頻子
2024-02-16 00:50:57
2068文字
Public KODR二次
 

指輪をくれないやつ(KODR)

ベケニュ
捏造おチビちゃん(ベーケス2世)

「ふ、ふふふ……ふふ……
 父上は、ご自分の部屋で、ニヤニヤと宝石箱を眺めていた。
 薄暗い天気と相まって、実に実に陰気である。
 父上はとても用心深く、宝物をおおっぴらに見せびらかすタイプではない。ダイジなものは、囲いの中に置いたり、宝箱にしまっておくタイプだった。使用人にすら触らせずに、時折こうして自分であらためるのだ。
 きれいだね。
 父上の膝に無理やり乗り上げながら、ぼくも宝石の輝きのご相伴にあずかることにした。
……
 父上はものすごく微妙な顔をしたが、ぼくの行動を黙認した。なんたってぼくは次の魔界王だから、実の父上ですら邪険にすることはできない。そのはずなのに、ぼくはお尻をぴしゃりと叩かれた。ちょっと触ろうとしただけなのに……。父上はため息をつくと、広げた布の上に宝飾品をおいた。
 箱の中には、赤いガラス玉や、葉っぱの標本とか、よく分からない、がらくためいたものも多い。細かいものも多いけれど、一つでも減ったら父上はすぐに気が付いてしまうことだろう。父上の趣味は理解しかねるところがあるが、ぼくも宝石は好きだ。父上はひとしきり楽しみ、埃を払ったあと、丁寧に宝物をしまいなおしていく。
 父上の隠し財産である。
 一番大きいのは弟にはあげないでね、とぼくがねだると、「一人前に俺からもらう気か?」と、ニヤついた。ぼくが権力をちらつかせると、父上は存外喜ぶのである。
 父上の袖をひっぱると、ぼくは聞いてみた。
 魔界王族の指輪ってどんな指輪?
 父上の表情が強張った。
「俺の宝石は今見せたろう? なんだ? 魔界王族の指輪?」
 それじゃない。父上がいつも白い手袋の下に着けている、魔界王族の指輪だ。ぼくはちゃあんと知っている。父上が、魔界王から指輪を貰ったことも。そしてそれが、いずれはぼくのものになるということも……。魔界王は失くしてしまいそうだから、と、お城の宝物庫に入れてるはずだが、父上はずっと身に着けている。
「そんなものはない」
 いつも眺めてニヤニヤしているじゃないか。暇さえあればじーっと眺めているじゃないか。近づくと慌てて隠してしまうけど、しているはずだ。
「ないったら、ない」
 父上はかたくなだった。
 とぼけるつもりなのかと、ぼくは父上に詰め寄る。
 今見るのも、あとでみるのも、おなじことだ。いずれはぼくのになるんだから。
「フン、そうだな。いずれは、王座はおまえのものかもな……。それはいい。一万歩ゆずってそうかもな。だが、指輪は俺が貰ったものだ。この俺が勝ち取ったものだぞ。ニュートに愛されてるのは俺だ。誰がやるものか」
 ぼくは唖然とする。
 父上はぼくに指輪を譲り渡す気はないのか!
「俺は吸血鬼一族として、ふさわしい働きをして、ようやくニュートに選ばれたんだ。婚約を結んで、棺の中で耐え――それをお前はなんだ? ただ、生まれてきただけじゃないか。たったそれだけで――
 ……
 ぼくが神妙に黙ったのを見て、父上も慌てて口をつぐんだ。 
 ちっ、惜しかった。
 魔界王がいらっしゃったのである。
 ぼくが結婚するときに、父上が王族の指輪をくれないというのだ。ぼくはここぞとばかりに言い立てた。魔界王はびっくりして、そんなこと言ったのか、と、父上に聞いた。
「いや、俺がしていたのは、適正な時期の話であって……こいつにはまだ早いだろう? それにほら。ああ、そうだ。新しいのを作ってやってもいいけど……いや、そうしよう! ほらっ、ニュートも、新しいのを作らせた方がいいと思わないか? だって、デザインが古くさいし、な、そうだろ」
 魔界王は言った。
 もともとは魔界王の、魔女一族の指輪じゃないか。
 ……
 何かにつけて魔界王を丸め込んでいることに心を砕いている父上にしては、なかなか要領を得ない説得だった。
「だいたい、ニュートが悪いっ! ニュートは普段は指輪を身に着けていないでしまっているじゃないか! 俺に対する裏切りだ! それなのに……
 父上はここぞとばかりに論点をずらした。

 父上は指輪をやらないとごねにごねて、いつか手放すのだからと、代わりに、目が飛び出そうなほど高価な指輪を贈ってもらったようである。血の色をしたルビーの指輪……。ものすごく大きな石のついた指輪。いったい、ピクシーにいくら払ったんだろうか?
 加工するだけでも恐ろしくなるような値段に違いなかった。
 父上は、それを大切にしまって眺めるだけだった。ぶっちゃけ、「どれだけ犠牲を払ってもらうか」の方が大切で(っていうか、ほかのぜいたくをしてほしくないだけで)、あんまり大きな石は好きじゃないのだ。……小さいのはプライドが許さないけど。
 あの騒動から、父上は魔界王族の指輪をかなり注意深く管理している。ちょっとだけ見せて、貸して、触らせて、と頼んでみても聞こえないふりをして、ぜったいによこしてはくれなかった。
 ステキな指輪は、しばらくはぼくの手に渡るようすはなかった……