らい
2020-10-12 21:03:03
2588文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀㉘「ポストのなかには手紙がいっぱい」

お題「ラブレター」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)

「待たせたなっ、おれのだぁい好きな仲間たちっ!」


 レオが勢いよく扉を開くと、そこには静寂が吹き抜けるだけだった。窓際に置いた椅子に、ジャージ姿の泉が座っているだけで、他のメンバーは来ていない。
 机が乱雑に置かれている空き教室は、相変わらず閑散としている。熾烈な争奪戦の末に、ようやく練習場所を勝ち取ったというのに。面倒な手続きを率先して進めたし、提出書類にも一番乗りでサインした。並々ならぬ苦労が全て水の泡だ。
 廊下から漏れる生徒たちの笑い声が、やけにくぐもって聞こえる。ほんとうに水の底に沈んだみたいだった。ユニット内であんな風に笑い合ったのは、果たしていつ頃だっただろうか。ちっとも思い出せないし、もしかすると最初から、そんなものは存在しなかったかもしれない。


……なぁんだ。つまんないの」


 今日こそは集まるかもと期待していた。意気込みたっぷりにメンバー全員分の曲を作ってきたことが、無性にあほらしくなる。レオはこぼれかけた笑顔をそっとしまいこみ、椅子に腰かけている泉に歩み寄った。


「いつものことでしょ」


 泉は呆れ顔で呟いて、手に持っていた便せんを折りたたんだ。そうして、小綺麗な封筒に戻していく。
 単純に、なにを読んでいたのか気になった。レオは、教室の後方から椅子を持ってきて、泉の隣によいしょ、と置く。背もたれにあごを乗せて、無邪気に尋ねた。


「なぁなぁ。それ、なにっ?」
「ん~。れおくんには、関係なぁい」


 泉は、手首に巻きつけたゴムで髪をまとめながら、かばんの中に封筒をおさめる。手鏡で前髪をチェックする泉に、レオは頬を膨らませた。知られると都合が悪いものでも入っているのだろうか。しかし露骨に拗ねるレオを無視して、今度はリップクリームを塗りはじめる。
 ぷるんと潤ったくちびるを眺めながら、レオは両足をばたばたと揺らした。泉は、いつもこうだった。レオの世話を焼きたがるくせに、いざ自分のことをあれこれ聞かれると「関係ない」とつっぱねる。


「セナの、いじわる!」
「なんとでも言えばぁ?」
……ファンレター!?」
「だからぁ、関係ないっていってるでしょ」
「おれもこないだもらったぞ~、6歳のおんなのこから!『レオくんのおひめさまになりたいです』って、おれの似顔絵つきで♪」
「はいはい、それはよかったねえ」
「で、なぁに?」
「しつこいなぁ」
「だって、気になるんだもん」


 上半身を椅子ごと泉に向けて、レオは駄々をこねる。大好きな泉のことを、なんでも知っていたいのだ。
 泉は根負けしたのか、か細い声でつぶやいた。


……ラブレター」
「え!?」
「今朝、机のなかに入ってたの」
「つまり、それは……
「瀬名さん、付き合ってください」
「つっ、つきあっ……!」
……だってさ」


 結んだばかりのポニーテールを揺らしながら、泉は淡々と答える。一方のレオといえば、あんぐりと口を開けたまま固まった。まるで絵に描いたような『雷に打たれる石像』になってしまう。
 好きだとか付き合うだとか、レオはその手の話題を苦手としていたけれど。まさか、身近な人間に色恋沙汰が降りかかるとは、想像もしていなかった。
 とはいえ、冷静になって考えると、充分に『ありうる話』である。泉は、性格に難はあるものの───本人にそれを告げたら、力強いげんこつを浴びせられるに決まっているので、黙っておくが───男なら、誰もが「美人」と声を揃えて称賛するほどの容貌なのだ。いつ、どこで、だれに告白されてもおかしくないことに、気づくべきだった。泉本人が、恋愛の話をしたがらないだけで、本当はもっと好意を形にされているかもわからない。
 レオは高鳴る心臓を押さえながら、機械人形のごとくカクカクと腕を動かす。椅子の背もたれにしがみつき、やっとの思いで泉を仰いだ。


「そ、それで……
「え?」
「セナは、そいつと、付き合っちゃうの?」


 うん、と返されたら、どうしよう。レオはまっしろな頭で言葉を絞りだしながら、不安いっぱいの声で、恐る恐る尋ねてみる。
 すると泉は、かぶりを振った。パリン、という幻聴とともに、レオの石化が解けていく。


「ほんと!?」
「ちゃんと断るよぉ。あんまり話したことないから、どんな男の子かもわかんないしさぁ……。それに、いまは応援してくれるファンのみんなが優先だしねえ。真摯に綴ってくれたその気持ちだけ、大切にする」
「やった~!」


 レオはその場に立ち上がり、元気いっぱいに両腕を広げた。泉は眉をしかめて、「なんで、れおくんが喜ぶわけぇ?」と怪訝そうに首を傾げる。


「だってさあ。セナに彼氏ができたら、もう、おれと一緒にはいられないだろ」
「別にそんなことなくない?」
「おまえってやつは……。いくらおれでもわかるぞ~、おこられる!」
……うーん、そういうもんなのかなあ。まぁ………確かに、他の男の子とふたりきりになっても許してくれる彼氏じゃないと、ダメかもねえ」
「えっ。もしかしてセナは、本当にそういうタイプを選ぶつもりなのか!?」


 レオは、威嚇するニワトリのごとく両手を動かしながら、泉の顔にぐっと近寄る。泉が、ちいさく笑った。


「例えばのはなし。いまは誰かと付き合ってる暇なんてないかなあ。誰かさんのお世話で忙しいし。あんたの面倒を見てやれるの、私ぐらいのもんだしねえ?」


 人差し指でレオの鼻をつついて、泉がふふ、と息をこぼす。雪原に咲く花のような微笑みに、レオの頬はぽっと熱くなった。
 できれば、だいすきな泉と永遠に、どこまでも一緒にいたいけれど。いつかは、違う男の子を好きになって、手の届かない場所に旅立ってしまうのだとしたら。そうなる前に、溢れるこの想いの丈を、紙にぶつけてみるのもありかもしれない。
 女の子が喜ぶような詩の綴りかたを知らないから、ゴミ箱行きになるのが関の山だろうけれど。


「セナぁ~」
「なぁに?」
「だぁいすき」
「はあ?」


 だからレオは、何度だって投函してみせるのだ。ふとした瞬間に孤独に溺れそうになっても、暖炉に揺らめく炎みたいな熱を灯してくれる女の子に。「だぁいすき」が詰まった声の手紙を、いつだって。