らい
2020-09-21 21:12:49
2774文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀⑦「ホワイトアウト注意報」

お題「強風」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)

 玄関を出たとたん、髪を横殴りするような風が吹きつけた。学院の敷地内に生えた木々が葉っぱを散らし、アスファルトに落ちている菓子パンの袋が宙を舞う。
 近年稀に見る強風である。頬を叩きつける自然の暴力に耐えながら、レオは制服の下に着ているパーカーのフードを被った。隣に立っている泉もまた、乱れた髪をひとつに束ねる。銀色にきらめく毛先は、暴風に揺れてもなお美しかったけれど、泉はすこぶる不機嫌だ。眉をひそめ、チッと舌打ちをする。黙っていれば品行方正な美少女なのに。レオとしては、そこが面白いと感じるのだが、ファンのお姫さまには到底、見せられまい。


「ったく。なんだってこんな日に、ライブ会場の下見が被っちゃったわけぇ?しかもよりによって担当が私とか、チョ~最悪!」
「わはは、運が悪かったなセナ~。でも、おれはセナと一緒に行動できるから、ちょっと嬉しい♪」
「あっそ。……あーあ。会場に辿り着くまでに髪が乱れて、落ち武者になっちゃう」


 さいわい雨は降っておらず、不幸中の幸いといえよう。だが、泉はうんざりとした顔をして、空を仰いだ。吊り上がった眉とは裏腹に、長いまつ毛が俯いている。誰がどう見ても浮かない様子だった。泉といられるだけで嬉しいレオは、その温度差に正直がっかりしてしまったけれど、女の子にとって死活問題なのだ、髪型というものは。レオには妹がいるので、よくわかる。切りすぎた前髪も、跳ねるえりあしも、すべてが一大事なのである。
 レオは、気乗りしない泉を励ますようにして、華奢な肩をぽん、と叩いた。


「とはいえ、徒歩8分だしな~。目と鼻の先だろ、すぐに着く着く!」
「はあ。その8分が重要なの」
「だったらおれが先頭を歩いて、荒れ狂う風の盾になってやろうか?」
「気持ちは嬉しいけど、別にいい………。でも、ありがと」
「おお~、セナがお礼をいうなんて!雨が降りそうだなっ、わはは!」
「調子に乗るな。……って、ちんたらしてたら会場の人、待たせちゃう。行こう、王さま」
「おう。出発進行~♪」


 吹き荒ぶ風のなか、ふたりは歩きはじめる。
 たったの八分。されど八分。すこぶる短いけれど、それでも貴重な時間に違いなかった。




 ところが、宙を横切る風は、想像以上に強かった。しかも、真正面から襲いかかる向かい風なのである。視線もろくに上げられないほどの威力に、レオのフードが吹っ飛んだ。目的地まで歩んでいるはずのつま先は、思うように進まない。
 かろうじて目線を横に動かせば、小学生男児が『ハリケーンスラッシュ!』『トルネードバスター!』とわんぱくに駆けていた。このあたりに看板のたぐいがなくてよかった。元気いっぱいの子どもとはいえ、危険だろう。
 そう思ったところで、泉が「風の神さまが暴れているから、おうちに帰んなぁ~……!」と叫ぶ。聞き分けのよい少年たちは『ラジャー!』『てったいする!』と叫び、住宅街に入っていった。


「わはは……。セナはやっぱり優しいなっ、惚れ直すところだった……っ」
「はひぃはひぃ……別に、危ないから注意してやっただけだし…………っていうか、全っ然……進まないんだけどぉ……
「ぐぬぬ……。さすがのおれも真顔になる……


 本来ならば、自分たちも帰宅するべきである。学院に居残り、別件の作業を進めている凛月たちも「さすがに別の日にしてもらったら?」と提案していたが、『会場を貸してほしいので、下見させてください!』という高校生の依頼を聞いてもらっているのだ。『天気が悪いので、やっぱり辞めま~す!』とは言いづらい。
 いずれ、一介の高校生が無理をする必要がなくなるような──あらゆるマネージメントを統括してくれる機関ができれば、よいのだけれど。今後、そういった組織ができるかもしれない、という噂は親友の斑から聞いているが、きっと当分先だろう。
 レオはくちびるを噛みしめて、踏ん張った。ふたりきりの時間はご無沙汰だというのに、まさか強風という名の間男に邪魔されるとは。不登校の果てにKnightsに復帰して、まだまだ気まずい瞬間もあるけれど、それでも変わらないのだ。いついかなるときも、泉のそばで剣を振るっていたいという気持ちは。もちろん向こうがどう思っているかは、わからないけれど。
 なぁ、セナ。おまえは、どんな気持ち?おれとおなじ気持ちでいてくれたら、嬉しいんだけどな。
 暴れていた風が凪いだので、レオは視線を持ち直した。その瞬間である。
 前方を歩く泉のスカートがめくれたのは。


「あっ!?」
「お、おお~……!?」


 黒のタイツを履いているため『直撃』ではなかったが、それでもパンツの曲線がはっきりと映る。小ぶりでありながらも、程よい肉づきを感じられる尻たぶ。そこに、純白の下着が食いこんでいた。
 ほんの一瞬のできごとである。けれども、レオの視界ではなぜかスロー再生になっていた。ふわりと舞うスカートのひだ、あらわになっていく太もも、そして……


「ちょっとぉ!いま、スカートのナカ見たでしょ!?」


 真っ赤になった泉が、尻のひだを押さえながら振り返る。全っ然進まないんだけどぉ、と辛そうに喋っておいて、ぷりぷりと怒りはじめる姿は俊敏だった。
 完全なる事故である。わざと覗いたわけではないのに、不条理にもほどがある。吹き荒ぶ風のなか、レオは両手をぶんぶんと振った。


「み、見えっ………


 見えてない、と嘘をつこうとして、妹のまぼろしが浮かぶ。うそつきのお兄ちゃんなんて、だいっきらいっ!──拒絶する妹の幻影に青ざめながら、レオは正直に打ち明けた。


「見えっ………たけどっ、今のはおれのせいじゃないだろ~!?お客様っ、クレームの窓口はこちらじゃないですっ、文句をぶつけるなら地球の自然を司る神さまにいえ~っ!」
「それじゃあ聞くけど、『お、おお~……!?』って喜んでたのは何!?」
「そ、それは……………セナだって美味しそうなご飯を出されたら、無意識に声が出ちゃうだろ~!?そういうことっ、条件反射?みたいなやつ!」
「はあ?エッチな男の子、チョ~うざぁい!」
「ぐえっ」


 女の子は、いつだって理不尽だ。
 少年漫画によくあるビンタこそされなかったが、そのかわり両手にかばんを持たされる。泉は「行きも帰りも、荷物ぜんぶ持って」と吐き捨てて、一足先に歩いていった。魅惑の下着が隠されたスカートを、しきりに押さえながら。
 それから会場に辿り着くまでのあいだ、レオは前を見ないように必死だった。顔面を叩きつける風は既にどうでもよくなっていて、頭いっぱいを埋めつくす可憐な純白を思い返さないように、ただただ愚直に歩いた。