望月 鏡翠
2024-02-12 20:44:22
835文字
Public 日課
 

#1262 「雪」「貧乏」「豆鉄砲」

#毎日最低800文字のSSを書く

 その頃の私ときたら大変貧乏で、周りの情けを乞いながら生きている有様だった。だから多少の理不尽があったとしても飲み込まなければならなかった。
 特に辛かったのが、冬だ。体力がないと冬を越すことはできない。体を温めるものだけがあっても、意味がないのだ。雪の冷たさにどんどんと体力が奪われていく。
 だからまず食べ物の確保が急務だった。しかし、冬の終わりにはいい季節がやってくる。節分である。
 私は喜んで鬼の役をやった。本当は給料が欲しいところだが、欲をかいてはいけない。そこまでして頼みたくないというのが正直なところだ。
 それで依頼がゼロになるよりは、たくさんの依頼を受けられた方がいい。
 頼んでくるのは子どもがたくさんいるところである。大人がいる場所は、本気で豆を投げつけてきたりしないし、理性があるから投げたとしてもほどほどの量で終わる。あくまで形だけの行事になりつつあるのだ。
 それではいけない。思いきり投げてもらわなくてはいけないのだ。
 鬼の役をするときはフードやポケットやあまりの布がたくさんある服を着て行った。豆をぶつけられる。多少痛くても気にならない。背に腹は変えられないからである。豆をぶつけられて逃げるふりをしながら、私は建物中を駆け回る。
 そうして鬼の役目が終わったら、散らばった豆の掃除も買って出る。ゴミ袋に集めるがそのうちのいくつかをこっそりとポケットに忍ばせるのである。偶然入り込んでしまいましたというふりをして。
 場合によっては、回収した豆をそのままくれる場合もあった。もう想像がついていることと思う。私はそれを食べるのである。ご存知の通り大豆は栄養たっぷりだ。私が一番惨めな思いをせずに、食糧を得る方法だった。
 だから私は『鳩が豆鉄砲を喰らったような』という慣用句を、お腹いっぱい食べられるという意味だと思っていたくらいだ。
 だから何か幸運があるたびに、鳩が豆鉄砲を喰らった気分ですと行って、周りの人を困惑させていた。