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梶間
2024-02-17 12:21:38
2571文字
Public
カブライ
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カブライバレンタイン
当社比ほのぼのかわいめ
深夜、皆が寝静まった頃に部屋の扉がノックされた。
「まだ起きてるか?」
「起きてますよ。どうしたんですか」
応答しながら扉を開けると酒瓶を持ったライオスがいた。
「入っても?」
「どうぞ」
私室に置いてある来客用の椅子と机に着席を促す。
「それで用件は」
「良い酒をもらったから君と飲もうと思って。最近あまり眠れていないんだろう?」
不眠症なのは元からだったが、国を再興してからは激務のせいか割と改善された方だった。それでもたまに眠れない日々が続く時はある。
以前は眠る間際にウタヤのことが脳裏に浮かび眠れないことが多かった。それが嫌な気分になるので意図して眠らないようにしていたこともあったが、今眠れないのは気分が高揚していることが多いからだ。
連日様々な人物との会談、交渉、ヤアドから学んだ政治学を思い返したりとやることが多いがそれがまた楽しくて目が冴えてしまう。
寝ないと翌日に響くことは分かっているのだが、寝床についていても爛々とするので時間がもったいなく感じ、結局起きてしまう。
睡眠不足による体調不良にはならないよう極力気をつけていたつもりだったが、まさかライオスに心配されてしまうとは。
仕えるべき王に心配されるのは従者失格な感じがするな、と内心で自虐のため息をつく。
「眠れないのはいつものことですよ。慣れてるんで」
「健康な身体を作るには睡眠も重要だ。根を詰めすぎないでくれ」
変に勘がいいところは相変わらずだ。一介の冒険者の時よりは人に興味を持ってくれたのか、多少人間を観察するようになったらしい王は配下のことを案外見ているらしい。
「やることが多すぎて目が冴えてしまうんですよね」
「君にはいつも負担をかけているな」
だからせめてものお詫びに、とライオスが杯に注いだのはとろりとした甘い匂いのする酒だった。
「チョコレートの酒ですか」
「南方大陸で作られたものらしい」
チョコレートは故郷のウタヤより南か、南方大陸の一部地域で採れるカカオから作られている。採れる地域が少ないのと加工に手間がかかるので、南方大陸と隣り合うここメリニがある東方大陸でも長い船旅を経由しないと入手できないことも合間ってなかなかの高級品だ。
「珍しいですね、この辺でチョコを使ったものが手に入るなんて」
「交易品に数本あったから一本もらってきたんだ」
「ありがたくいただきます」
とろりとした喉越しとチョコレートの甘い匂い、味に舌が満足感を得る。随分頭を使っていたようでじわりと頭まで染み入るようだ。
「美味しいですね」
「喜んでもらえてよかったよ」
こちらが飲んでいるときは固唾をのんでじいっと見ていたライオスがほっとしたように顔を緩める。ライオスも杯を煽るとうまい、とにこやかに呟いた。
しかし、と内心カブルーは眉をひそめる。
よりによって今日か。ライオスが貴重な酒を持ってきたのがまだ自分でよかったな、と思う。
今日は広い地域で行われている恋人祭の日だ。恋人同士でプレゼントを贈り合う日であり、お互いの愛情を確認しあう日とされている。夫婦や恋人同士は勿論、気になる相手同士でプレゼントを贈り合い、交際を開始するものも多い。
甘い関係、という言葉にちなんで菓子を贈り合うのが通説になっている。
中でもチョコレートはその甘さと希少さが合わさり、贈り物として最上級の嗜好品として広く流布されている。
この日のためにチョコレートを遠い大陸から手に入れようとする貴族もいると聴く。求婚をこの日に合わせ、チョコレートを贈ることで求婚を成功させた富豪もいるとか。
つまり今日チョコレートを使ったものを相手に贈るということは、貴方を何よりも大切にする、という求婚以外何物でもない。
もっとありふれた菓子なら貴方が好きです、という告白になり付き合った振られたなどの悲喜交々が溢れるのが恋人祭の常である。
こいつこういうところまだ無頓着なんだよな〜とカブルーは呆れかえり、忠告しておくか、と口を開く。
「今日何の日か知ってます?」
「恋人祭だろ?」
何を言ってるんだ?と言わんばかりに首を傾げるライオス。
その態度を出したいのはこちらだ、と呆れるカブルー。
「恋人祭に恋人同士で菓子を贈り合う風習があるのは知ってますか?」
「もちろん。それ以外に大切な人に贈ることもあるだろ」
だからいっぱいもらった、とどこか誇らしげなのは良いが現状に繋げてもらえないだろうか。
「チョコレートはその中でも一番良いものです。誰に贈るにしてもこの世で一番貴方を大切にします、とか、人生をかけて一番愛する人です、とか最上級の告白になりかねません。まだ俺だったから勘違いしませんけど、他の人に贈るのはよくよく気をつけ
……
」
人間無頓着野郎にも分かるようこと細かに説明せねば、と滔々と話していたが途中で止まる。
説明している途中で、ろうそくの薄明かりでもライオスの顔が真っ赤になるのが分かったからだ。
そうだったのか、知らなかった。次からは気をつけるよ。そう言って真面目な顔で軽く終わると思っていたのに、この顔はなんだ。まるで本当に告白したような顔は、なんだ。
その、とライオスが小さく呟いた。
「その
……
そのつもりで一応
……
」
頭をガン、と殴られたような衝撃が走った。
そのつもり。つまりライオスは告白のつもりでこれを。チョコレートを自分に贈りものとして。
二の句が継げないでいると、ライオスはいたたまれなくなったのか立ち上がる。
「へ、返事はいらないんだ。友人としても君を一番に想っている。これからも俺を支えてほしいし、支えてくれる君に最大限の感謝を伝えたかっただけだから。それじゃおやすみ」
そそくさと部屋を退出する間際、冷やしてもそれ美味しいから、とライオスは言い残して扉が閉められた。
杯に残った分のチョコレート酒を煽り、机につっぷす。
顔と頭が熱いのは酒のせいだろうか。そう自問自答しながら世が更けていく。
後日、従者から逃げ回る王とそれを捕まえようと奮闘する従者の姿が見られたとか。
とうとう仲違いをしたか、と周囲から思われたが。
恋人祭の翌月、仲良く手を繋ぐ王と従者が目撃されたらしい。
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