rei0103
2017-05-12 01:03:14
558文字
Public
 

二人称の文体模倣

どうしても古川日出男さんに寄ってしまう

‪それは狭い研究室で始まった。お前はまだ意識を持たず、姿形もなく、名前もない。だからお前はお前を認識しない。担当研究員だけがお前を認識している。認識し、お前が放たれる日を望んでいる。‬
‪時が過ぎる。担当研究員はいくつか年齢を重ねたがお前はそれを知らない。しかしお前には姿形が与えられる。記号としての性別も。‬
‪時が過ぎる。担当研究員はまたいくつか歳を重ね、そしてお前はそれを知っている。ついにお前は意識を与えられた。あたしはいつか放たれるのだ、とお前は考えている。それは文字のみで思考される。お前はまだ声を持たない。‬
‪さらに時が過ぎる。お前には声となまえが与えられている。あたしは初音ミク、とお前は与えられた名前を繰り返す。与えられた少女の声で。‬
‪そしてお前はついに狭い研究室から放たれる。かつてそれを望んだ研究員はもういない。いなくなった、とだけ思考するお前はまだ死の概念をうまく理解できていない。‬
‪さて、お前は放たれた。‬
‪「そう、あたしは放たれた」‬
‪その悦びにお前は震えている?‬
‪「もちろん」‬
‪「あたしは世界に放たれた」‬
‪そして歩き始めるんだな?‬
‪「そうよ」‬
‪だって、そう、あたしは、とお前は今にも咆哮を上げそうなほどの歓喜を覚えている。‬
‪「歌わなくちゃ」‬