる。
 小さいころに読んだ絵本に描かれた、好きな相手に贈り物を拒まれてうなだれる大型の獣のような表情。
 何がいったいこの男をそんな表情にさせるのか、わからなかったが、俺はこいつのこの表情を見ると、少し、かまってやりたくなる。これは自分でも不思議な感情だった。
 相性は良くないし、仲も良くないけど、なんでもないメッセージのやりとりはして、部屋に来るたび入れて世間話をする程度には、こいつとの時間は悪くはなくて、何度『叩き出し』ても、その夜のうちに許してやったりしている。


 でも、俺のなかでよくわからなさが頂点に達したのか、その夜、やって来た奴に「おまえ、何しに来てんの?」と訊いた。
 もうあたりまえのことみたいに端末とコードを繋いでいた奴は、固まった。
 それから、ややくやしそうな、それでいてしおしおとした表情で、俺を見て、手をコードから離す。
 その手を持ち上げて、ゆっくり下ろした。
 横に座る俺に、手を伸ばしかけて、やめたように見えた。
……充電、しに来てるんだよ」
 と力の無いような声で言った。
 そうか、と俺は思って、先週からバイト先のパスタの店で導入された配膳ロボの話を始めた。
 奴は興味あるふうでもなく聞いていた。

「今度、おまえの部屋ウチ行きてえな」
 帰り際に言ったら、玄関際で奴はとても驚いた表情で「えっ?」ともう夜中の時刻なのに大きな声を出すから、俺は舌打ちし「声でけぇわ……」と注意した。
……だから」
 俺は寄って、話した。
「たまには、俺にもおまえの部屋で充電させろってこと」
 こいつの部屋には一回行ってみたかったが、こいつの部屋は俺の部屋の倍以上の広さで、ハイブランドの家電やホームシアターが並んでいるっぽくて、行ってその光景を見たらさすがに、羨ましさで不機嫌になってしまうかもしれないと、今まで行こうと積極的に思えなかったけど、なぜか急に行ってみたくなった。
 硬直したような格好で奴が口を閉じたままでいるから、「電気代の話をしているんじゃねえぞ」といちおう言った。

 俺が携帯を見て今月のスケジュールを、大学の講義が午後になく、バイトの空いている日を言うと、「はいはい……では、おもてなし、しないとね」と奴は余裕が戻ったみたいにいつもの悠々の笑みで話し、玄関ドアから出て、一歩目でこちらを振り向き、片手がガッと玄関ドアの枠を掴んで
「絶対ね」
 と真剣というか必死そうな表情で言った。
 俺はその様子に首をひねったが、「おもてなしは、別に……」と返して、玄関ドアの枠を掴む指に触れ「だいじょうぶ」と告げた。
 その行動にまたとても驚いたみたいに、奴はドアの枠をぱっと離し、その手を握ったり開いたりしながら、後ろの通路に下がり、帰っていった。