望月 鏡翠
2024-02-14 22:23:46
1095文字
Public 日課
 

#1266 「つむじ風」「王妃」「煙草」

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 たとえパーティーの日でも、いつもの仕事が減るわけではない。朝に綺麗にしても夕方にはもう枯葉が落ちている。もう直ぐ本格的な冬になってどこもかしこも白く凍りつき、ようやく木々も私たちもゆっくりと休めるようになるだろう。
 箒を持って庭園の掃除に行く。今日はパーティーがある。暗がりの庭なんて誰も楽しんでやしないが、パーティーを抜け出して二人でこっそりと秘め事に励んで股座を濡らす男女が度々やってくるから、掃除に手は抜けない。
 庭の隅に落ち葉が、なんて言われたら、そんなところで何をしていたんですかなんて聞かれることはなく、使用人が責められる。
 庭園迷路を抜ける風は、行き止まりにぶつかって惑う。曲がり角でよくつむじ風みたいにくるくると回って、落ち葉を一箇所に集めていた。
 狂い咲きの薔薇が咲いている。匂いはあるだろうかと顔を近づける。だが鼻先に感じたのは苦くてイガイガとする煙草の臭いだった。誰かが庭園迷路の奥で、煙草を吸っている。迷子かそれとも故意に隠れているのか。
 そのとき、胸にあったのはこんなところで煙草を吸うような物事を心得ない誰かによって、火事が起きたらどうしようということだ。
 吸い殻が投げ込んであるくらいならばいい。だが火が消していなかったら、枯葉に燃え移るかもしれない。冬の空気は乾燥して乾いている。一度火がつけばあっという間に燃え広がる。仕事を失うのは嫌だ。
 一体誰なのか、恐る恐る臭いの元を確かめに行く。垣根の下から、キラキラと星の煌めきが見えていた。覗き込んでようやくそれが、星ではなくてドレスの裾だと分かった。宝石の粒を散りばめたような美しいドレスだった。もしかしたら縫い付けてあるビーズは実際に宝石の粒なのかもしれない。
 その人にはそれくらいの力があった。
 王妃様だ。
 煙を空に吐き出して、空を見上げる横顔は彫刻のように美しいが、温度がない。下々から考えれば何を思っているのか、全くわからない人だけど、今はさらに冷たく見えた。
 息を呑む。驚いた拍子に枝葉を揺らして、王妃様はこちらを向いた。
「おや」
 振り向く。動いた。彫刻じゃないんだ。
「私に何か言いたいことがある?」
 パブにいそうなはすっぱな口調であることに、驚かされた。この人は本当はこういうふうに話すんだ。相手は王妃だ。向こうは私に話しかけてもいい。話しかけなくてもいい。だけど、私は話しかけてもいいのだろうか。
 どうしたらいいのかわからないまま見つめていると、王妃は口元を和らげた。
 笑った。彫刻じゃないんだ。
 私はその人が何かをするたび、全てのことを意外に思った。