【カミ東】考えることは一緒

VTネタで竹内さん視点のカミ東なお話。東雲マンション男性陣揃い踏みとも言う。ねつ造ご都合主義満載。

ルーティンである朝の自重トレーニングを終え慎ましく筋肉に必要な栄養素を朝食で補う。言うまでもなくトレーニング前のプロテインは摂取済みだ。
冷蔵庫を開け幾つも重なった保存容器のひとつを取り出し電子レンジ入れ温める。時間がある内に作り置きしたそれはグラム数とカロリーが掛かれたテープが貼られており一目見てどれを食べていいのかが分かる。
「イタだきます」
温められたボイルした鶏のむね肉、ブロッコリーを黙々と食べる。咀嚼回数を意識しての早食い防止。満腹中枢も刺激され次のプロテイン摂取時まで空腹を抑えた。
品数は少ないが、そこそこある量を時間を掛け食べ終え使った食器を洗う。給湯器のお湯を使うまでもない量の洗い物。流水から伝わる冷たさを保存容器に付いた泡と共に流し振るい落とす。
水切りラックに容器を置き、壁掛け時計に目をやる。普段であればこのあとトレーニングで掻いた汗をシャワーで流し出勤の身支度を開始する時間だった。
「まあ、今冬季休暇中デすし」
流石にルーティンを開始する時間を遅らせてはいないが、それ以外の時間はゆったりまったりだらけない程度に最近過ごしていた。
ただそれでも体に染みついた動きは特に考えずとも勝手に動いていく。流れるように着替えを持ち風呂場へと向かい、はじめこそ冷たかったシャワーが熱くなるに連れ頭から被る。
大家さんから紹介された新しい職場は深い渓谷の中。この季節一度雪が降れば安全面の考慮及びそもそも雪深い中来る物好きなお客様が皆無というのもあり、雪の時期が落ち着くまで働くスタッフ全員に長い冬季休暇を申し渡されている。変わりに書き入れ時である夏は殆ど休みが無い。よくて盆休みを数日ほど、しかもスタッフ同士ズラして取り合う。
「確か北海道ハ夏休みが短くて冬休みが長かったンでしたッケ」
蛇口を閉め曇った鏡を手のひらで拭う。鏡に映り込む姿にひとり頷き、育っていく筋肉の様子を確認してから風呂場から上がった。

「暇ですねェ」
飛び降り自殺するまでの労働はクソですが、今の職場はやり甲斐や職場の人間関係も良好で正に天職と言っても過言ではない。
ただ嫌なことや辛いことが一切ないわけじゃない。そもそも労働ってものはそういうのを含めて割り切ってやるものです。飛び降り自殺に追い込むほどの真っ黒な職場はクソなのには変わりませんが。
特に予定があるわけもなく着替え終わるなりそのままコートを羽織り部屋を出た。露出している肌から熱を容易く奪う冬の空気。白い空気の尾を追い飛び降りたくなる衝動を脳内に大家さんを召喚することで回避した。
「本当はいツも飛び降りタいんですが」
コンクリートに罅が入るって言ってるだろうがあっ! 今度やったらテメェに修復代請求すっからな! と言われてしまったら止めざるを得ない。
雪搔き済みの廊下を未練がましく歩き、エレベーターのボタンを押せばすぐに来たので乗り込んだ。
「イヤ、逆に代金を支払えバ飛び放題?」
何やら良い閃きが浮かんでいる間に4階から乗っていたエレベーターが1階に着いた。
エレベーターホール、エントランス、管理人室にひょっこり顔を出してみましたが如何やら管理人さんは席を外しているらしく誰もいなかった。
少ない階段を下り適当に街中をブラつくかと敷地内から出ようとすれば駐車スペースに人の気配を感じ視線を向ける。雪掻きされていない場所で二人分の白い息が上に登っていた。
「お、竹内ー。お前にも渡すからこっち来てー」
此方の視線に気付くなり二人の内一人、大家さんが手を振り呼ぶ。そんな彼女の横には自分と同じ冬季休暇中のセミさんがいた。寒いのが苦手と以前聞いており、特にセミさんの冬の装いは着膨れよろしくモコモコで夏の終わり頃から身長が縮み始め、殆ど大人と子供の身長差になっている。
新雪ではない雪を踏み締め大家さんの傍に寄れば、手を出すよう促されたのでコートのポケットに突っ込んでいた手を差し出した。
「ほい。早いけどバレンタイン」
「ドモ」
手のひらに転がる正方形のそれはよくコンビニレジ前に置いてあるものだった。一粒のチロルチョコの存在感も去ることながら、正直大家さんがこのイベントそのものを知っていることに驚いた。
というかチョコレートの類渡してくれるのですねえ。
「いや~、もう働いてねェしチョコ渡す人数少なくて助かるわ」
たはー、と笑う大家さんが実に”らしく”思える。
「じゃ、来月の三倍返し期待してっから」
一気に悪そうに笑う大家さん本当に彼女らしく思えるのはそこそこ長い付き合いだからだろうか。
「同じのモラった」
「良かったデスね」
セミさんは人間ではないため、その手のことに疎いのが多々あり良く自分や他の人間霊の皆さんに質問をしているが今回は分かっているか心配だ。
でも、バレンタインは数日後。まだ猶予があるのと、はじめからマンション入居に誘ってくれた感謝を含めたお礼の品を渡すつもりだったので問題は無い。
「それではコチラもバレンタイン当日に渡すので三倍返しハ無しというコトで」
「えーっ」
「ン? お返し早ク渡してイイなら取って置きの蜂蜜渡ス」
「ええーっ。めっちゃ期待してたのによー。三倍返しィー
そもそもチロルチョコを三倍返しにしたところで多寡が知れているのでは? そんな疑問が口から思わず出そうになったのをバレないように飲み込んだ。
これ見よがしに項垂れる大家さんの旋毛を見ていれば、何か物音がしたので周囲を見渡す。
視界端に映り込む白い影の正体は101号室の彼だと分かるのに然程時間は掛からなかった。軽快な足取りで大家さんと同じ系統の上着を羽織っているカミキリさんが合流した。
「皆ナニしてるの」
「大家サんからチョコ貰ってタ」
カミキリさんの問い掛けにセミさんが応え、彼は大家さんから貰った一粒のチロルチョコを見えやすいように指でつまみ上げる。
瞬間、カミキリさんの大きな目がチロルチョコに注がれ、その視線は此方にも向けられた。自分も彼女から貰ったチロルチョコを手のひらに乗せ彼が見やすい位置まで下ろせば、今度はその眼差しを大家さんに向ける。
「大家サん僕の、」
「カミキリさんのは無いよ」
食い気味に被せられた言葉。何処かの屋根から落ちた雪の音だけが自棄に響き渡った。
大家さんを中心とした気まずい空気は、中心にいる彼女にだけ全くもって伝わっていない。現にミトン手袋を付けているカミキリさんの指先が徐々に丸まっているのに視線を送っているのはセミさんと自分だけだ。
……僕の分、ナイ」
雪が降り積もった駐車場に溶け込んでいく消え入りそうなカミキリさんの声は震えているようにも聞こえた。
とっくに貰っているとも思えないその姿に胸の奥が痛む。
それはあんまりじゃないですか。そう言おうとした矢先、何てこと無いように大家さんが口を開いた。
「あんぜカミキリさんの分。今持っていないってだけで、ちょっと取ってくるから待っててな」
呆然とする自分含めた三人を残して大家さんがマンションに戻っていく。駐車場から見上げた先、小走りで廊下を走って行く彼女の姿を追い404号室に入っていくのを見届ける。
すると、すぐさま部屋から出て来るなりまた小走りで廊下を走り暫くしてから駐車場に戻ってきた。
「これな、カミキリさんの分」
大家さんが手に持っていた小さな紙袋をカミキリさんに渡した。シンプルな白い光沢のある色合いの表面に落ち着いた茶色の文字で恐らくそこの店名が印字されているが反射してよく見えない。
「前にバイトしてた洋菓子店のチョコプリン。美味いんだぜそれ」
「チョコプリン……
大家さんから渡された小さな紙袋の口をそっとカミキリさんが広げたのでセミさんと一緒に覗き込んだ。
紙袋の底でちょこんと座っているチョコプリンがふたつ。こちらを何だ何だと見上げていた。
チョコプリンからそれを渡した張本人を見れば、ドヤっと胸を張り笑っている。そして、それを貰ったカミキリさんに再び視線を向けたら、口を結んでいるものの口角が緩やかに上がっていた。

「(・・・あー)」

今更ながら諸々納得した自分が胸中緊張感のない間延びした声を漏らした。
如何見ても我々と違う扱いの差。カミキリさんのリアクションと大家さんの顔つき。何より、よくよく見れば二人お揃いコーデじゃないですか。
「(コレで付き合ってなかったラ嘘だ)」
そして、それはカミキリさんを挟んだセミさんも気付いたのか無言で目配せしたのち、大家さんとカミキリさんが公言しないのであればそっと胸の中に留めようと同じタイミングで頷いた。
「──ありがとう大家サん」
「いいって事よ。でも、来月期待してっからな?」
先程と打って変わり春が来たのではないかって見紛うばかりなカミキリさんと、悪戯っぽく笑っているものの仄かに寒さからとは思えない目尻を赤く染めた大家さん。
如何見てもそれ。如何考えてもそれ。こんなところで露呈してしまっていますが大丈夫でしょうか。
もっともまだ完全に確定したとは言い切れないのも事実ですが、まあまあ殆ど付き合っているのではないでしょうかこの二人。
「そうだ。僕も用意シテあるから今渡しテいい?」
「えーっ、カミキリさんもかよォー」
三倍返しィ、と嘆く大家さんを余所にカミキリさんが自室に向かい、程なくして大家さんが持ってきたものとは違う小さな紙袋を抱えて戻ってきました。
「はい」
大家さんに紙袋を渡すカミキリさんは何処か得意げで、渡された大家さんが若干押され気味なのが珍しかった。
いそいそ彼女の傍に寄り少々見辛そうなセミさんを抱えつつ、大家さんが渡された紙袋を広げるのに合わせ中を覗き込んだ。

「僕もアナタと同じチョコレートプリン。ここのお店の期間限定商品。とっても美味しイお気に入リ」

紙袋の底にいる似たような光景から視線を上げれば顔がニヤつくのを必死に我慢している大家さんが其処におり、そのまま視線だけをカミキリさんに向ければ既視感溢れる胸を張りにこやかに笑うカミキリさんがいました。
「(あ、これ完全に付き合っテる)」
90%の確率が100%になったのを垣間見た瞬間だった。