らい
2020-10-01 21:24:29
2140文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀⑰「彼女がマスクを外したら」

お題「美容パック」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)


 泉と同棲生活を始めてから、レオは改めて学んだことがある。
 クローゼットの中は、流行の最先端を取り入れた服と靴でいっぱい。ネイルの色は、絵の具のパレットみたいに毎日違う。あたらしい化粧品を手に入れたときは一日中ごきげんで、普段なら怒られるようなおねだりも許してくれるほど、嬉しがる。羅列するときりがないけれど、泉の美的感覚は、とにかく洗練されたものだということだ。
 その中でも、レオが特に感心したのは、肌の手入れに対する意識である。お風呂上がりはたっぷりと時間を掛けて、スキンケアを怠らない。アイドルとして、モデルとして、女性として、当然の日課なのだろうけれど。入浴後は化粧水をばしゃばしゃと付けて、ドライヤーで髪を乾かすだけのレオからすれば、大したものだった。
 レオ自身はむしろ、「お肌はちゃんと労わって!」という泉の命令に従っているだけで、保湿とやらは面倒くさいと思っているし、髪だって自然乾燥でいいぐらいである。その「面倒くさい」を一切いとわないのだから、泉はすごいのだ。「それが普通よォ!」という嵐の声が聞こえるような気がするが、『すごいものはすごい』。
 美は一日にしてならずという言葉の意味が、よくわかる。努力の果てに、あの美しさがあるのだろう。


「ふぃ~、きもちかった!いい湯だなっ、わははん♪」
「相変わらず、ちょっぱやだよねえ。ちゃんと浸かってんのぉ?」


 入浴を済ませたレオが居間に戻ると、白いパックを貼った泉がソファーに座っていた。細く美しい足を組み、日課のケアに励んでいる。
 レオはその隣に飛び乗って、泉の肩にすり寄った。シャンプーの爽やかな香り。しわひとつない首筋に、おもわず吸いつきたくなる。


「もう。くっつかないでよねぇ」
「自然と吸い寄せられちゃうんだよ。だってセナは、いつだって綺麗だから!クレオパトラと楊貴妃と小野小町、そして新メンバーの瀬名泉♪」
「三大美女に加えてくれて、はいどうも~」


 レオなりに褒めたつもりだが、さほど響かなかったらしい。抑揚のない声色で返しながら、泉はふくらはぎのマッサージに集中した。白くて滑らかな曲線に、細い指が走る。美人は三日で飽きるということわざがあるが、あれは嘘だ。どれだけ見つめ続けても、得をした気分になる。
 レオは背もたれにふんぞり返って、誇らしげに腕を組んだ。


「おまえの美は努力の結晶だよな~、おれとしても鼻が高い!ふふん!」
「誉めてくれるのは嬉しいけどさぁ。あんただってアイドルなんだから、ちゃんとケアしなよぉ……って、ちゃんと付けたのぉ?化粧水!」


 泉がしつこく注意するので、しっかりと付けるようにしている。銘柄はちっとも覚えていないし、効能さえもうろ覚えだけれど。
 とはいえ、なにか忘れているような気もするが───化粧水を使ったのは確かである。レオは元気いっぱいに返事した。


「つけた!」
「乳液は?」
「つけてない!」


 わすれてた!───勢いのまま、素直に答えてしまう。泉の整った眉が、ふきげんに吊り上がった。


「ったく、どうして自慢げに主張するかなあ。お肌の水分が逃げてっちゃうでしょ~!?」
「むぎゅ」


 顔のほとんどが隠れているが、おそらく般若の顔をしている。怒気強めの泉は、レオの頬を左右に引っ張ると、「そうだ」とテーブルに置いてある袋に手をかけた。


「こないだ日本に帰ったとき、なるくんからもらったパック。余ってるからって、たくさん分けてくれたんだよねえ。付けたげる」
「おっ、いいなそれ!未知の体験~♪気分はまるでジュマンジ♪」
「子どもじゃないんだから、足ばたばたしないで。いい子にして」
「あっ、はい」


 思いのほか低めの声で注意されたので、レオはおとなしく膝に手を置いた。袋からシートを取りだした泉は、細い指でレオの輪郭に触れる。そうして、額から鼻へ、鼻から顎へ。丁寧にマスクを貼りつけた。
 ぬめっとしていて、それでいてみずみずしい感触が、顔全体に広がっていく。肌に水分が浸透していくのを直に感じて、レオは「おお~!」と唇をまるくした。


「どう?」
「お肌によい何かしらの液がおれの中に染み込んでいくのを、かんじる……
「ふふ。気持ちいいでしょ?……それにしても」


 泉は突然、ぶわっと笑う。白く覆われたマスクからのぞく目元が、可愛らしくゆがんだ。


「あんたのパック姿、妙に似合うんだけどぉ。ふふ、チョ~面白い」
「むむ。それは褒めてるのか貶してるのか!?」
「マスクの隙間から、目と唇だけが飛びでて……こう……ほら、あれ。あんたが好きなやつ、キン肉マンだっけ?あれに出てきそうな顔、してるんだよねえ」
「はは~ん。さてはアシュラマンだな!?」
「いや、キャラの名前まで知らないしぃ」


 あはは、おっかしい。泉は、自身のパックを外して、けらけらと笑った。潤いたっぷりの頬を揺らしながら、いつもよりも幼げな表情が、なんてことない夜にきらめく。
 そういえば、同棲をスタートさせてからもうひとつ、知ったことがある。怒りんぼの泉が笑うと、世界じゅうの誰よりも可愛いということだった。