ree_1116
2016-03-24 14:08:25
6543文字
Public
 

さよならのかわりに、(ルロー)

初見のお方は閲覧前に『はじめに』( http://privatter.net/p/1293798 )を、一読願います。お世話になっているゆずきさんへの(勝手な)贈り物。お誕生日おめでとうございます!!死にネタっぽい感じで終わってますが、後日談あり。間に合わなかったのでそのうち、書きますっっ!

雨が、降っていた。



「うん、俺好きだ」



皆が皆、船内へと入ってた。
折角だから、呑もうぜと言い出したのはゾロで。いいですね、と乗ったのはブルックだった。俺も私もと続く、中。その人は、一人。ソファに腰を掛けて、本を読んでいた。
どうやら呑む気はないらしいな、とサンジは言ったのにちゃんとグラスの準備はしてあって。
アクアリウムで始まった、宴とはちょっと違う、場。
チョッパーとウソップが歌いだし、伴奏が付く。手拍子が揃う。
ナミとロビンも楽しそうに、飲んでて。
でもやっぱ、本を読んでる。
なんとなく、気になって。
なんとなく、前に立ってみた。

そうして、ふと出て来た言葉が、うん、というもんで。
好きだ、と繋がっていった。



ああ、なんだ。
俺、トラ男のこと好きだったんだ。



なんて。
言ってみて、納得して。
なぁんだそっか、と思ってたら


「うん、俺も好きだよ」


本にしか、向かってなかった視線が俺を捉えて、ふと花が綻ぶような笑みと共に返って来た、声に


声に、





声が、





「済まないが、手を貸してもらえるか」



声、





思い出していた過去というには近しい日のことは、そこで途切れた。
あれ?俺?と薄らと目を開けば、その狭い最中に、同じだと言ってくれた人が映って、って・・・・俺、


どうしたんだっけ?


疑問符を浮かべた瞬間、こん、と額に何か当たった。こんこん、と小さな粒が、体に当たってるのを感じ、薄らだった視界をゆっくりと開く。


「・・・気付いたのか?」
「ト、」
「喋るな、消耗するぞ」


つ、と開きかけた口唇を指先が押さえる。
綺麗に微笑んでいるトラ男の手によって。


「もう少し頑張れ。今、」


ああ、なんか頭がくらくらするってか、ぐらぐらしてる。どうにも体が動いてくれない。もどかしい。なんで、って・・・そっか。俺、


「覚えてるか?ギア4で覇気を使い果たしたんだ」


ああ、なんとなく覚えてる。


「戻るまでまだ時間が掛かる。わかるな?」


うん、わかる。


挑んだ、先。
散り散りになる、仲間たち。
作戦と告げられたことは、なにひとつ実行出来ないまま、戦闘になった。
そして、・・・そうだ、俺はギア4を使って。それでも、駄目で。弾んだ体は勝手に、


「その様子だと状況もちゃんと理解出来てるようだな」


ぱらぱら、と音がする。
見える景色は、暗い。ああ、嵐が来るってナミが言ってたな。だから、船は・・・船は、


「崖から落ちた。なんとかお前を捕まえることは出来たが、そのまま二人で落ちちまったんだ。運よく、この出っ張りに助けられた。能力を使い果たしたのは、俺もで。・・・だから、今、」


言いながら、トラ男は何かを俺の体に巻きつけてる。
何かって、なんだ?


「今、ニコ屋が引き上げてくれるから」


大丈夫だという人は、ずっと笑みを浮かべたままで。
綺麗だな、とそんなことばかり考えていた。


ゴォゴォと風が唸る。波が荒ぶってるのも、微かに見える。土砂降りになるかもしれないと言っていた雨はまだそれほどでもない。嵐が来るなら、やめた方がいいと言ったのはトラ男で、でもあちらの戦力も役に立たなくなるかもしれないが、と言ったのも、トラ男だった。なら行こうと、立ち上がったのは、俺だ。そうだ、俺が、


「戦況はこちらが不利だ。・・・撤退する。わかったか?」


うん、


「船に戻り、引け。そして、もっと手を組んでくれるやつを探せ。・・友達を、だ。傘下のやつらにも声を掛けろ。作戦を立て、体制が十分になったらまた、挑め」


うん、わかった。


「いい子だ」


ふうわり、と掌が頭を撫ぜてくれる。
さらさら髪が指の隙間から落ちる感覚が伝わってくる。トラ男の指が、


「・・・・こんなことなら、」


ん?


「変な意地張ってねぇで抱いてもらえばよかったな」


何?


「そういえば、キスもまだだったよな」


綺麗だったものが、困ったものに変わって、


「・・・変なこと言っちまった。忘れろ」


何、言い出してんだ、トラ男?


トラ男?





ぱらぱら、と何かが落ちてくる音がしてる。
ひどい風の合間をぬって、こんこんと体にさっきから当たってる。
黒い雲が青を消し、異様なまでの風を巻き起こし、


そうして、雨がやって来た。



「なぁ、麦わら屋」



雨が、降っている。
雨が、




「輪廻って・・信じてるか?」
「り、」


繰り返そうとした俺の口唇を、また指先が押さえる。
そのまま、頬に添う。


「俺は、」



ぱらぱら、こんこん、
ひっきりなしに聞こえてる音は、
音の正体は、



「信じてる。だから、」


この音は、欠片が降り注いでる、音だ。
欠片。
崖って言ってた。落ちたって、出っ張りに、



え?



「ニコ屋、頼む!」



わかったわ、と確かにロビンの声が上から聞こえてきた。
上?



途端、ぐっと強い力に引き上げられる。
触れていたはずのトラ男の掌が遠ざかって、
トラ男も、遠ざかって、


その、刹那。
全ての状況を悟った。
ぱらぱら、こんこん、音は崖が崩れていく音だ。
その崖の途中、狭い足場のような場所に俺たちは居た。
今にも崩れ落ちそうな、崖の中腹に、



「トラ男っ!」






「・・またな」







俺が引っ張られた反動でか、狭い出っ張りは完全に崩れた。
従って、そこに居たトラ男も、



綺麗に、綺麗に、綺麗に、



微笑んだまま。




落ちて、






落ち、












弾け飛んでいってしまったルフィを追ってきた、先。
思ってもない人の声を聞いた。


「トラ男くん?」
「ニコ屋か?済まないが、手を貸してもらえるか?」


姿は確認できない。
でも、何処に居るのかはわかった。
声が下から聞こえてくる。
荒れ狂った波の狭間から、微かに。
崖。
そこに彼は居る。


「ええ、もちろんよ」
「ここ崩れそうなんだ。余り近寄るな」
「わかったわ。今、手を下ろすからそれに掴まって」
「助かる」


声に足場を確認しつつ、ぎりぎりのところまで近付いてから能力を使った。
まだ、小降りな雨に感謝した。
でも、男の人を一人引き上げるとなると、私だけでは心許ないかもしれないと思ったところに、サンジくんが来てくれて。俺が抑えてるから、と後ろから腰を抱かれる。ぱらぱらと崩れる音を聞きながら、間に合ってと祈りを込めながら、下ろした、手。暫しの間のあと、頼むという声が聞こえたので、一気に引き上げたのだけど、



「え?」


繋がった手の先に居たのは、声が聞こえていた人ではなくて、


「ルフィ?」
「え?」


思いっきり引っ張ったから、宙を舞った。
疑問の声をあげたサンジくんはそれでも、地面に叩きつけられる前に慢心相違、血塗れになっている船長を受け止めた。けど、


「・・・・トラ男くんは?」


確かに聞こえた。
トラ男くんの、声だった。
助けを求めてきたのは、彼だったというのに。


どうして、



「まさかっ!」


答えに辿り着いた途端、あったはずの地面は崩れた。
瞬間、僅かだった雨粒は信じられない程のものになり、怒涛の音を立て大地は裂け、あっという間に海へと、



「・・・トラ男、」
「おい、ルフィ。ローも一緒に居たのか?」
「トラ男っ!」


サンジくんに寄り掛かっていた体を強引に立たせ、なくなってしまった地面の方へと駆け出そうとしたルフィは、矢張りまだまともに動けないようで、その場に倒れ込んでしまう。


「俺に任せておけ!」


泳ぎは得意だと、サンジくんは上着を脱ぎ捨ててるけど、


「駄目よ、サンジくん!」
「ロビンちゃん」
「こんな時化の中、飛び込むなんて自殺行為よ!」
「でも、その自殺行為をローはやったんだっ!」


だから、と飛び込もうとするけど、ごめんなさいとその人を脳裏に浮かべつつ、懸命に止めた。


「駄目よ、サンジくん。あなたまで失うわけにはいかない」

聞いた、話し。
ここら辺の海はちょっと異質なんだ、と。
作戦を聞いたときのことだった。
海流が複雑で、どうやら一度沈んだものは二度と浮かび上がってくることはないらしい。本当かどうかなんてわからねぇけどな。でも、気をつけるに越したことはない。俺たち能力者は特にな。
そう語ったのは、まさしく落ちてしまった人で。だから、


「サンジくん、」


お願いと訴えれば、僅かに視線が彷徨う。
でも、と言い出しかけたところに、俺が行く!と叫んだのは、動けないはずのルフィで。



「おおおおおおおお!」


雄たけびと共に、すごい勢いで海へと駆け出してしまうから、


「駄目よ、ルフィ!」
「能力者のてめぇが行ってもどうにもならねぇだろ!」


制止の声も、腕も、届かぬまま。
ルフィは、止まらない。



「ルフィ!!!」


土砂降りと言っても過言ではない、雨の中。何処まで使えるかはわからないけど。
こうなってしまったら能力を使って無理矢理にでも、と両腕を交差させた時。



「馬鹿野郎!」



疾風の如く、現れた人。
大きく振り上げた拳はルフィの頬を捉え、それじゃなくてもギリギリを保っていた体は呆気なく、海ではない場所へとぶっ飛んだ。


「・・・・すいません。話しは聞いてました」


ぐったりと、倒れ込んだルフィ。
その様を見ながら、静かにそう言ったのは、


「ペンギンくん・・」


話しを聞いていたということは、トラ男くんのことも理解したということ。
だから、


「ごめんなさい」


と、告げたというのに。


「俺のほうこそ。すいません。麦わら、殴っちまって」
「いや、それは・・助かったよ。こうでもしねぇと多分止まらなかっただろうしな」


完全に気を失ったであろう船長は、ピクリとも動かない。


「悪いんですが、麦わら運んでもらってもいいですか?」
「え?」
「右手、駄目になっちまいましたよ」


鈍ってるんですかね、なんて帽子のツバで見えない顔が緩く笑ってるけど。


「ごめんなさいね、ペンギンくん。トラ男くん、」
「・・・・その船長からの伝言を伝えに来ました」
「え?」
「撤退だそうです。船に戻りましょう」
「撤退?」
「ええ、わかるでしょう?」


わかるわ。
状況が全てを物語っている。


「他のやつらにはもう伝えてあります。申し訳ないんですが、そちらの船にうちのやつもお邪魔してもいいですかね?」
「ええ、もちろん」
「お前らの船はどうしたんだよ?」
「後方支援で沖合いで待機してたんですが、どうやらあっちも一戦交えたようで。でもさっき、連絡はしたんでそのうち、事前に打ち合わせてた待ち合わせ場所に来ると思いますが時間が掛かる。その間、お願いします」


すいません、と何処までも低姿勢な人に、もうどうしていいのかわからない。
ちゃんと、わかっているというのに。この人は。自分の船長がいなくなってしまったことを、受け入れて、次へと動いている。まるで、


「後のことは任せるって言われたんです」
「ペンギンくん」
「笑って、くれてたらいいんですけどね」


ふと、見えない視線は、荒れる海へと流れ、


「行きましょう」


と、撤退を即されるから、そうねと頷き、その後に続いた。


崩れ去った、崖に。
荒れ狂う、海に。
寂寞の夜に、


ごめんなさい、ありがとうと残して。








雨が、降っていた。





雨が、





『なにやってんだ、ルフィ』


不意に覗き込まれた、影。
降り注いでいた雨はそこで途切れて、


「・・・トラ男?」
「ほら、立て」
「あれ?俺、」


辺りを見渡せば、何処かの軒先。
ああ、そうだ。
雨宿りしてたんだった。
当然の雨にどうすっかなぁと逃げ込んだ、先。
傘を傾け、笑ってるトラ男。


うん、行く。


そう告げて、一緒に行こうと思ったってのに、どうかしてか体が動いてくれない。
あれ?となっている俺に、目の前の人は、傾けてた傘を俺の手に握らせて、綺麗に微笑んだ。


「先に行く。・・・お前はゆっくり、来い」


な、と傘から解き放たれた掌は、緩く頬を掠め、笑みを象っていた口唇が開かれる。
何かを伝えようと。
嫌だ。
それは、聞きたくねぇ。
聞きたくねぇんだ、俺。
だから、言わないでくれ。
トラ男、






「・・・・・また、な」






また、













「っっ!!!」



突然、覚醒した。
目が覚めた。
おかしな汗と、鼓動に塗れた、まま。


「あ!ルフィーーー!!!!」


ととと、と駆け寄ってきたのは、チョッパーだ。
良かった良かったと抱きついてくる。
俺、


「あのな、今、集合場所だぞ」
「集合場所、」
「おう。治療は終わったけど、余り動かないほうがいいよ。今、食べ物とか持ってきてもらうから」


言われて、気付く。
此処は、サニーの中だ。チョッパーの、医務室。
集合場所ってことは、とそこでもう一人の存在に気付いた。


「ペン!」


簡易椅子に腰を掛け、腕に包帯を巻かれたやつの名を呼び、ベッドから飛び降りた。


「おい、ルフィ!」


まだ動いちゃ駄目だって、というチョッパーの声を振り切り、そいつの胸倉を掴む。


「トラ男っトラ男は!」


一気に、思い出した。
まるでスローモーションのように、綺麗に綺麗に綺麗に微笑んだまま、またな、と残し、落ちて、


悪い夢なら醒めて欲しい。
でも、夢じゃないことは俺が一番よくわかってた。だから、


「・・・・お前が一番よくわかってんだろ」


静かに、冷たく放たれた、声。
今、自分で思ったことを反芻されて、言葉を失う。
でも、と思ってた。
近くにロビンが居た。サンジも居た。
落ちていったことも気付いてたはずだ。
だからこそ、救出に、と思ってたけど。
告げられた声に、違うと痛感する。実感する。
またな、という声が脳裏に木霊して、無数の光が行き交う。混乱して、



「キャプテン、笑ってたか?」
「え?」
「笑ってたか?」


二度、繰り返されたものに、無意識なまま、頷いてた。
ああ、笑ってた。
綺麗に、綺麗に、


「そっか・・・なら、・・・いい」


縋り付くようになっていた俺に、曖昧な笑みを浮かべて立ち上がる。


「おーい、ペンギン。うちの船来たってよ」


そこに飛び込んできたのは、シャチで。


「おお、麦わら。お前、意識が戻ったのか良かったな」


なんて、笑うから。


「でも、もう少し休んでたほうがいいぞー。お前が一番の重症なんだから。な、ドクター」
「おう、そうだぞ。ルフィ」
「・・・・うん」
「俺な、ハートの奴らも結構怪我してるって聞いたから、行ってくるよ」
「・・・・ああ」
「ちゃんと寝ててくれよ。今、サンジになんか食べ物持ってきてもらうからさ」
「・・・・・うん」


なんで、みんな、ふつうなんだ?
だって、とらおが、





「・・・・・トラ男、」



またなって、なんだよ。
また、っていつだよ。
輪廻って、




「クソ」



何が全部守るだ。
いつもいつも、守られてるのは、俺のほうだ。



「俺は、弱い・・・」


でも、またなって、トラ男が言った。
だから、


「もっともっと、もっと強くなってやる」


だから、


だから、



「・・・・また、な」




また、いつか。
会えたなら、今度は決して離しはしない。





「覚悟しとけよ」







さよならのかわりに、





2016.03.24 Ree.MORITA