憂依
2024-02-17 22:56:10
2094文字
Public 供養シリーズ
 

供養:息子談義(黒バス)

供養シリーズ。
火神くんと赤さんの父親が知り合いだったら~みたいな話。これよく覚えてないけど赤さんのお母さんが火神のお父さんの姉か妹で二人は従兄だった、みたいな話だった気がする。違うかもしれない。この話と関連があるかは覚えてないけど、そういう話を書こうとしてたのは覚えてる。

この作品には捏造設定が過分に含まれております。
その点ご留意ください。


『赤司の家に生まれた以上、敗北は許されない』

それが、幼いころから父に言われ続けた言葉であった。
古くから続く旧家の家系。今なお日本経済の一翼を担う元赤司財閥の社長の地位。
負けることとは死ぬことであり、生きることとは勝つことである。
物心ついたころから刷り込まれ続けた言葉は男の体を構成する細胞一つ一つにまで浸み渡り、男にとってなくてはならない人生の指針となってしまった。

その生き方が、間違いだと気づいた時にはもう男は成長しすぎていた。
今更生き方を変えることもできず、男はそのまま暮らし続けた。

それ以外の生き方など知らなかった。それ以外の生き方など教えられなかった。だから、男は自らの息子にも自分と同じ道を進むレールを敷くことしかなかった。
彼にとって唯一の救いは、妻の存在だっただろう。
政略結婚に近い形で結ばれることになった妻であったが、二人は確かに愛を育み、その結果として息子が生まれた。妻は男と息子の鎹となり、親子の関係は母によって絶妙なバランスが保たれていた。
しかし、悲劇が訪れる。
元々体が弱かった妻が病に倒れ、帰らぬ人となってしまったのだ。
妻というストッパーを失った男はそれまで以上に厳しく息子を教育していった。
息子が、彼の教育に耐えられない人間だったら、まだましだったかもしれない。息子はあまりにも優秀過ぎて、無理をしてでも男の要求に答え続けた。
それでも、幼い身体には徐々に限界が見え隠れしていた。息子は妻がいた時ほど表情が変わらなくなり、冷徹なまでに赤司家の本分を全うし続ける。それは、まるでかつての自分を見ているようだった。
そんな折、息子が中学二年を迎えた夏の終わり。
男は息子の雰囲気がどこか変わってしまったことに気がついた。徐々に変わっていった息子が、後戻りできないところまで変わってしまったかのような錯覚。
現に、息子は今まで以上に勝利にどん欲になり、男の期待に十二分に答えた。……答え過ぎていた。
それが、男には怖かった。
息子がかつての自分と同じように、後戻りができないところまで突き進んでしまうのではないかと。

ふと、思う。
自分はどうして、あの重圧に耐えられることができたのかと。
それは愛すべき妻の存在もあるが、それ以上に自分が変わったのは。

自分を負かした、唯一の男がいたからだった。

勝ち続けろと、男は言う。
誰か息子を負かしてくれと、男は願う。
言葉と心で真逆のことを思いながら、二年ほど時が流れたが、息子が負けることはついぞ訪れなかった。




…………ん」

ふわり、と意識が浮上する感覚に、男は自分が眠っていたのかと気がついた。
ゆるゆると開いた目蓋の向こう側には、見慣れた書斎の風景が広がっている。
自宅で本を読んでいる間に眠気が襲ってきたため、一時間だけ仮眠用のソファで寝ていたことを思い出す。時計を見れば、一時間どころか四時間ほど経過しており、明るかった外はすっかり暗闇に染まっていた。
この書斎は男しか入らないようになっており、使用人たちにも男の許可がない限り入室しないように言明している。
書斎にいる時は集中したいので食事などの用意が出来ても部屋に入らないようにとしているため、誰にも起こされることなく寝入ってしまったらしい。

奇妙な夢を見た、と男は思う。
いつもなら仮眠で夢など見ることがないはずなのに、今日に限って寝入ってしまったのは疲れがたまっていたからだろうかと推測する。
幸い年末年始で長期休暇となっている。今年は家でのんびりと過ごすか、と考えていたところで、男は自分の身体に毛布がかかっているのに気がついた。
勿論男は毛布をかぶって寝た記憶はないし、前述のとおり書斎に使用人は入ってこないので彼らの仕業でもない。
一体誰が毛布を掛けたのかと疑問に思っていたところで、

「よう。ようやくお目覚めか。久しぶりだな征臣」

ひどく能天気な声が、男の背後から聞こえてきた。
それは、ひどく聞き覚えのある声であり、今は絶対に聞こえることのない声だった。

「な、何故貴様がここにいる大志!」

振り返れば、予想通りの男がソファの背もたれに肘をついてもたれかかっていた。
ざっくらばんに短く切りそろえられた赤と黒のツートンカラーの髪と、燃える焔のような瞳。見慣れたスーツ姿ではなくカジュアルな私服に身を包んだその男は、赤司征臣の運営する会社の取引先の社長であり、大学時代の学友でもある火神大志その人であった。

「なんでって、年末だし日本に来たついでに挨拶でもと思ったらお前が書斎にこもってるっつうから」
「ここは私以外立ち入り禁止にしているはずだ。使用人達は何をしている!」
「いやあ、俺らのツーカーぶりを分かってくれてるから普通に通してくれたぞ。執事の爺さんなんかぜひ旦那様の話し相手になってくれ、ってむしろ進んで通してくれたし」
「くそ、あいつら全員年末のボーナスを無しにされてもいいみたいだな……!!」