らい
2020-10-08 21:30:12
1996文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀㉔「運ぶのは君がいい」

お題「買い物」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)


 腕の関節に紙袋をひっさげて、両手にも大荷物を抱えたレオは、やっとの想いでエスカレーターに足を乗せた。
 ゆったりと下降していく手すりに肘を乗せ、戦利品のすきまから恨めしげに前方を見上げれば、バッグを肩にかけた泉が、満足げに微笑んでいる。艶やかなグロスがきらめく唇はうつくしく、細く伸びたまつげも羽衣の糸のようだったけれど───いまは、女神の皮を被った独裁者・セナ総統である。レオは、鞭を持って「ほらほらぁ!とっとと運ぶんだよぉ!」と暴れている泉を妄想しながら、重みのある紙袋を抱え直した。
 昨晩、「買い物したいから、付き合ってくれる?」とおねだりされたので、子犬のごとく喜んで車を出したのだ。休日は、のびのびと羽を伸ばしてほしいと思ったのも、本当のこと。なんなら、だいすきな女の子に頼ってほしくて、荷物運びも自ら志願したほどである。
 だが、思い描いていた理想とは違う。まさか、視界が見えづらくなるほどの紙袋を持たされるとは。レオは頬をふくらませて、訴えた。労働者の権利と義務を、しっかりと果たさなければなるまい。


「セナぁ~……。もういいだろ~?」
「だぁめ。まだまだ欲しいものがたくさんあるのぉ」


 上のフロアから攻めていた泉が、エスカレーターから降りる。そのまま1階まで向かうものと信じていたレオは、がくんと肩を落とした。
 泉が向かった先は、高貴な白の装飾が施された店の入り口。飾られているパネルのなかで、外国人の美しい女性が、なめらかな肢体をさらけだしている。
 レオはげっ、と声を出した。下着屋である。


「れおくんは、下の階のベンチでお留守番しててくれる?」
「ええ~……?」
「一緒に入ったら女のひとたちが不安になっちゃうし、ここの階のベンチにいても、変に誤解されちゃうでしょお?」


 そういう問題ではないのだが、レオはしぶしぶ了承した。ただでさえ、レディースブランドの紙袋をやまほど抱えているのだ。男ひとりでうろちょろするのは気が引けるが、泉は久しぶりの買い物を楽しんでいるようだし、これ以上なにも言わないことにした。
 すれ違った幼い女の子に、「おにいちゃん、だいじょうぶ?」と心配されたが、それにも「お兄ちゃんは騎士なので、しっかりとこの荷物を守ります!」と返すことにする。母に手を引かれた女児は、ぱあっと花のように笑った。
 しかし、正直なところ、想いはひとつであった。


(セナ~っ、はやく帰ってこいっ!)


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 泉の買い物奉行がようやく終わり、レオはへとへとになりながら駐車場に辿り着く。トランクに荷物を詰め込むと、「はひい」と世界一情けない声が出た。


「お疲れ様ぁ、れおくん」
「ぐぅ……。おれの苦労もしらないで、余裕の笑みを浮かべている……


 レオは眉をしかめて、運転席にひょいっと乗りこむ。やや遅れて、泉が助手席に座った。子どもを肩車する父親、ちいさな手を引く母親、仲睦まじい恋人たち───車のフロントガラス越しに、休日のひとときが流れていく。


……ふう」


 レオは一息ついて、シフトレバーをいじる。シートベルトを締め、エンジンを始動したところで、泉がレオの袖をくい、と引っ張った。


……久しぶりに、のんびり買い物できたかも。ストレス発散できちゃった」
「セナが嬉しいと、おれも嬉しい!……だけど荷物、重かったんだからな~?」
「うん。……ありがと」


 泉は、ちゅ、と音を立てながら、レオの頬にキスをする。突然のやわらかさに動揺したレオは、勢い余ってアクセルを踏んづけてしまった。
 急発進した車に、泉は、整った眉を吊り上げる。


「ちょっとぉ~!?事故とかシャレになんないしっ、あんた何やってんのぉ!?」
「おれの台詞だっ、がるるるるるっ!」


 理不尽に叱る泉に威嚇して、レオは改めてハンドルを握りしめた。普段はまったく素直じゃないくせに、たまに男心を刺激してくるのは果たして計算づくなのか、そうでないのか。頬に残るキスの跡が、ウィンカーのようにチカチカと燃えている。
 そうして駐車場から道路に出ると、レオは突如ひらめいた。


「なあ。次はおれのお願い、聞いてよ」
「ん。なぁに?」
「ちょっと、ドライブ付き合って!」


 美しくて綺麗だけれど気が強くて、女王様気質で───それでも、だいすきな女の子だから、わがままを許してしまう。
 そのかわり、一生おねだりさせてほしい。ずっと一緒に、この長い人生を、走り続けてほしいと。そうやって甘えることぐらい、許されたいのだ。