憂依
2024-02-17 23:07:26
6818文字
Public 供養シリーズ
 

供養:おかしな同居人(火青)

もう自分で書いたの覚えてない話ばっかり出てくるな!?
最初覚えてなさ過ぎて読み返してる時この黒い化け物なんだ?って自分でも思った。青峰だった。そんな悪魔パロ。
ていうかこれめちゃくちゃ区切りが良いところまで書いてあるから前にどっかで公開してるかもしれない。

例えば、であるが。
深夜、眠りにつこうとした時に突然ベランダから謎の物音がした場合、君は何を思うであろうか。
ある者は気のせいだろうと見逃し、ある者は気になりながらも睡魔を優先し、ある者は泥棒かなにかかと警戒するだろう。
少年、火神大我は後者であった。

つい先日まで、彼はアメリカで暮らしていた。
それが父親の都合により日本に移住することになったかと思えば、当の本人である父親はこれまた仕事の都合でやっぱりアメリカに残ることになり。
転入手続きなどもろもろ済ませ終わった後だった火神は、一人日本で暮らすことになってしまったのだ。
日本に渡って約二週間。こちらでの生活に慣れてきたころに、この謎の物音である。

(泥棒、か? 日本は治安がいいって聞いてたんだが、わざわざマンションの三階まで登ってくるとは)

火神が暮らしているマンションは元々父親と二人ですむ予定だったので、独り暮らしには不釣り合いな広さとなっている。
しかも、父親の防犯がしっかりしたところでないと、と言う意見によりそれ相応の家賃の物件だ。
もしかしたら、それで金目当ての強盗がやって来たのかもしれないなと考えを巡らす。
ちなみに、鳥かナニカだという考えは火神の中にはない。
羽ばたきが聞こえなかったし、先程の物音はナニカ重いものが落ちたような音だったからだ。
眠りかけていたせいか、暗闇でもすっかり目は慣れていた。
とりあえず、とベットの下を漁って取り出したのは、一本の金属製の野球バットだ。
火神には野球に興じる趣味はないが、バッドをベットの下に潜ませているのはアメリカ暮らしの影響である。
枕元に武器になるモノを置いておく風習が、まさか日本に来て役に立つとは火神も思っていなかったが。
音をたてないようにベッドから這い上がり、息をひそめて窓際へと進む。
外にいるだろう何かに気付かれないよう、カーテンの隙間から外の様子を伺う。
勘違いなら眠り直せばいいし、もし本当に強盗なら捕まえて警察に引き渡せばいい。
腕っぷしにはそこそこ自信のあった火神はそんな結論に達しながら外を見て、

―――!!?」

声を出さなかったのは、おそらく奇跡に近かった。

ベランダには、確かにナニカがいた。
それは明らかに人間ではなく、かといって、偶然迷いこんできた野鳥でなければ動物でもない。
それだけは断言できた。
ただ、得体の知れない正体不明のナニカが、そこにはいた。

―――――――、」
暗闇の中、さらに黒い色をしたナニカがベランダでうごめいている。
全身が毛むくじゃらで、ぱっと見は大型犬のようだが、その前足は胴体と同じくらい長く、手は鉤爪のように大きく鋭利にとがっていた。
後ろ足がなく、代わりに胴体から蜘蛛のような足が左右合わせて六本生えている。
更に、身体の下部からは布のような何かが垂れ下がってベランダの床に広がっていた。
明らかに異常な姿をした、明らかに異質な存在。
色々なものをつぎはぎにしたようなその姿に、火神は幼い頃に映画で見たキメラを思い出していた。
――――――――――
キメラのようなものは、一切の音が消えた夜の静寂だからこそ聞こえる、か細く甲高い音を漏らす。
金属を擦ったようなこの音は、果たして鳴き声なのか。

…………なんだ、これ。マジでなんだ。つうかなんだ)

そもそも、これは生物なのだろうか。
そんな疑問が湧いてきて、見間違いではないのかと目を凝らしても、やはり見える姿は変わらない。
火神から見えるのは後ろ姿なのか顔らしきものが見えないが、そもそもコレに顔があるのだろうか。
思わず舐めるようにソレの姿を凝視しているうちに、火神はあることに気がついた。
それがうずくまっている場所から、何か、液体のようなものが広がっている。
―――――
また、か細い金属音とともに、ソレは右腕で左腕を抑える。
身じろぎするようにわずかに震えて、身体を縮めるように小さくうずくまった。
その姿を見て、火神の脳裏にひとつの仮説が浮かび上がった。
……もしかして、こいつ、怪我してんのか?)
普通に考えれば、だからなんだという感じであろう。
こんな見るからに得体のしれないバケモノに自ら関わる方がおかしい。
今ならまだ何も見なかったことにして、温かいベッドに入り眠りについてしまえば、きっと、目が覚めた時にはすべて夢の中であったかのようにやり過ごせるだろう。
そもそも、こんな奇妙な姿のものを見て、恐怖を感じない方がどうかしている。

それでも。
火神大我という人間は、目の前の正体すらわからないものを見過ごすことなど、できるわけがなかった。


意を決して、窓を開く。
瞬間、むせ返るような異臭が鼻についた。
「っく、せ……!!」
腐った生卵と生ゴミをあわせたような、汚水と嘔吐物をかき混ぜたかのような匂い。
鼻孔どころか脳髄まで侵入してきて、脳みそが直接匂いを訴えているようだ。
突然開いた窓と火神の声に反応したのか、黒い何かがびくりと動いた。
振り返ったその頭は犬の様で、ウサギのようなまっすぐぴんとした長い耳が生えている。
ソレは鋭い目つきでちらりと火神に視線をよこすが、動こうとはしないようだった。
異臭に鼻をふさぎながらベランダに一歩足を踏み出すと、びちゃりと濡れた音が響く。
足が濡れるのにも構わず火神はソレのすぐそばまで行くと、毛むくじゃらの左腕へと手を伸ばした。
―――――――――――――!!」
火神が触れた途端、びくりと大きくソレは体を震わせた。
ソレは何かを訴えるように声を上げるが、火神にとっては意味をなさないただの金属音だ。
暗闇の中目を凝らせば、思った通り、地べたを濡らした液体はこの左腕から滴り落ちている。
いや、滴り落ちているというより、溢れ出ているといった方が正しいのだろう。
栓が壊れた蛇口のように、だらだらと液体がこぼれている。
……お前、怪我してんのか」
喋ろうと口を開いただけで、口内からも異臭が侵入してきて眉をしかめる。
匂いは口からも感じるのかという考えが一瞬頭をよぎったが、今はそれどころではない。
疑問ではなく断定で持って、火神は呟いた。
別に、返事は期待していない。そもそもコレに知性があるのかもわからないし、生物なのかも疑わしい。
―――――――
また、金属音。
この音がソレの声なのだろうか、それとも別の何かなのか。火神にはそれを判断する術も材料もない。
仮にこれが声だとしても、抑揚も強弱も何一つない、機械音のように同じ調子の音が続いても、何を伝えようとしているのか全く理解できないというものだ。
火神は意思の疎通は無理だと判断して、勝手に行動に移すことにした。
「ちょっと悪いな」
そう言うと、ひょい、とソレの体を持ち上げる。
蹲っていたので気づかなかったが、ソレは胴体だけでも2m近くある。更に胴体と同じくらいの長さの両腕に、足なんて六本もついているというのに、見た目の大きさに反して、思ったほどの重さを感じなかった。
重さがないというわけではない。両腕にかかる重みが、見た目と釣りあっていないのだ。
抱え上げた瞬間、それがバタバタと動き始めたがそれらを無視して部屋へと戻り、窓とカーテンを閉めると、火神は風呂場へと向かうのであった。


明かりの下で見るそれは、暗闇で見るよりなお歪で不気味で奇形だった。
地球上にこんなイキモノがいるのかと思わず突っ込みを入れたくなるし、体から流れ出てる血かと思った液体は赤ではなく青かった。
雲一つない空よりも鮮やかな、かき氷のブルーハワイシロップのように真っ青な液体。
床に点々と落ちた血痕に服もべったりと青く染まって、アメリカでよく見たケーキがこんな感じの色だったなぁ、なんて現実逃避のような思考が火神の頭をよぎった。
ひとまず洗い場の床にソレを降ろすと、汚れたシャツを脱いで脱衣場の洗面台に放り投げる。
ソレは火神の方に鋭い視線を向けてはいるが、浴室の中でおとなしくしていた。
あるいは、何をされるのかと警戒しているのだろうか。
まあ、おとなしくしてくれる分には構わない、とまずは体中にまみれた青い液体をシャワーで洗い流すことにした。
ノズルを回してシャワーを出した瞬間、ソレはびくりと大きく体を震わせて水を吐き出すシャワーヘッドを凝視し始める。




応急処置、になるのかはわからないが、それの腕に包帯を巻いていく。
向こうでバスケを習った師匠に、万が一のための応急処置としていろいろ叩き込まれていたのが功を奏したようだ。
本当ならちゃんとした病院で手当てをしてもらった方がいいのだろうが、こんな生き物なのかすら怪しいものを動物病院に連れて行ったところで、パニックになるのは目に見えている。
はっきり言ってこれが何かもわからない以上、この行為も自己満足の気休めかもしれないが、だからといって何もしないということは火神にはできなかった。
「よし、と。とりあえずこれでいいか」
包帯を巻き終わり、他に傷がないか確認する。全身毛だらけなので傷を確認するのも大変だったが、どうやら怪我をしているのはこの左腕だけのようだ。
父親の部屋になる予定だった部屋から毛布を持ってくると、それの身体に毛布をかぶせる。
「もう春だからって外は寒いだろ。とりあえず、しばらくここでおとなしくしてろ」
言葉が通じているのかはわからないが、それは火神を一瞥すると、そのまま丸くなって瞼を閉じた。
……どうやら通じていたようだ。

……とりあえず、寝る前に床綺麗にしねえとなぁ」
もう寝たいのに、と悪態をつきながら、火神は床掃除をするべく雑巾のもとへと向かいかけ、
「その前に、着替えだな」








次の日の、朝。
目が覚めた時には、いつもより明らかに遅い時間であった。
今日が休みでよかったと感謝しつつ、寝ぼけ眼をこすりながらベットから起き上がる。
結局、床やベランダを掃除していたらきづけばかなり遅い時間になっていた。
別に起きてからでもよかったが、あの青い地や異臭を放置しておけば確実に近隣住民から苦情が来ることが間違いなしだ。さすがにそれは避けたかった。
起きると同時に、胃袋がやかましく音を立てる。
普通の人より多く料を食べる火神には、とっくにいつもの朝食の時間を過ぎているためにもう列に空腹が襲ってきた。
空腹に促されるままに寝室を出てリビングへと向かう。
あの謎の生物?はまだいるのだろうか。いたら、あいつの分も飯を用意した方がいいんだろうか。そもそも、あれは食事をするのだろうか。
そんなことを考えながらリビングの扉を開けると、
……よう」
見覚えのない男が、なぜか全裸で、毛布にくるまってそこにいた。

バタンッ!!

思わず、全力で扉を閉める。
昨夜も訳の分からないものと関わったせいで、とうとう頭がおかしくなったのだろうか。
とうとう幻覚に幻聴まで聞こえてきた。
落ち着いて今一度深呼吸、それからゆっくりと再び扉を開ける。
…………おい、なんだそれ」
やはり、見覚えのない全裸の男が毛布にくるまって、不機嫌そうにこちらをにらんでいた。
「いや誰だよてめえ!! 人んちに不法侵入するとはいい度胸だな……!」
「はあ!? てめえが勝手に俺を家に連れ込んでここでおとなしくしてろって言ってたんだろうが!!」
「んなこと言った記憶ねえよ! ……て、あれ?」
男の言葉に思わず反論するが、すぐに男がくるまっている毛布が目に付いた。
あれは昨夜、火神があの謎の生物にかぶせたモノではないだろうか。
……いや、まさか。そんな。……いや、でも」
思わず男を注視する。
褐色の肌に青い髪と瞳、顔つきは野性味を帯びてぎろりと火神を睨み付けており、体格は毛布にくるまっているためよくわからないが、毛布から見えるシルエットやら露わになっている足つきだとかで、なんとなくガタイはよさそうに見える。
どこからどう見ても、そこにいるのは至って普通の人間だ。
だが、しかし。
「んだよ」
……わりい、ちょっといいか」
ぺろり、と男がくるまっていた毛布をめくる。
その左腕には、青いしみがついた白い包帯が巻かれていて………
「お前、まさか、昨日のあの黒い奴、か?」
「ああ? そうに決まってるだろうが」
………はああ!?」




男は、名を青峰大輝と名乗り、火神にとっては荒唐無稽な話をし始めた。
曰く、自分は悪魔界の王子であるのだが、最近悪魔界では王である青峰の父親が病床にふけっており、後継ぎ問題で王家の権力闘争やらが盛んになっているらしい。
青峰は王の第一王子であるが、継承権は二位。第一王位継承者覇王の弟であり、青峰の叔父にあたる人物が持っている。
政治だの王だのに興味がなかった青峰は、当然次の王になるのは叔父だと思っていたし、自分が後を継ぐつもりはこれっぽっちもなかった。のだが。
その伯父というのがかなり評判が悪いらしく、一部の貴族たちは叔父が後を継ぐことを良しとせず、第二王位継承者であり現王の息子である青峰こそが次の王にふさわしいなどと言い出したのだ。
こうして悪魔界は叔父派と青峰派の二部に勢力が分かれる一大抗争が勃発しようとしていた。

しかし、当の青峰からすれば王を継ぐつもりもないのに勝手に神輿にされ王になれと言われていい迷惑であった。
そこで、「俺は王にならねえ!勝手に叔父貴に継がせてろ!」と家出。
悪魔界を飛び出し、この人間界にやってきたのだという。




「なんつうか、にわかに信じがたい話だな。まじで」
「嘘じゃねえよ。悪魔は人間を騙すが、嘘は言わねえ」
もしゃり、と火神の作った朝食を食べながら、青峰は言う。ちなみに、全裸のままではあれなので、体格も近かったこともあり、現在は火神の服を着ていた。
悪魔は魔力を栄養源にしているが、初めて見る人間の食事に興味がわいたとかで、青峰も朝食を食べることになっていた。
もしゃもしゃとサラダのレタスをほおばりながらいう自称悪魔に、火神はとりあえず疑問をぶつけていく。
「じゃあ、なんでお前俺の家のベランダに怪我?して倒れてたんだよ」
「うっせーな! 俺だって予想外だったんだよ! 人間界に出たちょうどその場所に悪魔祓いがいるなんてどんな確率だっつうの! おまけに人間界に渡るのに魔力を使い切ったせいでまともな応戦もできねえからあんなザコに手傷を負わされるとか……くそっ。一生もんの恥だ」
……悪魔祓いとか、そんなのがいるのか」
「ああ、俺は人間界に来るのは初めてだから、初めて見たがな。悪魔祓いに殺された同属の話は何回が聞いてたが……ああくそ、思い出したらイラついてきた」
…………なんで昨日はあんな姿だったのに、今はこうなってんだ?」
「つうか、昨日の方が俺の本来の姿なんだろ。今はてめえに合わせて人間の姿になってるだけだ。確か、人間と悪魔は発声器官も聴覚も異なるから、人間と意思疎通がしたいなら人間の姿に慣れ、って、昔教わった、気がする」
「そーか。なんつうか、すげえな。それしか言葉でねえわ」
パンにマーガリンを塗りながら、火神は半ば話半分に青峰の言うことを聞いていた。
決して、途中から話についていけなくなったとか、そういう理由ではない。
「ともかく。俺はしばらくここに厄介になるぞ」
「ああ、……って、はあ!?」
思わず生返事をしたところで、青峰の口にした内容に思わず力の入ったバターナイフが食パンを貫いたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「いや、なんでだよ!」
「しょうがねえだろ。怪我を直して魔力が回復するまで動きたくねえし、下手に動いたらあの悪魔祓いに見つかるじゃねえか」
「いや、でもな……
「大体、だな」
ピッ、とフォークを火神の鼻先に突き付けて、青峰はにやりと不敵な笑みを浮かべると、
「てめえがいったんだろ。『しばらく』ここでおとなしくしていけって」
…………っ!」
言った。確かに火神はそう言った。
自分から言い出したことだ。それを曲げることはできない。
むしろ、得体のしれない謎のバケモノより、人間の姿をした自称悪魔の方がまだ扱いやすいだろう。
そう考えればむしろ今の方がいいのだが、だがしかし。
助けたのはこちらだというのに、こうも偉そうに言われると、なんだか釈然としないのである。
……ああくそ。分かった。気のすむまでここにいろ。いればいいだろ!」
「おう、サンキューな!」
半ばやけくそ気味に吐き捨てれば、青峰は満面の笑みで感謝の言葉を口にした。


(ああ、くそ。こんなやつ、拾うんじゃなかった)