らい
2020-10-05 21:35:38
1852文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀㉑「デリカシー欠乏症」

お題「体重」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)

「はぁ~!?」


 居間に寝そべって五線譜にメロディーを綴っていると、突然、泉の叫び声がとどろいた。レオは握り締めていたペンを放りだし、床に散らばった楽譜の湖畔を乗り越えて、一目散に浴室へと駆けていく。作曲の時間を邪魔されるのは好ましくなかったが、彼女の危機となれば話は別である。
 なんだなんだっ、覗き魔でもあらわれたのかっ!?そこで待ってろ、今すぐおれが駆けつけてやるから!───足がもつれそうになりながらも、レオは特急列車のごとく風呂場を目指す。


「なんでぇ~?」


 脱衣所の引き戸を勢いよく開ければ、バスタオル姿の泉が悲痛な声を絞りだしていた。壁に片手を置き、マットに膝をついて、うなだれている。
 いったい何があったというのか。レオは、水滴で濡れた泉の肩に、そっと指を伸ばした。ほてった肌は、白くて柔らかい。


「ちょっとぉ……。なに勝手に入ってきてんのぉ、エッチ……
「えっちとはなんだ、えっちとは。おまえが素っ頓狂な声をあげるから、心配になって走ってきたんだろ~?」
………増えてたのぉ」
「あ?」


 レオが聞き返すと、泉はか細い声でよろよろと立ち上がる。


「体重………
「たいじゅう」
「1kgも………


 気をつけてたのに。チョ~最悪なんだけどぉ……
 泉は、ふるえる指先で体重計に指を差す。凛々しい女騎士のまなざしは行方をくらまし、長いまつげが頼りない影を落としていた。化粧をしていない湯あがりの素肌もあいまって、いつもより弱々しい姿に見える。
 モデルの世界は、体重管理がシビアだ。美しいからだをいかに維持できるか、その手腕が仕事の増減につながると聞く。レオからしてみれば、たかが1kgの誤差なのだけれど。泉本人は、えらく気に病んでいるようだった。


「最近ちょっと頑張ってるからって、ご褒美にパフェを食べたのがだめだった……。ウォーキングの時間を増やして、食事の献立も見直さなくっちゃ……。あとは………
「う~ん、セナが毎日努力してることは知ってるし、おれとしても適当なことは言いたくないけど……。あんまり自分を追い詰めんなよ~、痩せすぎは逆に心配になる……
「そう言ってくれるのは、ありがたいけどぉ……。でも、自分に甘かったことは確かだからさぁ……。お尻にお肉、ついちゃった気がするし……
「そうかあ?」


 泉は「う~ん」と唸りながら、鏡にからだを映す。ほっそりとした首筋と、皺ひとつないデコルテ。てのひらから程よくこぼれそうな胸。きゅっと引き締まった腰に、小ぶりながらも張りがある尻のライン。バスタオルで隠れているが、じゅうぶん魅力的である。
 泉は、太ったと言い張っているが、外見もほとんど変わらない。非の打ちどころがない、完璧な美なのだ。だが、泉はしきりに肉を気にしている。レオもつられて、「うむむ」と眉をしかめた。
ほんとうに、太っているのだろうか。一つの疑問が、思考回路を駆け抜ける。


「どれどれ」
「ひゃっ!?」


 どうしても気になったレオは、泉の背後から両手をまわした。こねがいのある胸、掴みやすそうな腰、揉みしだきたくなる尻。それらを上から順番に、ポン、ポン、ポンと触れていく。
 体重が増えた、といえばそうかもしれないが、感触としてはちっとも変わらなかった。ボディソープの甘い香りに加えて、指先から伝わる柔らかさが、なんとも心地よい。レビューの総評としては、満点である。
 レオは満足げに手を離し、わはは、と笑い飛ばした。


「安心しろセナ~、おまえが想像してるよりも太ってないから。少なくともおれは、すべっすべのふわっふわで、とろっとろのオムライスみたいなやらかいセナのおっぱいと、おしりが好き!だから、気にすんな!」
「バカ!スケベ!」
「わわわっ」
「出てって!」


 かぁっと頬を赤らめながら激高した泉は、脱衣所からレオをつまみだす。そして、ピシャッ!と力強く引き戸を締めた。
 すてんと尻もちをついたレオは、呆然とまたたきをする。
 女の子を励ますって、むずかしい。


……きもちかったな……


 やわらかな肢体の感触が残るてのひらを見つめながら、レオはぼおっと天井を見上げる。
 どれだけ太ったって、美しさは変わらない。いつだって魅力にあふれた彼女のからだに、永遠にのぼせているのに。ぽつんと開いた穴に、ぴったりとはまる言葉を見つけてあげられないのが、なんだか歯がゆかった。