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望月 鏡翠
2024-02-16 22:12:21
996文字
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日課
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#1270 「雪」「叩く」「宿場」
#毎日最低800文字のSSを書く
寒くて耳が痛い。音がない。凍りついて取れてしまったのではないかとすら思う。恐る恐る触ってみると、頬にゴワゴワとした鹿皮の手袋が触れる。平たくて中の方がごちゃごちゃしている耳はそこにちゃんとついていた。
「もう直ぐ宿です。灯りも見えている。吹雪出す前には着くでしょう」
耳に手を当てている私を見て、頬を温めようとしていると思ったらしい。本当に冷えているのは耳だったけれど、大した違いがあるわけではなかった。とにかく寒すぎて、一秒でも早く温かいところに辿り着きたい。
こんな日に野宿をしたら、きっと死んでしまうだろう。
私には先を行く男の広い背中しか見えなかった。そこから逸れるということは、膝の高さまである雪の中に突っ込むということである。雪を自らの足でかき分けて進むのは、歩くというよりは漕ぐに近い。疲れ切った体にそんな体力などあるわけもなく、彼の後ろをピッタリとついて行くしかなかった。
突然、開けた場所に出た。雪の中から転がり落ちないように、男に抱え上げて地面に降ろされた。そこも雪が積もっていたが、ほとんど雪かきをされた後だったし、残った雪も硬く踏みしめられていて、歩くのがとても楽だった。
街道に合流したのだ。宿場に着いた。
体を支えるのに使っていた杖で靴を叩く。靴底に厚く踏み固められて固まっていた雪を払うのだ。少し背が低くなった。湿度が高いぼた雪は、歩くと靴底にまとわりついてくるのだ。
雪を払って、水を中に持ち込まないように整えたあと、玄関を潜った。
宿の主人は、日暮近くにやってきた人を見て驚いたようだった。
「二人。泊まれる場所があるといいのだが。なければここの土間でもいい。屋根があるところで寝かせてくれ」
「ああ、そんな。大変だったでしょう。こんな日ですから部屋は空いております」
部屋に案内されて、私は心のそこからほっとした。温かい部屋で、布団で寝ることができる。上等な宿らしく、部屋に入れば火鉢を用意して温めてくれた。
濡れた上着を脱いで、乾かす。
食事も用意があるので、食べる時は下に降りてくるように言われた。
私たちは顔を見合わせた。
宿の主人は仕方がない。だが、一目についてしまう状況というのは、私たちにとってなるべく避けたい状況だったからだ。親子でないことがバレてしまいませんようにと、私たちは毎日祈るような気持ちでいる。
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