燐々
2023-11-28 16:51:17
1016文字
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視線が合わない

長田夫婦…時ちゃんとか、長田夫婦関係のことを考えると辛くなりますね。
翁が作った子(そのままの意味)なんだとしたら、本当に地獄だけど大丈夫…?みたいな妄想の産物です。

夫婦間の会話口調やら呼び方やらは捏造です。ほぼ無かったから仕方ない…!長田…庚子さん…そういう所だぞ…

「お嬢様」
「幻治」
 そんな風に呼び合う二人を遠巻きに見ていた。幼い頃からあの人は一度たりとも私の事など見てはいない。そんなことは誰に言われずとも知っている。
 
「庚子殿」
 ひやりとしているのか、温度があるのかも分からない夫の声に振り返る。勿論そこに立っているのはいつでも柔和な表情が張り付いて顔に浮かんでいる男。
「どうかしましたか?」
「お加減が良くないのかと思いました」
「私がですか」
 私の顔色なんて、この人に分かるのだろうか。夫婦であると言っても他の人を心に置き続けている人が分かるとは到底思えない。
「どなたかと間違えてませんか?」
 少なくとも私ではないでしょう?例えば、さっきまで一緒だったはずのお姉様の顔と間違えているとか。姉妹で顔が似ているとは思わないけれど、ずっと見ているせいで元の顔の色を間違えたとか
 ぐるぐると考えて、俯いていた私の肩にそっと触れた手の平に驚いて、弾かれたように顔を上げた。
「貴女は庚子殿でしょう」
「私の……私の顔の色が分かるのですか」
 無言で頷く姿を呆然と見つめた。目が合っているのか合っていないのか。それすらも分からない夫が私の顔色が悪いことを理解している。誰かと間違えている訳でもなく私を見ていたのか、この人は。
 そこまで思考を巡らせた時に、ふと理解した。
(見ていなかったのは私の方ね)
 見られていないと決めつけて、思考を割いて貰えていないと決めていたのは私の方。心は近くに置いていなくても夫の視線は私には向いていたらしい。
 
──そうでなければ、この地獄のような日に夫が私に声をかけてきたりしない。
 
「無事に勤めを終えたので、疲れているだけです」
「上手くいきましたか?」
「どうかしら」
 すっと、私の隣に立った人の腕に手を添えた。妻らしく腹を庇う親らしく
「行きましょう、幻治さん」
 見上げた夫の視線は私を通して遠くを見ている。その視線の先にいる貴方の大切な人が幸せになれば良いですね。
 
 私の夫は、しっかりと私を見ていた。そうすれば、あの人が苦しむ時間がこの先減るのかどうか、すぐに分かるから。
 私の夫は、しっかりと私の事を考えていた。そうすれば、あの人の幸せの為に頭を働かせているような気がするから。
 
 この人の思考も行動も全ては、愛する人の為にある。でも、それを向ける相手は私ではないのでしょう?ねぇ、あなた。