斎藤が夜更けに土方のカルデアにおける自室を訪ねるのは、さして珍しいことではない。仕事のためであっても、『それ以外』の用向きであっても。
「……副長」
「なんだ」
薄明りの部屋で、二人は膝がつくかつかないかというくらいに寄り添って座っている。土方は足を崩していたが、斎藤はまるで叱られている最中のように俯いた正座姿だった。
「そろそろ、お休みの時間ですが、その」
常よりも固い声で言う男の目には、静かな、しかし確かな欲がこもっている。
土方と、土方が誰より信頼する隊士である斎藤との間に、仕事仲間とは異なる関係性が加わってもうずいぶん経つ。この部屋で情を交わしたのだって一度や二度のことではない。なのにいつまでもどこか初心な年下の男の態度を、土方は密かに好んでいた。
「ああ、もう寝るか?」
「えっ⁉︎いや、あの……」
思わずといった様子で斎藤の右手が土方の左手をとらえる。いつもつけている手袋を外した掌の温度は男の興奮を雄弁に伝えてくるが、言葉はそれに追いつかずうう……だのええっとだのと口をもごもごさせるばかりだった。
「どうした?」
掴まれた手を握り返して指を絡めてやれば、斎藤の心臓が跳ねたことが伝わってくる。普段はのらりくらりとして何事も卒なくこなす優秀な部下が、閨ではこうもわかりやすいのが土方には愉快でならなかった。ましてこんな時くらい素直になれと躾けたのは自分なのだから尚更である。
「なあ斎藤、どうしたいんだ?」
繋いだ手の親指でくすぐるように手首や指の付け根を撫でてやると、斎藤の顔はいよいよ耳まで赤くなる。このまま押し倒すのもやぶさかではないが、せっかく珍しく斎藤の方から誘いをかけようというのだから、もう少し焦らして反応を楽しみたかった。
「…………」
斎藤の口ははくはくと音も出せずに開いたり閉じたりするばかりで、目にはうっすらと涙の膜が張っている。土方を咎めるように握った手に力をこめるものだから、つい揶揄いたくなりそのまま引き寄せて指先に軽く口付けてやった。
そうすると斎藤はいよいよパニック状態で視線がぐるぐると彷徨いはじめる。少し揶揄いすぎたか、と土方が動こうとしたその時だった。
「……お前、何してんだ?」
「み、見たらわかるでしょう!」
土方と繋いでいない左手で、器用に自分のワイシャツのボタンを外しはじめている。
これからしようとすることを思えば服を脱ごうとするのはおかしいことではない。しかしベルトのバックルに手をかけ下も脱ごうとしたあたりから、明らかに片手では難儀そうになってきている様子を見て、土方は思わず言ってしまった。
「いや手を離してから脱げよ……段取り下手くそか……?」
土方の至極冷静な声に斎藤は一瞬固まったが、すぐにぷるぷると身体を震わせ、繋いだ手をぶんぶん上下に振り始めた。
「あんたが混乱させるようなことするのが悪いんですよ! 第一俺から誘ったことなんてほとんどないんだから下手くそで当然でしょう⁉︎文句があるならいつもみたいに押し倒してく……あっいや強引にされたいという意味ではなくその!」
いくら慌てふためく男がかわいいといっても、こんな子どものような癇癪を起こさせてしまってはさすがに土方も反省せざるを得ない。機嫌を直してもらおうと、まずは喚いている斎藤の身体を抱き寄せようとした。
しかし両手で抱き寄せようとすると、必然組んでいた手は離れることになる。
「えっ待っ……」
その声があまりに寂しげで、土方も思わず動きを止めた。離れていこうとする指をほとんど無意識に捕まえて、そうしてしまった自分に驚いているようだった。
相変わらずまともな言葉はひとつも言えていないのに、込められた力でどうしても離したくない、離れないでと切に訴えてくる。
土方は、喉の奥から笑いが漏れるのを抑えられなかった。
「なんだお前、結構誘うの上手いじゃねえか」
男の望み通り手を組み直してやり、抗議しようとする口は塞いでしまおう。
二つの影がようやく重なり合った。
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