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らい
2019-10-26 23:13:11
1326文字
Public
溺れる朝
探納ワンドロ企画様/お題:『寝坊』/初夜を迎えた翌朝の話(事後注意※直接的な描写はありません)/わりと相思相愛(当社比)なので拗れ愛がお好きな方はご自衛ください!
「あら、珍しいわね」
イソップが食堂に遅れてやってきたのは、朝食の時間を十分ほど過ぎたころだった。空いたグラスに林檎のジュースを注いでいるエミリーに会釈して、もはや『指定席』となっている端っこの椅子に腰を下ろす。
エミリーが言葉にしたとおり、イソップが遅刻するのは珍しい。そのうえ仕事柄、常々整えているはずの前髪はほつれていて、頭のてっぺんから芽のような髪が浮き出ていた。
焼きたてのベーコンエッグを頬張りながら、ノートンは頬杖をつく。そうして、イソップの斜め前から声を掛けた。
「
……
おはよう」
朝の挨拶から一秒、二秒と間を置いて、三秒目でようやく目が合った。しかし、絡みあった視線はすぐに外れてしまう。イソップの瞳は、敵襲から逃げ惑う魚のごとく泳いでいる。なかなか捕まえられそうにない。
昨晩だって、ろくに顔を見てくれなかった。ふだん頑なに閉じているくちびるを無理矢理こじ開けられて、嫌です、だめです、だめ、そこ、やだ、だめ、とかぶりを振っている姿は、ひどく興奮したけれども。
「ほんとうに珍しいね」
「
……
寝坊が、ですか」
「そう」
どちらかといえば時間はきっちり守るはずのイソップが、まさか、遅刻するとは思わなかった。事に及んだのち、「ひ、ひとりで寝ます」と過細い声で要求するものだから、ノートンはさっさと部屋を出てしまったけれど───いま思えば、もったいないことをした。一夜に翻弄されたイソップの寝顔を、もっと堪能しておけばよかったかもしれない。
「寝られなかった?」
ノートンが尋ねると、イソップはびくりと肩を揺らす。マスク越しに、薄い唇がもごもご、と揺れた。相も変わらず挙動不審で、それがまた庇護欲をかき立てる。社交恐怖のわりには立派な処世術を持っている。本人は無自覚のようだが、それはまぁともかく。
「
……
変な質問、しますね」
テーブルに置かれた食器を見つめながら、イソップが相槌を打つ。ノートンは引きつった口角を、にやりと上げた。
「君がこれまで寝坊したことは、一度もなかったからね」
うっかり寝過ごしてしまうほど、気持ちよかった?それとも、気持ちわるかった?───いずれにせよ、『昨日の夜』が一因であることは間違いない。
「
……
あんなの。
……
あんなに、頭が、どうにかなってしまうのは。
……
初めて、だった、ので」
「え?」
頼りなげにゆがむ困り眉がひどく面白くて、なにげなく尋ねたつもりだったのだ。
だからこそ、イソップの反応は意外だった。
はあ、とか、そうですか、とか、てっきり会話をはぐらかされるものとばかり思っていた。それなのに何だ、なんなんだ───まぶたを伏せながら、たどたどしく喋るその様子に、昨晩のできごとが思い返される。『初めて』に一喜一憂するほど青くはないのに、眉間に熱の波が広がってしまう。ともすれば火傷跡と一体化してしまいそうなほどに熱かった。
「
……
ノートンさん?」
きょとんと首を傾げるイソップに、ノートンは額をおさえた。そうでもしなければ、得体の知れない甘い波に呑まれて、世界のどこかに攫われてしまいそうだった。
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