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望月 鏡翠
2024-02-12 21:23:32
954文字
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日課
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#1264 「雷雨」「笑う」「金庫」
#毎日最低800文字のSSを書く
とても臆病な金持ちがいた。あらゆるものに怯えていた。親が生きていた頃はそれでもなんとか生活が成り立っていたが、一人になってからはいよいよ日常生活もままならないくらいになっていた。
他に家族はいなかったのかって?
そんな怖がりな人間が他人と生活を共有できるわけがない。生まれる前から一緒にいた家族ならともかく、他人に心を許して一緒に暮らすなんて不可能だ。仮に金目当てで近づいてくる人間がいても受け入れらなかっただろう。
自分の財産を失うことが怖かった。それを理由に害されるのではないかというのも怖かった。しかし全てを投げ打って、質素に生活をしていくことも怖かった。
臆病さからくる不自由を全て金銭で解決していたから、それがない生活というのが、想像できなかったのである。
ある、嵐の晩である。当然、彼は嵐も怖がった。
その日は悪いことに、雷雨だった。夜になっても止むことはなく、空はビカビカと光り、雷鳴を轟かせていた。やがて、風で断線したか雷がどこかに落ちたのか一帯が停電した。
彼はパニックになった。
今までは家族に予備電源をつけてもらったり、懐中電灯を渡されたりしていたから、一人では暗闇にどう対処したらいいのか全くわからなかったのである。
混乱したまま、恐怖に慄き、一番安全だと思える場所に逃げ込んだ。
金の心配をしている彼が、暗闇の中でも開け閉めできるくらいしっかりと操作を覚えているのは、金庫だった。
金庫は大切なものを隠して置く場所だ。この中であれば、誰も彼を害することはできない。ようやく安全な場所を見つけた。この開け方は彼しか知らない。誰も開けられない。
金庫に入り扉を閉めて、男は笑う。電源は落ちていたが、マニュアル操作で開けることができる。通電すれば自然にロックがかかるだろう。
余計なことを心配しすぎる彼は、いつも大事なことを忘れている。些細な不安や不便を解消するために、より大きな不便を背負い込んでいることには気づかない。
人が入ることを想定していない金庫を内側から開く方法などない。
そして開き方は、一人しか知らない。
最も臆病な男は、不可解な死を遂げた金持ちとして有名になった。なぜ彼がそんな自殺の方法を選んだのか、誰にも理解はできなかった。
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