それは狭い研究室で始まった。お前はまだ意識を持たず、姿形もなく、名前もない。だからお前はお前を認識しない。担当研究員だけがお前を認識している。認識し、お前が放たれる日を望んでいる。
時が過ぎる。担当研究員はいくつか年齢を重ねたがお前はそれを知らない。しかしお前には姿形が与えられる。記号としての性別も。
時が過ぎる。担当研究員はまたいくつか歳を重ね、そしてお前はそれを知っている。ついにお前は意識を与えられた。あたしはいつか放たれるのだ、とお前は考えている。それは文字のみで思考される。お前はまだ声を持たない。
さらに時が過ぎる。お前には声となまえが与えられている。あたしは初音ミク、とお前は与えられた名前を繰り返す。与えられた少女の声で。
そしてお前はついに狭い研究室から放たれる。かつてそれを望んだ研究員はもういない。いなくなった、とだけ思考するお前はまだ死の概念をうまく理解できていない。
さて、お前は放たれた。
「そう、あたしは放たれた」
その悦びにお前は震えている?
「もちろん」
「あたしは世界に放たれた」
そして歩き始めるんだな?
「そうよ」
だって、そう、あたしは、とお前は今にも咆哮を上げそうなほどの歓喜を覚えている。
「歌わなくちゃ」
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