望月 鏡翠
2024-02-15 02:01:29
922文字
Public 日課
 

#1267 「旅鳥」「森」「貸し家」

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#1267 「旅鳥」「森」「貸し家」
 人には見えない通り道がある。たくさんある道のうちの一つが、私のコテージがある森を通っている。空の道。そこは季節ごとに北から南へ。あるいは南から北へと渡っていく鳥が通り抜ける道だ。ここが選ばれたのは、羽を休める止まり木が多くあって、身を隠しやすく、綺麗な水と虫や木の実といった食事が揃っていたからだろう。
 金持ちの別荘地としての一面を持つこの辺りは、市街地よりも緑が多く美しい環境が保たれている。少し山の方に行けば、まだ手付かずの自然も残っている。別荘を持つ人間たちは、この辺りが美しい自然を残した場所であることを求めた。
 だから住民マナーもよく、いきなり公園でBBQを試みる無鉄砲な若者や、ゴミの放置が問題になることもない。
 旅鳥は、長く止まることはない。
 あくまでこの森のあたりを通り抜けていくだけだ。
 だから、枝に止まる小鳥の羽の色を見ればもう直ぐ夏が来るだとか春が来るだとかを察することができる。
 私はそれらをもっとよく観察したいと、木の板を組み合わせて簡単な箱を作った。屋根を付け、中に入りやすいように穴の横に足場を設置すると家の窓から見える場所にくくりつけた。
 数ヶ月経ったが、私の貸し家が彼らの休む場所になることはなかった。当たり前だ。彼らは旅鳥である。通りすがっているだけだ。巣を作って、腰を落ち着けるわけがない。
 それは目的地でやることだ。彼らは営巣地に向かっているのだ。あるいは繁殖を終えて、越冬のためにそこから南に旅立っていくのだ。巣箱を見つけて休むくらいなら木陰か民家の軒先を見つけた方が早い。彼らは外敵が来ない場所で雨風が凌げれば十分なのである。
 私はそのことに巣箱を設置する前は気づかなかった。
 だから無用の長物となってしまうかと思えば、そんなことはなかった。
 半年ほど経ったあたりだろうか。
 鳥が巣箱から出入りしているのを見た。旅鳥ではない。この辺りに通年いる鳥だ。何も森にいる鳥は、渡りをするものばかりではない。
 豊かな自然が育んだ小鳥がもっとたくさんいる。
 私は嬉しくなって双眼鏡を買い、毎日自宅の窓の内側からそっと新しい住人を観察した。