望月 鏡翠
2024-02-16 23:50:02
934文字
Public 日課
 

#1271 「星座」「骨」「窯」

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 植物も木にならず、池を這うような低いものしか生えぬような高度に来ると、星の音が聞こえるようになる。光の粒がぶつかりあって、石英を擦り合わせたような、サラサラという音。
 その音は見習いに、故郷を思い出させた。温かい海で、波が浜辺で砂や死んだ珊瑚の欠片を動かすときの音。それに似ていたのだ。ここは海から最も遠く空に最も近い。
 目の前には竈門があり、見習いはそこに下から運んできた薪を用意していた。足りなければ往復する。これにより見習いは一人前になる頃には、狂人な体を手に入れているのだ。
 道中は危険だが山頂に登り切ってしまえば、寒さ以外の敵はない。薪を積み上げながら見習いは狩人を振り返った。
 弓矢を注意深く確認していたが、まだ弦を張ってすらいない。時折、空を見上げている。
 獲物を見定めているのだ。
 仕留めるのに相応しい獲物をじっと待っている。
 見習いが凍てつく夜の長さに飽きた頃、狩人はついに弓に矢を番えた。空を駆けるのは、一匹の星座の獣だ。
 鏃が空気を裂いて鋭く鳴った。
 星座の一番眩い星を、貫く。
 命を落とした星座は天から落ちてくる。天というのはとても高い場所にあるから、落ちてくるにもしばらく待たねばならなかった。
 落ちてくるのを待ってから、窯に運び入れる。待っている間に、火を入れる準備は整えてある。入り口を塞ぎ火を入れれば、高温になった窯の内部で骸は燃えて、骨だけが残る。そこから数日かけて、窯を冷やし内部が十分に冷えたら中から骨を取り出すのだ。星座の骨は内側に星の輝きを内側に閉じ込めたまま、ラピスラズリのように煌めく。
 それを一欠片も損なわないように壺に入れ、割れないように布で包んで下まで持って持って帰るのだ。
 その間に、狩人は変化を遂げている。
 星討ちの狩人は、天の星座を殺した罪を己の命で償わなくてはならない。徐々に獣に変わっていく。やがて骨を取り出して見習いが下界に降りる頃には、完全に人の姿を失って天に昇っていくのだ。
 それはミラないがいつか迎える最後の姿である。
 無口な師匠だった人の姿を、しっかりと目に焼き付けた。いつか星を討つときに、あの人を討つかそれとも避けるのか、自分の力で決められるように。