古賀峰十一郎
2024-02-16 13:17:10
1623文字
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君、堕ちたもうこと勿れ

わざいの、ユートピアくんが現れた頃の話、書き途中ですが記法が使えてるかの確認で投稿してます

 “それ”が現れたのは20世紀の終わり、恐怖の大王が落ちてくる七の月、その少し前の蒸し暑い初夏の日であった。
 そこはあまり使われていない大学の倉庫で、最近は例にも漏れず世紀末ブームにはしゃぐ学生の溜まり場になっており、幾ばくかの食料に手作りの濾過装置、そしてトンテンカンと拵えられた不恰好な棺の並ぶ空間で、すでにここにはもうアポカリプスの訪れたような姿をしていたが、しかしそれでいて希望を閉じ込めるシェルターでもあった。
 かつてそこで活動していた学生の1人はこう語る、あれは未来への希望を乗せた船であったのだ。であれば、“彼”が降りてきたのも理に適った話であったのだと。
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 その日、いつものように3限の講義をフケた不良学生たちは基地の鍵を開け、カーテンもない密室に光を見た。光は丁度真ん中の棺におさまっており、扉から差し込む陽をよく反射している。朝をむずがる子供のように、いや、実際それは子供の姿をしていた、学生たちの半分ほどの年齢に見える子供は目元を擦りながらもまだ起きない。一先ずは死体でないことに安堵した学生たちは恐る恐る棺に近づき子供を揺り起こした。キラキラと光る金のまつ毛がゆっくりと上がる。学生たちは再びおどろいた。自分たちを見てうっそりと微笑んだ子供の瞳は、人間にはあり得ない獣の瞳孔を隠していたのだから。
「おはようございます」
 学生たちは澄んだ声が部屋に響くのを聞いてハッと息をつく。
、すみませんが、ここはどこなのでしょうか?」
「どこって、〇〇大学の端にある倉庫さ……、嫌だね、終末の日も近いってのに犯罪者が紛れ込んでやがる」
 最後の方は憎たらしげに吐き捨てた言葉だったが、子供はきょとんとした顔で学生たちの顔を順番に眺めている。悪態をついた学生がどうにも身内にネズミがいると見ているのを疑問に思うような顔で。そうして何か納得したようなふうに頷いて、そうしてようやく名乗った。その緑の瞳に灯る鮮やかな光が学生たちの瞳に染み込んだ憂いを一つ一つ丁寧に拭ったのだと、後に誰が語ったかはしらない。しかし、その場にいた誰もがそう思い込んだのだ。
「申し遅れました、学生さん方。私はUtopia、ご存知でしょう?1516年生まれの……
 部屋に差し込む唯一の光を一身に集めたボーイソプラノが示す名が、よりによって理想郷であったせいで。
 誰かが言う、ついに扉は開かれてしまったのかと。誰かは言う、神の国は我々を迎えに使いを寄越したのだと。誰かは言う、いいやこれは抗う我々を罰する官吏であると。実際のところ、子供は4年ほど前に突如この国に顕現しだした擬人化というものの一つに過ぎないのだが、星の巡り合わせと言う他がない。かつて描かれた天使のような金の巻毛、悪魔の如き緑の瞳、聖歌隊のような声で騙るのは、存在し得なかった理想郷の名。何より学生たちの目前には世界の終わりが口をあけて待っている。真実というものはいつだって証拠を重ね合わせた共通幻想である。
 故に彼らは、光を見たのだ。
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 彼、ユートピアはノストラダムスの大予言のことは知らないが、学生たちが今に来るであろう奈落を恐れながらも楽しんでいることに憤りを見せた。当世の価値観を識ろうとする彼は、若いと見た青年らを子供であると認識し、未来あるべき子供に未来というものが来ないことについてまず憤った。それから、既に未来を諦めその終わりを遊びのように楽しむ彼らへ憤った。だからこそ、己が何であるかを悟りつつも子供たちの勘違いに乗ることを決めたのだ。子供みらいに幸福を絶やさないための機構、それこそが民を乗せる船である国家のあるべき姿であると。それが束の間の支えであったとしても、虚構であったとしても、そのいつかの信仰の輝きが星にならんことを願うことしかできないが、その願いを両の手から溢さずにいたいと、そう決めたのであった。