ガイベル
2024-02-14 00:00:01
4459文字
Public お話
 

『My sweet little daisy,

『眠れない人』の続きみたいな話。
ED数年後ナチュラル同棲(?)とか思ってたら全然まだ同居ルームシェア止まりだった
両片思いですったもんだ

部屋に柔らかな日が差し込み、サニーはパチリと目を開けた。
いつも寝つきの悪い割には、起きてすぐに行動できる程度に寝起きが良い。
……早起きかどうかは別として。
しかしそれにしたって、今日はいつもよりもよく寝た気がする。夢を見なかったのか、見ても覚えていないというのは、どれくらいぶりだろうか。
昨日は何をしていたのだっけ……
と考えだしたところで、隣で静かに眠るバジルがいることに気づく。そうだった。
昨日は自分のわがままを通す形で半ば強引に、彼と一緒に眠ったのだった。
僕に遠慮してなのか、自分の寝床だというのに壁に張り付く勢いで縮こまった彼を引き剥がして抱き込んで、早々に意識を手放した事を思い出す。
結局寝相のせいか、自分はいつものように仰向けになっていたし、バジルはバジルで横向きに丸まるように眠っている。
普段は自分よりもよっぽど早起きで、ともすればこの時間には一通りの日課を終わらせているような彼が、こうしてこの時間まで寝続けるなんて、珍しい事もあるものだ。
彼があまりにも静かに寝ているから、じっと観察してちゃんと息をしているかどうかすら確かめることとなった。
……意外と、バジルも自分と一緒に寝た方がよく眠れるのかも、などという都合のいい考えが脳裏を掠める。……まあ多分、普段の疲れが溜まっていたのだろう。それに、最近は雪が降るほど寒いし。
彼の寝顔を眺めながら色々考えていると、ふいに眠っているはずのバジルがサニーの名前を呼んだ。流石に起きたかな。
静かに後に続く言葉を待っていたが、それから特に動きがない。
…………寝言?」
…………………………

寝言っぽいな。

………バジルって、寝言で僕の事呼ぶんだ。
ふ〜ん……
ちょっとだけ自分の体温が上がった気がする。
やっぱりバジルが起きたら、すぐにこれから寝室を一緒にしたいって伝えよう。
……そろそろ自分たちの関係も、進展させたいし。

本当はこのまま二度寝したいぐらいだけど流石にお腹も空いてきた。
下手に空腹を放っておくと後々気持ち悪くなる。そう思って渋々ベッドから出ることにした。
自分の体重が離れた事でギシ、とベッドのスプリングが思ったよりも大きな音を立てた。
今度こそ起こしたかもしれないと思って様子を伺ったが、相変わらずすやすやと眠り込んでいる。
僕が抜けて少し崩れた毛布をしっかり彼にかけ直した。
部屋に差し込んだ陽の光が、バジルの髪をキラキラと輝かせていて、ここから離れてしまうのを名残惜しく思った。
……やっぱり二度寝しても、良かったかも。


一通り身支度を済ませてからキッチンに立ち、朝食──いや、もうブランチになるか──を用意する。
とはいえ大したものはできないのでトーストにジャム……あとは、フルーツの買い置きもあったかな……
バジルの好きなお茶も淹れよう。
やろうと思うといくらでもやることはあるのだ。


ややあってようやく起きてきたバジルは蚊の鳴くような声で声をかけてきた。
「サニーくん、おはよう……
珍しく寝坊したことに本人が1番ショックを受けているのかもしれない。
そんなバジルにおはようと返して、彼の分のパンをトースターにかける。
選ぶ必要もないくらいに毎日選ばれている、苺ジャムの瓶を彼の皿の横に置いた。これで復活すれば良いけど。
彼は遠慮がちに、僕の対面の位置にあるいつもの椅子に座る。お互いの特等席だ。
「サニーくんごめんね、ぼく寝坊しちゃって……
「ううん、バジルもよく眠れた?」
「えっ?!……あ、うん、まあ……。そう、だね……
「よかった。それで、これからは昨日みたいに一緒に寝れないかなって」
………へ?」
「前からバジルにも協力してもらって、眠れない時に色々試したりしてきたけど、昨日はほんとにぐっすりだったんだ。だから、バジルもよく寝れたなら、これからもそうしたいなって」
もっともらしくそう言いながら、眠りながら自分を呼ぶ先程のバジルを思い出す。
……そういう、ちょっとした下心もあるけど。
それくらい、いいよね。
「そ、それは、その………
僕の提案を聞いたバジルはあの、えっと……といつになく歯切れが悪くもじもじしている。
……気を遣って言われてないだけで、僕の寝相もしかしてヤバかったかな。
流石に昨日はバジルの方が後に寝ただろうし。
……ベッドが狭かったなら、もう少し大きいやつを見に行こうか。」
いくら寝心地が良くてもあれはやっぱり1人用だし……。これから毎日なら、もっとしっかりしたものが必要だ。
色々と考えていると、先ほどから何故か百面相しながら口を開いたり閉じたりしていたバジルがようやく声を出す。
……やっぱり、ちゃんと言う。こんなの、よくない、と思う……から」
「?」
何かを決意したかのような、珍しく神妙な顔だ。
「サニーくん。ぼくね、君が好きだよ」
「うん。わかってるよ。僕もバジルの事が好きだよ」
「あ、ありがとううれしい……
えっと、ちがくて、そうなんだけど……そうじゃなくて……
「????」
……その!ぼくの、サニーくんを好きっていうのは……!つまり、……たとえば恋人になって、手を繋ぎたいとか、キスがしたいとか、……結婚したいとか、そういう、好きだから……!!」
……うん」
「だから!その……。たぶん、君の思ってる好きとは、違うのかなって。きみは、大事な友達で、親友で……。でも、ぼくは……それだけじゃなくなっちゃったんだ。今までちゃんと言えなくて、ごめんね。……ごめんなさい……。ぼくがこっちに来て1人で暮らさなきゃいけなくなって不安だった時、サニーくんが一緒に住もうって言ってくれて、本当に嬉しかった。ぼくも、君が心地よく過ごせる役に立てたら〜なんて都合のいいことを言ったりして。でも本当は君の近くに少しでも長くいられたらって、ずっと、ずっと思ってて……。それってつまり、自分のためだったんだ……。サニーくんは優しいから、きっと誰がぼくの立場でも同じように助けてくれたんだろう、ってわかってる。それに甘えて、ここまできちゃったけど。……でも昨日一緒に同じベッドで眠ったとき、きみはそんなつもりじゃない、ってわかってても。きみに、抱きしめられたとき。ずっとこのままでいたい、って思うのと同じぐらい、このままじゃ嫌だ、これだけじゃやだ、って……思っちゃった。今までこんな、サニーくんの善意につけ込むようなやり方、友達としての信頼を裏切る行為だよね。謝っても許してもらえないかもしれないし、……もしかしたら、今の話を聞いてもう、き、嫌われちゃったかもしれないけど……
バジルの言葉が止まらない。思ったより長かった。
少し気が遠くなるが聞いている、ちゃんと全部。
僕も色々言いたいことはあるけど。
この状態になっているバジルに、なんて言ったら間違わずに伝わるだろう。
僕たちは、喧嘩がうまくない。別に喧嘩するつもりは、ないけど。

とりあえず深呼吸をして、自分の息を整える。
深く吸った息を吐いた時に、それにビクリと反応したバジルが途端に口をつぐんで、瞳が完全に怯えた色になってしまった。伺うようにこちらを凝視する瞳にはいよいよ涙の膜まで張っていて、今にも溢れそうになっている。
これはそんなつもりじゃなかったんだけれど、仕方がない。
自分の席から立ち上がって、ゆっくりと彼の座っている椅子に近づく。
僕の行動にオロオロしながらもこちらに体を向けた彼の目の前に膝を立ててしゃがみ、下から目を合わせるように彼の顔を見た。
先程まで瞬きも忘れたように僕を見ていた瞳は気まずそうに伏せられ、あからさまに逸らされている。目の端から今にも涙が溢れそうだ。
僕はそのまま何も言わずにバジルの強く握り込まれた両手に自分の手を重ねた。
「バジル、手を開いて。」
こんなに力いっぱい握り込んでいたら、爪が食い込んで手が傷ついてしまう。
強張った両手は頑なに開かなくて、それどころか両目もぎゅっと閉じられてしまった。
彼が瞼を閉じた時にこぼれた涙が、僕の手の甲に落ちて弾けた。

……バジル。お願いだから、ゆっくり手をひらいて。息を止めないで、深呼吸して」
静かにもう一度伝えると、少し経ってからようやく手に込められた力が緩む。
また強く握り込んでしまわないよう、少し解けた手の隙間を埋めるように自分の手を滑り込ませて、両手を握った。
驚いたように開かれたバジルの目が僕を見る。怯えと困惑と半分ずつが宿る瞳が僕を映していた。

「バジル、大丈夫、落ち着いて。……僕の声、聞こえる?」
少しでも安心させたくて、ニコと笑いかけながら言葉を続ける。
……いまだに得意ではない笑顔は、失敗しているかもしれないけど。
泣いて上気していたバジルの頬がさらに赤くなり、潤んだ瞳がじっと僕を見つめ、こくりと頷いた。
握った手はきゅ、と優しく握り返される。
こんなにわかりやすい好意に気付かないような鈍感ムーブをしても許されるのは、漫画の世界の住人か、夢の中の幼いこどもぐらいだと思う。

……………というか!
既にもう、ほぼお互いがお互いの気持ちをわかっている状態であとはもう進むだけ、と先走ってしまったために、サニーもちょっと泣きたかった。
今回の提案だって、ほんとはすぐに快諾してもらえると思ってた。
僕もバジルにしか……特別な人にしかしないような事、結構してたつもりだったけど。それも全部、彼の中では"みんなに優しいサニーくん"の延長だったのかな。
……バジルが僕の気持ちを少しも、本当に気付いていなかったのか、気づかないようにしていたのかはわからない。
時折感じていた、こちらに伸ばされかけた手が空中を迷いに迷ってそのまま、何もなかったみたいに下ろされる感覚。困ったように下がった眉で笑顔を作るようになっていること。
それも全部、どこか期待をしないように彼が無意識に心にかけている保険みたいなものなのかもしれなくて。

だからこそ僕もバジルと同じ意味で好きだと、伝わるように言わなきゃ。
いつだって何度だって僕がバジルを迎えに行くから。君のところにたどり着くから。
バジルも僕に笑顔で手を伸ばしてほしい。

彼はまだ静かに、そして不安そうに僕の言葉を待ってくれている。
腹を括るしかない。
プロポーズをする時ってこんな感じだろうか。

まっすぐ瞳を見ながら言葉にする。
「バジル。僕もずっと、バジルと同じ気持ちだよ。昨日のことだって、バジルじゃなかったら頼まなかった。……バジルじゃなきゃだめなんだ。僕は恋人として、これからも一緒にいたい。」
──好きだよ、バジル。

顔どころか耳まで熱い。
それでも繋いだ手は離さなかった。

『My sweet little daisy, I want to kiss you.』