らい
2020-09-19 21:05:58
1643文字
Public レオいず
 

今日のレオいず♀⑤「紅く燃ゆる水辺の色は」

お題「花」※泉女体化(性転換、呼称改変注意)/辻蛇♀

 妖怪の蛇娘である泉は、人里離れた森で暮らしている。たまに人間のふりをして村に出かけることもあるけれど、最低限の食糧調達を果たす以外に、めったに森の外にでなかった。人間は野蛮な生き物だと思っているし、繋がりを持とうと考えたこともない。穏やかに鳴く鳥と、優しく揺れる木々に包まれながら、ひっそりと生きていた。
 森の奥に広がる湖畔は、泉のお気に入りである。着物を脱ぎ、生まれたままの姿になった泉は、美しく透き通った水をすくいながら、からだの汚れを洗い流していく。この場所には、外の世界で繰り広げられているような、醜い争いは存在しない。あるのは、肌を通り抜ける、森の息吹の心地よさだけだ。


「セナ~っ、どこにいる~っ?出てこ~いっ!」


 やわらかに膨らんだ胸の曲線に水を流していると、どこからともなく声が聞こえた。静かな森のなか、けたたましく響きわたる舌ったらずの声。水浴びを邪魔された泉はうんざりとした顔をして、湖から陸地に渡る。鮮やかな葉をきらめかせる茂みから、人懐こい八重歯が現れた。


「あっ、いたいたっ!……って、わ~っ!」


 しかし、すぐさま顔を真っ赤にして、戻ってしまう。別に、はだかを見られたって構わないのに。妖怪には恥じらいの概念がなかったが、人間の男はどうやら違うらしい。泉は、地面に置いてあるさらしを巻いて、着物を羽織る。
 ややあって、隠れていた黄昏色の頭が、ひょっこりと登場した。


「おれが来たときに限って、すっぽんぽんで水浴びしてるんだもんなあ」
「だから、何度もいってるでしょ。はだか、平気だって」
「妖怪はそうかもしれんけど、人間は、はずかしい」


 そう言って、赤くなった頬をつねりながら──辻斬りのレオは、すまん、と詫びた。




 基本的には人間ぎらいの泉だが、レオは特別だった。ある日の晩、妖力が不足して、本来の『蛇』の姿に戻ってしまったときのこと。罠にかかり、身動きがとれなくなってしまった泉を、通りすがりのレオが救ってくれたのだ。皮を剥げば貢物になるだろうと近づく人間を、愛刀で斬り捨てて───「大丈夫か?」と、水まで飲ませてくれた。
 あれ以来、レオは頼んでもいないのに、世話を焼いてくるようになった。最初こそ追い払っていたが、しつこく絡みたがるレオに根負けして、現在に至るというわけである。


「で?何の用?食べ物なら足りてるよぉ。こないだ、あんたが持ってきてくれたからねえ」
「いや、今日はちょっとさ。行商で、セナにぴったりの面白いもんを見つけたから、どうしても渡してやりたくて」


 レオはそう言って、着流しの隙間からなにかを取り出した。金色に輝く細長い棒に、青のあじさいがついている。人間の娘が、黒髪につけているのを見たことがある。確か、花のかんざしだったか。


「これを?」
「うん。綺麗なセナに似合うと思ってさ。ちょっと待ってろ、つけてやる」


 和紙で作られた髪の留め具を片手に、レオが髪に触れる。肩まで伸びたそれを高い位置にまとめて、手早く結わえていく。人間の妹がいるというし、普段から慣れているのだろう。髪の尾の付け根にあじさいのかんざしを刺すと、レオはわはは、と笑った。


「うんうん。おれの見立てどおりだな~っ、セナはいつだって美しい蛇娘♪」


 泉は、静かに揺れる水面に顔を近づける。そして人差し指に妖力を込め、優しくつついた。透明な水にちゃぽん、と波紋が浮かび、鏡となって泉を映しだす。頭のてっぺんに、美しい花が添えられていた。


「今日の用事は、それだけっ。水浴びの邪魔して、わるかったっ!」


 じゃあな、と軽やかに告げて、レオは茂みの向こうに消えていく。
 水に映るまっしろな頬は、紅を差しているかのように熱く染まっている。暑くて、熱くて、仕方がない。水を浴びたら、元に戻るだろうか。そう考えて足を入れてみたけれど、身体じゅうをめぐる熱は、いっそう高まるばかりだった。