ゆるゆると腹をさすられる。それだけで発情しきった身体はこれから埋められる熱の質量を思い出してきゅう、と甘くふるえる。あさましい身体にうんざりして小さなため息を吐けば普段は手袋に覆われた白くて薄い手のひらが頬を撫でた。
〈また変なこと考えてたでしょ〉
「変なことって……変に決まってるじゃねえか、こんな身体─────ひぃっ!」
宣言なしにくっと押し込まれた腹の中で甘やかされすっかり敏感になった内臓がきゅんきゅんと震える。とんとん、すりすり、とんっ。リズミカルに腹を刺激されると勝手に上擦った喘ぎがこぼれる。まるで楽器にでもなった気分だ。
力の抜けた身体をベッドの上に投げ出してはあはあと荒い息を繰り返す。忌まわしい異形の右腕は沈黙したまま。この行為を、これから行われる行為を受け入れている。はらわたを暴かれ、雌として扱われるのを受け入れている。後天的に埋め込まれた虫の本能が雄を求めている。なんて醜い。汚い。悍ましい。
ああ、果たしてこの感情は、このひとならざる無機物のあたまを持ったおとこを愛しいと思う感情は、ほんとうに俺のものなのだろうか。手頃な相手だと、雄を求めた虫ケラの頭に思い込まされているだけなのではないか。水に飛び込まされる蟷螂と同じように。目立つ場所に連れて行かれて鳥に喰われる蝸牛のように。都合良く脳を操作されているのではないか。
思考がぐるぐると回りながら落ちていく。ぶち、と皮膚が裂け、頬から醜い虫の脚が飛び出した。ああ、やっぱり。やっぱり俺は虫なんだ。ひとに成れるはずもない、虫ケラなんだ。
〈大丈夫だよ、グレゴール。大丈夫、大丈夫〉
「だんな」
〈君は人だよ。人間のままだ。君の想いは君のものだ〉
「だん、な」
〈だから、ほら。今は私のことだけを考えて。私のことだけを感じて。ね?〉
くちづけの代わりにふに、とやわく唇に触れられる。抱きしめるように覆い被さられた身体の熱が心地よい。薄い、戦うものではない頼りない背に手をまわす。沈黙を守ったままの右腕もそっと添えて。
「続き、やってくれよ」
〈いいの?〉
「ああ。このままじゃ収まらねえからさ。俺も、ここも」
男の薄っぺらい手をとって、放置されたままだった腹をゆるゆると撫でさせれば悦ぶようにきゅう、と疼く。愛しいひとに触れられたくて、奥の奥まで暴かれたくて胸がきゅう、と締め付けられる。この胸の痛みはきっと虫ケラじゃない、人間 のものだ。
快楽につられてぶちり、ぶちり、とまた蟲の身体が皮膚を破って顔を出す。それでも目の前の男は気にせず俺を愛でる。虫 すらも愛おしいと言いたげに指で触れて愛でていく。
「だんな、だんな。……だんてさん」
〈うん、私はここだよ、グレゴール〉
気持ちいい、幸せ、大好き。僅かばかりの愛撫で既に馬鹿になってしまった頭に浮かぶ言葉をぽろぽろとこぼす。きっと明日、正気に戻ったら羞恥で頭を抱えるんだろうなあ、と欠片程残った理性がそうぼやいた。
「なあ、はやくおれのなか、あんたでいっぱいにしてくれよ」
俺って意外と寂しがりなんだ、なんて笑ってどこかの世界の自分の言葉を吐いた。
グレゴール
恋愛でも卑屈でついでに奥手な虫おじさん
でろでろに愛され身も心もしっかり堕とされてるのに虫の因子のせいだと思い込んでどんどん卑屈になる面倒な男
ダンテ
卑屈で奥手な恋人がかわいくて仕方がない時計頭
不安がる恋人をでろっでろのどろっどろになるまで“わからせ”たがしばらくするとまた卑屈になる、知ってた
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