らい
2022-06-16 21:00:32
1153文字
Public こはひめ
 

ところにより酸性雨

こはひめ♀(ひめる女体化注意)/雨に濡れたメル♀と雄の本能に抗おうとする高校生こはくちゃんの放課後 ※復学後設定

「困りましたね」

 透けたブラウスに、黒の曲線が艶かしく浮いている。天気予報はあてになりませんね、いつになったら止むのでしょうか、せめて雨の勢いが落ち着いてくれたらいいのですが。ひさしの下で反響するHiMERUのぼやきが、まったく頭に入ってこない。脳にありありと映しだされたびしょ濡れの制服が、思考回路の働きを邪魔するのだ。
 わしは何を考えとんじゃ!こんアホ!桜河の祖先に顔向けできんやろがい!───こはくは我に返って、雨に濡れたスニーカーに視線を放り投げた。ところが、ローファーから伸びるHiMERUの細い脚も目に入る。逃げ場を求める瞳は、ふたたび甘い蜜につられてしまうのだった。
 ぴったりと張りついたまろやかな腰のライン、太腿をいやらしく覆うプリーツスカートのひだ、豊かな胸を覆う生地の色。姉たちで見慣れているはずの女体は、どうにも卑猥な想像をかき立てる。普段は、絶対にこんな妄想に走らない。どちらかといえば、なにかと下半身に直結させがちなクラスメイトの会話に、もっぱら辟易しているぐらいなのだ。あの娘で勃っただの、即ハメしたいだの、同じ男でありながら実にくだらないと一蹴していたはずの欲望。雨の粒で溶かされた化けの皮が、どろどろに剥がれ落ちようとしている。
 ああ、濡れたブラウスを脱ぎ捨てたなら、一体どんな胸のこぼれ方をするのだろうか───こはくは拳を握りしめて、ぶんぶんと首を振る。自分がこんなにも典型的な雄であるとは思わなかった。最悪だ。もう二度と級友たちを軽蔑する資格はない。

「ひ、ひ、HiMERUはんっ」
「はい?」
「こ、こここここれでも着とき!」

 自分が、自分でなくなってしまうようで、気がおかしくなりそうだった。こはくは少々もたつきながらブレザーを取っ払って、HiMERUに無理やり手渡した。屋根の向こうで、ザーザーと雨が降る。長靴をはいた小学生たちがキャーッと駆け抜けて、柴犬を連れた女性が小走りに横切っていく。水たまりがぴちゃりと跳ねたあと、やっとHiMERUはブレザーを受け取った。

「ふふ、ありがとうございます」

 こはくは顔を上げなかったが、きっとHiMERUは普段と変わらず、涼しげに微笑んでいるだろう。いつだって完璧で、美しくて、だからこそ仮面の下の秘密を知りたくなる。ブラウスのボタンを外した先になにが待っているのか───こはくは再度かぶりを振った。どくり、どくりと高鳴る胸を突き破って、いまにも心臓が飛びだしそうだ。

「桜河は、紳士ですね。……ああ、それにしても、はやく雨が止むといいのですが」

 それはそれで困る。こはくは真逆の感想を抱いた。アスファルトを叩きつける雨音が消えてしまったら、やかましい太鼓の音色を知られてしまうだろう。