【SS】バイトの話【古彩町】

前につぶやいてたネタ。

 今月はちょっと金欠だ。
 しかし、ただでさえ学費だ何だと実家に頼ってるので、ここで無心するのも心苦しい。
 ましてや借金なんて論外だ。
 何か短期で稼げるバイトはないものかと、虫のいいこと考えながら求人広告を見れば、ちょうど短期バイトの募集があった。
 業務は町の清掃。給料は高くはないけど、資格もいらないし、日払いでもらえるみたいだ。雇い主も役所だから、怪しい仕事ではない。
 さっそく問い合わせてみたら、今度の休みに働くことが決まった。
 あまりにもぽんと決まったことに若干不安がよぎったけれど、これで金欠から逃れられる。

 よぎった不安が正しかったと思い知ったのは、指示された場所に着いて間もなくだった。
 車に乗せられ連れてこられたのは隣町。
 正確には、隣町だった場所。
 ……これで『町の清掃』と言い張るのは、詐欺ではなかろうか?

 不定期に何人か掃除に来るらしいけど、今日は一人だけらしい。
 指示されたエリアのゴミ拾いと、家の中に侵入してきた菜の花の除去、などなど。
 ここまで連れてきてくれた職員さんは職員さんで仕事があるらしく、お茶とお弁当を渡して去っていった。
 給料が割に合わないのでは?とは思ったものの、こういうことは現場の職員さんに言ったって仕方ないだろう。
 お弁当もらえたし、給料も出るんだから、ほどほどに頑張ろう……

 ぼちぼち作業を進めて、休憩がてら弁当を食べ終えた頃。
 ふと、視界の端を人影が過ぎった。
 職員さんが様子を見に来たのかと思ってそちらを見れば、たぶん同い年ぐらいの眼鏡の男が、かつては窓だったのだろう壁の穴からこちらを覗いていた。
「こんにちは」
 声をかけると、彼は驚いた顔を見せた。
「こんにちは」
 しかしそれは一瞬のことで、何事もなかったようにニコリと笑って彼は身を乗り出してくる。
「お兄さん、こんなところで何してるの?」
「何って、掃除だよ。バイトで、ゴミ拾いとか……そっちこそ、こんなところで何してんの?今日のバイトは一人だって聞いてたけど」
「あー……俺は論文書くために、この町のこと調べてて。民俗学ってやつ」
「へー、わざわざこんなところにまで調べに来てるの?ここ来るの大変じゃん」
「うん、うん。めちゃくちゃ交通の便悪いよね、ここ。それ以外は好きなんだけど」
 彼はよいしょと窓を乗り越え部屋に入ってくる。
「お兄さんこそ大変でしょ、こんなとこの掃除なんて。道歩くのだけでも一苦労でしょ?」
「そうなんだよ……町の清掃って聞いてたんだけど、まさか廃墟掃除とは思わなかった……
 思わずため息をつく。
「こんなとこ、もう自然に朽ちるままほっとくか、重機入れて更地にすりゃいいのに。なんでわざわざ掃除しなきゃいけないんだか……
 給料がもらえるとはいえ、思ってたより重労働だ。
 今日だけにしといてよかった。明日は一日寝て終わるだろう。
……そう思うよね」
「なんか言った?」
「いやいや。お兄さん、この町の昔話知ってる?」
「え?昔話?」
 問われて記憶をたぐる。
 小学校の社会科の授業の時に聞いたような……
「なんか昔、災害だがなんだかで人がたくさん死んで、町もなくなっちゃったんだっけ?」
「まあそんな感じ、そんな感じ」
「それがどうした?」
 彼は少し顔を寄せ、声をひそめる。
「ここさ、人が居なくなったその後、再開発のために重機も入って更地にしようとしたんだけど、重機の故障とか相次いでさ。『この町で亡くなった人たちが立ち退き拒否してる』ってことで再開発できなくなっちゃったんだって」
「なにその漫画みたいな話」
 思わず即座にツッコめば、彼は楽しそうに笑った。
「えーそこはよくある怪談って言ってよー」
「怪談だったら今ここで掃除してる俺が祟りとかに遭うオチになるじゃん、やだよ、マジで割に合わねー」
「ははははは、大丈夫大丈夫、祟りに遭うならバイト募集なんかせずに放置してるって。むしろお兄さんは感謝される方でしょ、掃除してくれてるんだから」
 思わず嫌な顔をすれば、何が楽しいのか大爆笑だ。
 そこまで笑うことだろうか?
「そもそも祟りに遭うなら、アンタだって論文どころじゃないもんな」
「そうだねー。そういやお兄さん、喫煙者?」
「? いや、違うけど」
「そっかー、煙草持ってるなら一本もらおうと思ったんだけど……
「図々しいな……
 最近じゃ煙草もかなりの高額商品らしいというのに、初対面の相手にねだるか?普通。
 いや、吸わないからよく知らないけど。
「ところでお仕事しなくていいの?」
「え?やべっ、話し込んじゃった」
 腕時計を見れば、思ってたより時間がかなり進んでいた。
 このままじゃ所定の場所を回ることすらできない。
「それじゃあ、お仕事頑張ってねー」
 慌てるこちらを尻目に、彼は部屋を出ていく。
「あ、ちょっと……手伝ってくれたりとは……
「俺、雇われてないから」
 そりゃごもっとも。
 でも話に付き合わせてタイムロスした分ぐらい、とか、思わないかなー思わないかー。

 そんなこんなであくせく働いているうちに、日はだいぶ傾いてきた。
 何度か視界の端を人影がチラついた気もしたけど、きっと気のせいだ。
 幽霊なんか信じてないけど、あの話が思いのほか効いてるようだ。
「お疲れ様」
 顔を上げれば、いつの間にやってきたのか、昼間の男がそこにいた。
「何時まで働くの?」
「もう終わりだよ」
 腕時計をちらりと見れば、言われていた時間にほど近い。
 作業もキリが良いところに来たし、このへんで終わってもいいだろう。
 役場に向かおうとすれば、彼もついてきた。
 まあ、こんな辺鄙なところだ、帰り道がいくつもあるわけない。
 ひび割れたアスファルトの隙間から、たくましく草花が伸びる道を歩いていく。
 夕日が家の影に遮られて、足元がよく見えないので目を凝らしながら歩く。
「お兄さん、明日も来るの?」
「もう来ないよ」
「そっか、残念」
 言葉とは裏腹に、たいして残念そうでもない声音だ。
「そっちは明日も来るの?」
「あー、まあ、来るっていうかなんていうか……
 煮え切らない答えだ。
 顔を見てみれば、暗くてどんな表情なのか見えやしない。
「うわっ」
「あぶな……!」
 足元への注意が疎かになって、大きなひびに蹴躓く。
 咄嗟に伸ばされた手を掴んだ……はずだった。
 ぞわりと、背筋が凍るような悪寒がした。
「あ……
 倒れて、顔を上げた時には、そこには誰もいなかった。
 まるで最初から誰もいなかったかのような静寂。
 ゾッとした。
 慌てて起き上がると、一目散に走った。
 
「あ、お疲れ様で……どうしたんです、その傷!?」
「いやその、転んじゃって……
 役場に駆け込むと、職員さんが顔色を変えて救急箱を持ってきた。
 大袈裟だなと思ったけど、よく見たらかなり盛大に擦りむいて、血が流れていた。
「ごめんなさい、暗くなるから迎えに行かなきゃいけなかったのに……
「大丈夫ですよ、職員さんが悪いわけじゃなくて、俺がドジなだけなんで……
 ふと、顔を上げて凍りつく。
 あの男がそこにいた。
 職員さんは気付いていない。
 男は黙ってろと言わんばかりに、人差し指を口元に当てて、困ったように笑った。
 職員さんが救急箱を片付けに離れていくと、男はすっとこちらに寄ってきた。
「俺のこと、内緒にしといてね」
 そっと小声で耳打ちされる。 
「もし誰かに話したら、『逃げられなく』なるからね」
 ゾッとして凍りついてるうちに、男は何処かへ行ってしまった。
 何処へ行ったのか、目で追うこともできなかった。
「おまたせしました。これから車で送らせて……あの、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です、気にしないでください」
「そうですか?」
 職員さんは心配そうにしつつも、そっと封筒を差し出してきた。
 労働の対価というやつだ。 
「今日はありがとうございました。またお手伝いいただければ幸いです」
 またはないだろな……と内心思いつつも、曖昧な笑顔を返した。

 あの男が亡霊なのか、なんなのかは、未だにわからない。


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 つぶやいてたのとちょっと違うものになってしまった。
 このバイト君は、二度と古彩町に来ないんじゃないかな。

 似たような感じで古彩町にバイトに来る子がいてほしい。