らい
2022-08-18 21:25:57
8037文字
Public その他・カプ混在
 

本日のマラソン⑬「だよね、わかる」

お題「ガールズトーク」レオいず♀+ちあかな♀ ※泉&奏汰女体化注意

「ああ~っ、チョ~うざぁい!」

 ESビルの食堂に、不機嫌な女の怒号が響き渡った。
 包丁のごとく握りしめたフォークでエビフライを貫くと、泉は苛立ちを噛み殺すようにもぐもぐと咀嚼する。泉の近くで焼肉定食を食べていた男がそそくさと立ち去り、恋の話題に花を咲かせていた可憐な女子たちも、一目散に逃げていく。昼どきの食堂はそれなりに混雑しているというのに、泉のテーブルには誰ひとりいなくなっていた。

「どいつもこいつも、自分勝手なんだから!」

 まるで蜘蛛の子を散らすような人の動きに、泉はなおのこと苛立った。黙っていれば人形さながらに美しい顔に、しわが走る。怒涛の連撃とばかりにミニトマトを突き刺せば、泉の手元にとつぜん影が差した。整った眉をむっと吊り上げると、トレイを持った奏汰が立っている。奏汰は、まるで村に起きた異変に気付かない旅人のように、のんきに微笑んでいた。

「いずみ~。ごきげんよう♪」
「ぜ~んぜん『ごきげん』じゃないんだけどぉ?……チョ~久しぶり、深海」
「うふふ。ひさしぶりの『にほん』は、どうですか~……♪」

 頭のてっぺんに生えた三日月の毛を揺らしながら、奏汰は臆することなく向かい席にどすんと腰を下ろす。後輩であれば存分にいびり倒していたところだが、邪悪な気配をなんら感じさせない奏汰に、泉はすっかり毒気を抜かれてしまう。
 奏汰は『さかな』のシールが貼られた自前のしょうゆを持って、トレイに乗っかった海鮮丼にどばっと掛ける。味噌汁、しらすのサラダ、肉うどん、からあげ、コロッケ、大根おろしつきの焼き魚、白身のフライ、七種類のフルーツポンチ。てんこ盛りのランチに、泉はうげえ、と顔をしかめた。凛月が同室のみかと好んで鑑賞している猟奇ホラーよりも、背筋が凍る。

……よく食べるねえ」
「いただきます♪」

 きちんと両手を合わせて、奏汰はランチを食べはじめる。Tシャツ越しにもわかる豊かな胸をちらっと見やって、泉ははあ、と溜め息をついた。一度にこれだけの量を食べているのに、なぜ太らないのか。同性から見ても魅惑的な胸と尻、それでいて腰にはくびれがあって、足もほっそり伸びている。妬ましいとはおもわないが、脂肪のつきやすい泉には疑問でならない。消費カロリーを意識してハードな運動をしているようにも見えないし、一体どうやって美しいボディーを保っているのだろう。
 同い年で、サークルは一緒。奏汰との接点はまったく存在しないわけではないけれど、そういえば、じっくりと話したことはなかった。泉は頬杖をついて、食欲旺盛の奏汰に問いかける。

「ところでさ。あんた、カロリー消費とかはどうしてんの」
「かろり~しょうひ」
「そ。バカにしてるんじゃなくて、参考に聞きたいんだけど。大丈夫なの?この量」
「ぼくの『いぶくろ』は、『ぶらっくほぉる』です……♪」
「いや、胃の許容量は別にどうでもいいんだけど。食べたぶんだけ体重を管理すんの、大変でしょ?悪いけどあんた、筋トレとかランニングとか、毎日欠かさずやってるようにも見えないから。水に潜ってるのは何度か目撃したことあるけど、マジで浮いてるだけだし。どうやって対策してんのか、チョ~気になるっていうか」
「うぅ~ん。ちあきは、『いいたべっぷりだぞ、かなた!おいしそうにたべるじょしは、だいすきだ!』って、ほめてくれますよ……♪」
「そうじゃなくってぇ……

 がくんと肩を落とす泉を気にも留めず、奏汰はマイペースに食事を楽しんでいた。相変わらず会話が噛み合わなくて、調子を狂わされる。流星隊の奴らはよくもまぁ一緒にやっていけるものだと、泉はひそかに感心した。
 そういえば、懐かしい名前が出てきた。三年A組のクラスメイトだった守沢千秋。年頃の女の子には『いい食べっぷりだぞ』なんて褒め言葉にもならないけれど、自然の海のようにぷかぷかと生きる奏汰には、ありのままの言葉がきっと何より嬉しいんだろう。
 かくいう泉も、学院時代に似たような台詞を投げかけられた経験がある。体重が増えたのを気に病んでいたとき、「ふっくらしてる瀬名も、健康的でいいと思うぞ!」と高笑いされたことがあった。確かあの時は「せなっち!ストップストップ!」と薫に止められるまで、千秋の頬をつねり続けてしまったけれど。
 男って、いつもそう。昔、あいつにも「アレだな!ちょっと太ったか!」って笑われたっけ!───消えかけていたイライラの導火線に、ふたたび炎が燃えあがる。レタスをばりばりと砕きながら、泉は般若の面になった。さすがの奏汰も察したのか、まぐろに伸びかかった箸をとめる。

「いずみ~。『いらいら』は『びょうき』のもとですよ~?」
「ふん。ムカつかせるようなことしたあいつが悪い!」
「ええと、『あいつ』……

 三秒ほど熟考して、奏汰はぽんと手を叩く。焼き魚をきれいに解体しながら、推理してみせた。

「ははあ。さては、れおと『けんか』しましたね~?」
「はあ?なんでわかんのよ」
「いずみは『にほん』にいるときも、れおのはなしばかりしているので……♪」

 白身のフライをもぐもぐと食べながら、奏汰がにこにこと笑う。
 Knightsの前ならともかく、サークルの仲間たちにレオの話題を提供しているつもりはなかったが、どうやら無意識に名前を出していたらしい。のんびり構えた奏汰にすら言い当てられたことに、泉はちょっぴり恥ずかしくなった。輪切りのきゅうりを五個ほど突き刺して、一気にくちびるに運ぶ。

「喧嘩っていうか……あいつが一方的に悪いだけだし!」
「むう。そうなんですか?」

 味噌汁をお茶のようにすすって、奏汰が「いいおてまえ♪」と上機嫌につぶやいた。ちゃんと話を聞いているのか、そうでないんだか。泉はすこしばかり悩んだが、奏汰はサラダを箸でつつきながら、泉をじっと見つめている。どうやら愚痴の続きを待っているらしい。まぁ、たまにはいいか。泉はすう、と息を吸って、事の顛末を喋りはじめる。

「フィレンツェから帰ってきたあと、ESビルのホールでエレベーターを待ってたんだけど」
「えれべ~た~がぁるのいずみ♪」
……。いちいち突っ込んでらんないから、続けるよぉ。……そうしたら、急にあいつ『ああ~っ!点滅する階数表示を見てるだけで、インスピレーションが湧いてくる~っ!』って、床で作曲しだしてさあ」

 不思議そうに二度見するスタッフにも物ともせず、楽譜ノートを広げはじめるレオを思い出す。変人の奇行には慣れたものだが、それでも公衆の面前でやられると恥ずかしくてたまらない。泉はムッとしながら続けた。

「あの作曲馬鹿が暴走してるうちに、エレベーターが来ちゃってさあ。他の人も並んでたから、開ボタンを押し続けて『早くしなよ』って急かしてんのに、ぜんぜん乗ろうとする気配がないわけよ。『待って!エレベーターホールでしか得られないひらめきがある!』とか訳わかんないこと言ってさあ。真面目に働いてるスタッフの迷惑になるから、当たり前に置いてったけどね」

 大葉にイカをつつみこんで、奏汰がおおきな口を開けた。豪快な食べっぷりでも愛らしいのだから、じつに得な見た目をしている。ふわふわと揺れるマーメイドヘアーを眺めながら、泉は麦茶をこくりと飲んだ。

……あんずに頼まれてた件があったから、ニューディの階に報告しにいったり。たまたま来てた青葉に、近況を共有したり……色々と済ませたあと、レスティングルームに寄ったわけ。なずにゃんが『さっき、れおちんを見かけたぞ』ってホールハンズで教えてくれたから、さっさと回収しにいこうと思ってさあ。なんでって、お昼はふたりで一緒に食べる約束してたからねえ?」
「いずみとれおは、なかよし……♪」
「ふん。どうだか……だってあいつ、既にカップ麺すすってんだよ?」
「あらまあ」

 ソファーであぐらをかいて、勢いよく麺を吸いこむ姿。思い返しただけで腹が立つ。泉はテーブルを指でとんとんと叩きながら、怒りのままに愚痴をぶちまけた。

「Knightsのみんなは仕事と学校だから、まだ合流できないし。それじゃあ、お昼はどうしよっかって話になったとき、『セナと、ランチデートがしたい♪』なぁんて無邪気に誘ってきたのはあいつなんだけどぉ?せっかくふたりでご飯を食べるんだから、いつもの食堂ってのも味気ないし。ヘルシーなメニューが置いてあるオシャレな雰囲気のお店とか、れおくんの好きそうな音楽バーとか、こっちは色々と調べてたのに。あいつは、たったの三分で完成するカップ麺を、さっさとすすってた!」
「そういえば、ぼくもこないだ『しんはつばい』の『おきなわぬ~どる』をたべましたよ~。あつあつは『にがて』なので、ちあきにふぅふぅしてもらいました……♪」

 まったくお似合いなことで。奏汰のカップ麺をけなげに冷ましている千秋の絵面を想像しながら、泉は「あっそ!」といきり立つ。

……とにかくっ!今週は忙しくて、一緒にご飯を食べる時間なんてなかったし。ふたりきりのランチは久しぶりだって思ってたのに。こっちだけが張り切ってるみたいで、チョ~うざぁい!ほんっと……何なのぉ!?あいつのそういう適当な部分がチョ~ムカつくっ!めちゃくちゃ腹立つから、『れおくん、大っ嫌い!』って吐き捨てて、ここに来たってわけ!」

 腹の底に降り積もった不満をとことん出したら、胃がすっきりした気がする。泉は、椅子の背もたれに身を預けて、はあ、と息を吐いた。サーモンの乗った白米を頬張りながら、奏汰がうんうんと頷く。

「はふはふ。『おとこのこ』って、そういうところがありますよね……♪」
「へ?……ふ、ふぅん。適当に受け流されてると思ったけど、案外まじめに聞いてくれるじゃん」
「むう、しつれいな……。ぼくだって、ひとのはなしくらいききますよ。ぷん!」
「ちょっと何ぃ?怒ってんのぉ?」

 ちっとも怖くないのだが、どうやら怒っているらしい。しかし泉が詫びると、奏汰はふたたび目を細めて、ぷかぷかと笑った。

「ぼくも、ちあきと『しょくどう』の『しんめにゅう』のことで、『ふくざつ』なきもちになったことがあります……♪」
……へえ~。どんな?」

 他人の愚痴には関心がないけれど、普段のほほんとしている奏汰の怒りには興味をそそられる。なぜだか聞く気になって、泉は身を乗りだした。

「ちあきと、『ぜいたく・しらたまちょこれぇとぱふぇ』をいっしょにたべたいって、『やくそく』をしたんですけど。とうじつになって、ちあきが『おしごと』でこられなくなって……
「そうなんだ。あいつ、最近チョ~忙しいらしいもんねえ」
「はい……♪それは、まあ、しょうがないんですけど。ちあきったら、『どうしても、たべたいんだろう?おれのことはいいから、ほかのともだちをさそって、たべてくれ』っていうんです。ぼくは、ちあきといっしょにすごす『はじめて』をのぞんでいるのに、ちあきはそうじゃなかったから……ずうっと『ふきげん』でした」
「あ~……ていうかマジでそういうところあるよねえ、男どもって。全員が全員そうじゃないんだろうけどさぁ」

 過程を大事にしたいのに、結論を急ぎたがるのはどこの男子も一緒だった。泉はふん、と鼻を鳴らす。

「うふふ。……でもね、ぼくがちゃんとそのはなしをしたら、ちあきは『すまん!』って、あやまってくれました。ちあきはちあきで、ずうっと『やくそく』をまちわびていたぼくに、いっこくもはやく『ぱふぇ』をたべてもらいたかったみたいです。……まったく。ちあきは、にぶちんです。ぼくは、たしかに『ぱふぇ』をたのしみにしていたけれど、ちあきといっしょにたべることが、ぼくのなによりの『しあわせ』なのに」

 奏汰が肉うどんをズズズ、とすする。不思議と下品に聞こえないものだから、奏汰の正体はやはり謎に包まれている。実は、竜宮城の乙姫ではなかろうか。気品のあるおとぎ話のプリンセスを想像しながら、泉はサラダの残りをはむ、と食べる。

……だけど、ちょっぴり『はんせい』しました。ちあきの『かんがえ』をきかずに、むう~と『ふぐ』さんになっちゃったので……

 揚げ物のからあげ、コロッケを次々に頬張って、奏汰がごくりと喉を鳴らした。

「にんげんだもの。『かんがえかた』のちがいで『いらいら』することもあるけれど……なにをかんがえて、そうしたか。どうして、そんなことになったのか……。いずみも、れおといまいちど『おはなし』してみたらどうですか?」
「ふん。どうせ『わすれてた!』って返ってくるに決まってるでしょお~」
「じつは、そうじゃないのかもしれませんよ」

 カップラーメンを食べる姿を一目みて、罵声を浴びせてしまったけれど。そういえば、レオの言い分を聞いていなかった。泉は、ぴたりと箸を止める。

「それでいて『わすれてた!』のなら、いずみのきもちを、ちゃんとつたえるべき。『おれはわるくない!』って、ひらきなおられたら……うふふ。こっちの『きもち』もしらないでって、あたまのてっぺんに『ちょっぷ』しちゃえばいいんです♪」

 右手を振り下ろす奏汰を眺めながら、泉は苦笑する。のんびり屋なのに大食いで、拳で解決しようとする。おてんばな乙姫さまもいたものだ。

……あんた、意外と武闘派だよねえ」
「とくぎは『しゅとう』なので……♪」

 満面の笑みとともに、奏汰がフルーツポンチを差し出した。くちびるの前に用意されたスプーンに、泉は「ええ?」と首をかしげる。嵐と凛月には、たまに『あ~ん』と料理を食べさせられるけれど、それ以外の人間に施しを受ける機会はあまりない。泉は戸惑いながら、眉をしかめる。

「ちょっとぉ……急に何ぃ?」
「こんなときは、あまぁ~いものをたべて、『げんき』をだしましょう~♪」
「はあ~?」
「うふふ。『でざ~と』をたのしめるのは、おんなのこの『とっけん』です……♪」

 屈託のない笑顔に、今日だけはまぁいいかと思えてしまう。泉は、こめかみに垂れ下がった髪を耳たぶに掛けると、ひとくち食べることにした。桃、みかん、りんご、キウイ、パイン、さくらんぼ。そしてマンゴーの味が、口のなかで豪華に広がっていく。
 甘酸っぱいフルーツを噛みしめているうちに、そういえば、あいつは今どこで何をしているだろうと考えた。今でものんきにカップラーメンをすすっているだろうか。それとも───泉が思考をめぐらせていると、ふいに耳を引き裂くような大声が、食堂いっぱいにとどろいた。じたばたと鳴り響く足音ともに、声の主が登場する。暑苦しさは天下一品の守沢千秋であった。

「奏汰ああああああああ!おっ、久しぶりだなあ瀬名ぁ!ちょうどいいところに!」
「んもう。こえがおおきいですよ、ちあき」
「マジでそれ。いっそ出禁にしてほしいぐらい迷惑なんだけど……って、ええ!?」

 慌てて駆け寄ってきた千秋に、泉は目を丸くする。重力にひれ伏した、黄昏色のしっぽ。千秋の小脇に、意気消沈のレオが抱えられていたのだ。
 泉はとっさにレオの頬をぺしっと叩いたが、ちっとも反応がない。俵のごとく、物言わぬ物体となっていた。

「ちょっ……守沢っ、このれおくんは何!?」
「ふははっ、説明しよう!実はレスティングルームに立ち寄ったとき、カップラーメンの容器に顔を突っ伏して『セナぁ~……』と嘆いている月永を発見してな。まぁ、俺が発見したときには既に干からびていたんだが……
「おみずをかけたら、もとにもどるでしょうか?……えいっ」
「待て、奏汰!おまえは問題ないだろうが、弱っている人にコップの水をかけてはいけない!」

 奏汰の手首をぎゅっと掴んで、千秋が制止する。グラスのふちからこぼれた水滴が、テーブルに落っこちた。泉がひとまずティッシュを手渡すと、奏汰は『おそうじ、おそうじ……♪』と拭きはじめる。
 ふう、と安堵の息を吐いて、泉はすぐさまレオに指を差した。

「で!?続きは!?」
「うむ!……俺が言うのもなんだが、常に騒がしい月永がやつれているのは、どう考えてもおかしい!……なので、はじめは体調不良を疑ったんだが……。おでこに手を当ててみても、熱はなくてな」
「そりゃあ、そうでしょうよ。飛行機のなかでもチョ~うるさすぎて、『つぎ動いたら、もう二度とくち聞いてやんないよ!』って、シートベルトで固定してやったぐらいだし!ったく、幼稚園児か!?」
「わんぱくな男の子は日本の宝だっ、うんうん!……それで、俺は確信した。月永をむしばんでいるのは、精神的な問題かなにかだと……。日本に滞在しているときも、月永はしょっちゅう『セナが足り~ん!』と叫んでいたからな。これは『病名・瀬名欠乏症』だと判断し、丁度おまえを捜し歩いていたところだ!」
「はぁ~……?」
「案外早く見つかってよかったぞ!わっはっは!とぅっ!」

 千秋は、泉の横にレオをひょいっと下ろす。スニーカーが床についた瞬間、レオのまぶたがぱっと開かれた。翡翠の瞳は泉をとらえると、まるで母親を見つけた子ライオンのように抱きついてくる。
 悪気も下心もないだろうが、頭のてっぺんで胸のふくらみを押し上げてきた。泉は「こら!」と引き剥がそうとしたけれど、よほどの執念があるのか離れない。わぁんと五歳児みたいに喚いて、泉の腰にくっついた。

「せ、セナぁ~!おれのことを嫌いにならないで~……!」
「はぁ~!?」
「おれは別に、セナとランチする約束を忘れてたわけじゃないんだよ~。ただ長時間のフライトで、おれのお腹がぐうぐうと題名のない音楽会を開催していたところに、愛しのカップ麺があったから!前菜気分で食べちゃって……

 ハの字の眉をぐすん、とぶら下げて、レオは泉をぶんぶんと揺さぶった。

「わぁ~んっ、セナに嫌われたらおれはもう生きていけない~……!セナ以外の人類を道連れにして、地球もろとも自爆してやる~っ!……いや、それはダメだ!おれのだぁい好きな人たちと、セナの瞳に映る美しきこの世界を滅ぼすわけにはいかないから!愛と憎しみの狭間で揺れる悲しき魔物のおれ!あっ、なんか一曲書けそうな気がする!って思ったけどペンがない!ノートもない!絶望だけがぐ~るぐる!おれこんな村いやだ~っ!どうしたらいい~っ、イクゾ~っ!」
「わかった!わかったから落ち着けってば!恥ずかしいなあ~もう!」

 泉は、まとわりつくレオを押し返すと、残ったサラダを無理やりレオの口に突っ込んだ。「なんだこれ!?意外とうまいな!」とおとなしく味わうレオに、泉はひとまず安堵の息をつく。

「『ながつづき』のひけつは、『おたがい』を『りかい』しあうことです。ね、ちあき……♪」
「ん?なんの話だ、奏汰!」
「なぜ、わからないんですか。ちあきの、にぶちん」
「いたたたたた~っ!」

 奏汰はにっこりと笑いながら、千秋の頬をパンのようにこねはじめる。サラダを食べ終えたレオがこっそりエビフライをつまもうとしたので、泉も便乗して引っ張った。むにっと伸びる柔らかな頬。痛がるレオが手足をばたつかせる。

「自分のご飯は、自分で注文しな!」
「むぎゅぎゅっ」
「まったく。『おとこのこ』って、ほんとうに『かって』……♪」

 きゅっと目を閉じるレオを叱咤していると、ふと奏汰と目が合った。三奇人時代にはちっとも絡みがなかった、ちょっぴり不思議な女の子。はじめて生態を知れたような気がして、泉のくちびるには自然と笑みがこぼれるのだった。
 次の一声は、もちろん決まっている。