らい
2020-09-24 21:13:22
3429文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀⑩「ドッペルゲンガー」

お題「夢」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)

「れおくん」
……むにゃ?」


 聞き覚えのある声にまぶたを開くと、レオの視界いっぱいに、ひとりの女の子が飛びこんできた。つややかな銀に染まった髪、透きとおった海色の瞳、つるんときらめく陶器肌。上品に引き結んだくちびるは、おもわず触れたくなるような薄桃色に彩られている。


「れおくん、起きたぁ?」


 語尾を伸ばしながら「れおくん」と呼ぶ人物を、レオはこの世にひとりしか知らない。目の前にいるのは紛れもなく泉なのだけれど、どうにも違和感をぬぐえない。それもそのはず、眼下に広がる世界は、摩訶不思議な物体であふれていた。
 泉の頭越しに映る空は、ピーチピンクの晴天。極めつけに、足元にはチューリップ、ひまわり、コスモス、クリスマスローズが咲いていて、宙にはハートに羽を生やした正体不明の生物が飛んでいた。
 つまるところ、ここは『夢』の世界なのである。
 レオは唇をわなわなと震わせながら、髪のしっぽをやさしく撫でる泉を見やる。どうやら膝枕されているらしく、太ももの感覚が後頭部越しに伝わった。柔らかい。それはもう、天にも昇る心地で柔らかかった。
 嬉しいか、嬉しくないかの二択でいったら当然、前者に決まっているのだが、素直で従順な泉は『にせもの』以外の何物でもない。レオは、極上の膝に抱かれたまま、仁王立ちのポーズで腕を組み、眉間にしわを寄せた。古き良き昭和の俳優よろしく、精悍な顔つきになってしまう。


「れおくん、最近チョ~忙しかったでしょお。でも大丈夫、私が癒してあげるからねえ……
「いや、おれのセナは絶対にこんなこと言わないので………
「もぉ、れおくんの意地悪……。普段から言えるわけないでしょお………?」
「セナは、素直じゃないからなあ……
「本当はね……。自分の気持ちに、正直になりたいんだけどぉ……
「セナが死んでも絶対に言わなさそうなせりふだ……
「でも、本当のこと言ったら………
「言ったら?」
「恥ずかしくって、感じちゃう……


 眉を八の字にした泉が、あつい吐息を吐きながら太ももを揺らす。スカートのひだを股にたぐりよせ、「ん……っ」と色っぽく身じろぐ泉に、レオはおもわず目を疑った。
 金の斧、銀の斧で知られる泉の精すらも、このような人格崩壊を煮詰めた別人は出すまい。いくら夢とはいえ、男に都合がよすぎる世界である。美しく咲き誇る花を眺めながら、レオは口角を引きつらせた。みだらに腰を揺らしはじめる泉に興奮しないといえば嘘になるが、それ以上に──男の汚れた欲望に泉を巻き込んでしまうことに、抵抗があった。


「せ、セナ、わかった……。わかったから一旦、落ち着こう。セナのひざまくらは大好きっ、できることなら満喫していたいっ!でも、こういうのは……なぁ~んか違うんだよなぁ~……ああ~………っ、110ばん~………っ、セコム~………っ、みけじママ~………っ」
「れおくんは、いや……?身も心も裸になった瀬名泉にグイグイ求められるのは……
「んあぁ~っ、モゾモゾすな~っ!セナは絶対にそんなアホな台詞で喋ら~ん!」
「もう……。れおくんったら……わからず屋なんだから……


 現実の私だって、ほんとはエッチな子かもしれないのに……
 『にせもの』の泉が、濡れたくちびるを寄せる。太ももに委ねた身体はかなしばりに遭って、まったく動かない。レオは泣きそうになりながら、おおきく口を開いた。


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「わぁ~~~~~っ!」
「え。うるさ」


 短いようで、長ったらしい夢だった。汗びっしょりのレオが飛び起きると、こたつに包まれた凛月が、迷惑そうに耳を塞いでいるのが見えた。
 どうやらKnightsのスタジオで眠っていたらしい。よほど大声で叫んでしまったようで、テーブルの向こうで前髪をチェックしていた嵐が、あんぐりと口を開けている。司もひどく驚いたのか、ポテトチップスの袋に指を突っ込んだまま、硬直していた。


「ちょっと、王さま。急にどうしちゃったのォ?みんなビックリしちゃったじゃない、大丈夫?」
「先程まで、すやすやと熟睡されていたのに。Nightmareでも見たのですか?」
「王さまかわいそ~、俺が慰めてあげる~」
「なぐさめる!?」


 大丈夫、私が癒してあげるからねえ……
 太ももの柔らかさがよみがえる。こたつに引きずりこもうとする凛月を、レオはひょいっと避けた。行き場を失った凛月の手が、宙をむなしく横切っていく。慈愛に満ちた朗らかな表情も、またたく間に消え失せた。


「は?傷ついた。訴訟。有罪。無期懲役。情状酌量なし」
「ぐあぁ~っ、すまんリッツ……!リッツのことはだぁいすきだけど、これにはマリアナ海溝よりも深ぁ~い事情が……
「俺が法律です。死刑に処する」
「り、リッツぅ~……!」
「王さま、ようやく起きたわけぇ~?」


 スタジオの扉を開けて、泉がずかずかと入ってくる。
 きちんと締められた胸元のネクタイ、優美な女騎士の名に恥じない凛としたまなざし。れおくんではなくて、王さま。夢の世界で誘惑してきた泉とは似ても似つかない。『ほんもの』の瀬名泉がそこにいた。
 レオは少しばかり緊張して、けれども安堵する。夢は夢で、決して現実を犯せないのだ。


「瀬名先輩。生徒会との交渉は……?」
「まぁ無理だったよねえ。そもそも申請書を提出するのが遅れたし、講堂も他のユニットに取られちゃってる。会場にはまだアテがあるけど、最終的には予算とキャパを照らし合わせて相談……って感じ」
「あらまぁ。残念ねェ……
「それもこれも、そこの王さまが手続きの順序を間違ったせいなんだけどさぁ~!?」


 眉を吊りあげた泉が近づいてくる。レオはこたつに隠れようとしたが、凛月に手首をつかまれた。凛月はジト目を向けながら、怒り心頭の泉にほくそ笑む。


「り、リッツ~!うらぎり者~!」
「さっきので大分ムカついたので、今日はセッちゃんの味方する。極刑、よろしく~」
「くまくん、ありがとうねえ。このバカ殿、絶対に逃がさな………って、かぁ~さぁ~くぅ~ん?」
「はい?」
「なぁ~にが『はい?』よ!?食べ過ぎるなって、あれほど注意したよねえ~!?」


 怒りの矛先が、優雅にスナック菓子を味わっていた司に変わる。泉は、嫁の生活に介入する姑のごとく、ガミガミと説教をはじめた。


「なっ……目下の問題はLeaderでしょうっ、なぜ私なのです……!?」
「私はねえ、今イライラしてんの!この世に存在するありとあらゆる問題を、ひとつ残らず見逃せないぐらい!」
「それを、八つ当たりと呼ぶのでは?私は瀬名先輩のadviceにちゃんと従ってますし、そもそも適量です」
「言い訳するなっ、このクソガキ~!」
「もォ、喧嘩はおやめなさいな。司ちゃんだって頑張ってるんだから、たまにはいいじゃないのよォ?」
「うるっさいなぁ、なるくんは黙ってて!」
「あン、泉ちゃん怖すぎよォ~」


 泉が怒るたび、小ぶりな尻がぷりん、と踊る。スカートの下から伸びる太ももが揺れたとき、レオの下半身はたちまち熱くなった。


「リッツ……
「ん?」


 あはは、と笑う凛月は、すっかり高みの見物だ。


……あ~。さっきのこと気にしてるの?いまは叱られてるス~ちゃんを観察するのに忙しいので、今回は特別に許してあげるよ。心が広いりっちゃん、えらい♪」
「と、といれ、いってくる……
「うんち?ウケる」


 いってらっしゃ~い、とのんびり手を振る凛月には、いえなかった。レオは前かがみになりながら、男子トイレに駆けていく。
 あのスカートの下には、一体どれだけの柔らかさが詰まっているのだろうか。
 このままでは、現実のじぶんが『ほんもの』で、夢のじぶんが『にせもの』になってしまう。レオは窮屈に膨らみつつあるスラックスを引きずりながら、個室の扉を開く。
 だいすきな女の子に劣情を抱えたもうひとりの人格を、一刻もはやく、水に食べてほしかった。