鹿
2023-12-31 20:20:40
2856文字
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総長に叱られる副長

#凄烈鬼と自由の剣ヤマタイ二周年 で書いたもの。ぶっ茶バありがとう山南さん実装ありがとう斎藤が自分の句を聞きたがってると思ってる副長はかわいいよねというお話。

『ぶっちぎり茶の湯バトルぐだぐだ新邪馬台国─地獄から帰ってきた男─』という表題でカルデアデータベースに記録され、またボイラー室横かとゴルドルフ所長及びスタッフ一同が頭を抱えることになった一連の事件はひとまずの決着を見せた。そんな問題児集団の新メンバーとして迎えられることになった「地獄から帰ってきた男」こと新選組総長山南敬介も、戸惑う暇すら与えられない数週間を訳もわからぬまま駆け抜けて、ようやく一息ついたところである。その場所が、ギラギラと目に痛いほど絢爛な茶室の、隅にぽつんと置かれた部屋にそぐわない粗末なちゃぶ台というのもいつの間にか受け入れてしまっていた。
「君の変わらなさには、正直呆れるところがあるよ」
「あぁ? いきなりなんだテメェは」
 ちゃぶ台の対面で何やら書き物をしているのが、奇妙な導きによりまた肩を並べることになった新選組副長土方歳三であるということも、怒涛の日々の中でうっかり馴染んでしまったことの一つである。
「三百杯以上の沢庵茶を味わってなお沢庵をお八つにしている人間がいたら、誰だってそう思うさ」
「好きなモンはいくら食っても好きに決まってんだろ」
 周回前どころか百五十年前から変わらぬ仏頂面の男はそう言って小皿の沢庵を摘む。しかし山南は、その顔は決して不機嫌というわけではないことを知っていた。
「何事も限度というものがあるんだよ普通はね……控えで十杯ほど頂いただけの私でも腎臓が痛くなる気分だったし、マスターなんて『一生に食べる沢庵の十倍くらい摂取した』と青ざめていたよ?」
「言っとくが沢庵茶を選んで淹れてたのはあいつだからな?『芹沢さんの素材、証と勾玉とお酒と鬼灯だと思うんです!』とかなんとか喚いてやがってよ」
 なんと新旧どちらの邪馬台国でも裏切った自分だけでは飽き足らず、好んで地獄にいるのであろう芹沢局長までいずれここに迎えるつもりらしい。あの年若いマスターの豪胆さには思わず笑いが漏れる。
「はは、一筋縄で喚ばれるような人ではないと思うけど、もしそうなったら君はどうするんだい?」
「決まってる。誰が来ようと俺は俺、そして俺は新選組だ。もしあの野郎がまたくだらねえ真似で新選組の邪魔するんなら、叩っ斬るまでだ」
 概ね予想通りの返答に、やはり良くも悪くも変わらない彼の有り様を感じた。しかしながら、彼の立場は彼自身がどう思っていようと、『人理保障機関カルデアのサーヴァント』であるはずだ。
「その新選組が並び立つところを楽しみにしてるマスターや隊士たちを、あまりがっかりさせないよう努力くらいはして欲しいのだけどね」
「ふん、お説教かよ。テメェこそ相変わらずじゃねえか」
「そりゃあね。屯所の方で疲れ果ててる彼の姿を見たら、一言言いたくもなるよ」
……その話がしてえんなら最初に言や良いだろ、まだるっこしいんだお前は」
 そう言ってまた小皿に手を伸ばすその表情は、相変わらずのしかめ面であるがどこかバツが悪いようにも見えた。
「斎藤くん、リコレクションとやらだけじゃなく、聖杯の言うところのワーカーホリックな誰かさんを休ませるための周回編成まで考えたり、色々大変だったからねえ」
「俺は疲れてねえって言ってんのにあいつが気ぃ回しすぎなんだよ」
「爆発をガッツで耐えて宝具を撃つ周回に慣れきっているのは些か問題だと言わざるを得ないんじゃないかな? 沢庵茶とあの怪しげな紫のお茶で君の気分は上がってるのかもしれないけど、後ろで見ている人間の気分も考えた方が良いよ」
 土方は返答に窮したのか、しばしの間沢庵をかじるポリポリという音だけを茶室に響かせていた。このまま黙っているのなら、いよいよ彼の言う通りお説教に移らねばならないな、と考えはじめたところでようやく口を開く。
……俺だって別にあいつの働きを無下にしてえわけじゃねえよ、感謝もしてる」
「それは私も知ってるさ」
 彼が斎藤一をいっとう頼りにしていたこと、いつもその働きを有り難く思っていたこと、信頼と情というだけでは足りないほどの思いがそこにあることも、山南にはよくわかっているつもりだった。土方が今さら自分を曲げるようなことをするとは思ってはいない。しかし自分を支えてくれる相手に対し、もう少し何か──
「だからこうして今、一句ひねってたとこなんじゃねえか」
……すまない、今なんと?」
「だから斎藤に歌を詠んでやろうって考えてたんだよ……なんだお前それ、親切者がする顔か?」
 呆れるあまり今までの人生でしたことのない表情になっている自覚はあったが、頭を抱えながらもとにかく質問を続ける。
「なんでそうなったんだい?」
「なんでって、あいつ俺の俳句大好きじゃねえか」
 山南の目はいよいよどこか遠くを見つめ始めたが、心に『サンナンさーん、頑張れー!』と言ってくれる明里の姿を思い浮かべることでギリギリ踏みとどまることができた。
「君の見解はわかった。でもなぜそんな風に思ったのか、それがわからない」
「いや、見てりゃわかるだろ?」
「なぜ君はそう傲慢というか、自分の考えが正しいしそれは他の人にもわかるはずだと思い込んでるのかな。だからいつも言葉が足りないと言われるんだよ」
「なにキレてんだよ……じゃあ説明するがな、俺が仕事で机に向かってる時、あいつはよく後ろに控えてるだろ」
 それは確かにその通りである。副長が報告を受け、それをまとめて指示を出そうとする時には、既にそこにいる。三番隊隊長であり副長助勤でもある斎藤一は、そういう男であった。山南もそれはよく知っている。
「けどな、あいつは俺が仕事じゃなく、今日は一句詠んでみようかって気分になった時も、いつのまにかすぅっと入り込んできて、俺の後ろに控えてんだよ」
……はあ……?」
「最初の頃は仕事だと思って来てんのかと思ったがな、振り向いてツラ見てみりゃそうじゃねえってすぐわかった。いつだって油断ならねえ目で周りを警戒してるあの餓鬼がな、俺が俳句考えてるとこを見てる時はな、そんな顔ができたかってくらいに柔らかく笑ってんだよ」
…………
「まあそのくせ俺が面と向かって一句詠んでやろうかって言うと、いや結構ですなんて言うんだが……全く素直じゃねえよな、照れやがって」
 そう言って得意げに笑う土方に、山南はなんと言っていいのかまるでわからず、ただ天井を仰ぎ見るばかりである。しかし、まるで変わらないと思っていたこの男が、こうも惚気たことを言ってのけるのは、あるいはこの特殊な環境が彼にある種の安らぎをもたらした結果かもしれないと、なんとか良い方に考えようと必死だった。


「それって土方さんの俳句じゃなくて、土方さんのことが好きなだけじゃないですか」
「ほれ早くなんとかせえ斎藤。お前ら人斬りサーの副長じゃろ」
 茶室の外まで響いてきていた副長と総長の会話に、三番隊隊長が羞恥のあまり座り込んでいたのはまた別の話である。