らい
2018-05-13 23:23:16
2233文字
Public レオいず
 

RN:H2King

レオいずワンドロ・ワンライ企画様/テーマ「彼シャツ」※直接的な描写はありませんが、明らかに匂わせているのでご注意ください

 インターネットで知り合った音楽プロデューサー仲間とは、たまに通話ツールでやりとりを交わしている。会話の大半は、別名義で携わっている作曲仕事の話題で占められる。駆け出しのクリエイターと共同作業でPVを作らないかとか、音楽と映像のコラボ展に作曲魔人Xさん(またの名は聖天使ルカたんのお兄ちゃんP、使用名義はその他諸々)も参加してくれないかとか、そういった誘いの話がほとんどだ。もちろん交流を重ねて仲良くなると、他愛ない世間話に花を咲かせることもあった。そのうちの一人は溺愛している彼女がいるらしく、いつも幸せそうに、こう切り出す。
「彼女ができると、毎日が潤うよ」
 へえ、ふうん、そうなんだ!それ、いいな!おれも潤いがほしいっ!───独り身だったころは、まるで縁のない話だった。どこか遠い世界で流れているラジオでも聞いているかのように。




おくん。れおくん」

 ふわりと溶ける雲のような微睡みから目を覚ます。むにゃ、と寝ぼけながら上半身をひねると、心地よい重みが足元に折り重なっていることに気がついた。金縛り!?それとも何だ、おれは宇宙人に連れ去られ、人体実験の被験者として生物学の進歩に貢献してる!?わはは、光栄で何よりです!ばか言え、んなわけあるか!───果てしなく繰り広げられる妄想のなか、メスを片手ににんまり微笑む宇宙人に抗議する。とにかく、『なにか』が乗っかっていることに変わりはない。レオはすぐさま瞼を開けた。


「ようやく起きた?このバカ殿」


 当然ながら、人体実験をもくろむ宇宙人の一味はいない。そのかわり、前のめりでレオを覗きこむ泉の姿がそこにあった。いつもだったらこの時間、早起きして作曲に励んでるのにねえ、珍しい。泉はそう呟きながら、レオの頬をふたつの指でつねる。かすかな痛みがレオの触覚を刺激して、しかしそれ以上に視覚を殴られそうになっていた。爽やかな朝にふさわしい白のシャツに、細い首筋と鎖骨が映える。きちんと留めていないボタンの隙間から見える胸元は、健全な朝にしてはいささか色彩が強すぎた。レオは性欲旺盛な体質でなければ、なにかにつけて興奮を膨らませるタイプでもなかったけれど、『昨晩』からの流れもあって───黙っていれば気品のある顔立ちが、わたあめさながらにふにゃり、と溶けてしまう。レオはおもむろに手を伸ばして、泉のからだごと布団のなかに引き込んだ。ぽふん、と間抜けな音とともに、泉がベッドに倒れこむ。


「朝からバカやってんじゃないよ。遅刻するでしょ、とっとと退いてよねえ」
「ん~。もうちょっとだけ……
「ちょっとも何もないっつの。俺の話が聞こえないわけぇ?」
「セナはやっぱり抱き心地がいいな~。このまま飲み込まれて、まるで海の底に沈んじゃいそうな浮遊感~……おれとセナは、幸福たゆたう深海の渦に心中するのだ~………
「ばかじゃないの」
「わはは~」


 泉のシャツの襟を親指で撫でながら、レオは上機嫌に笑ってのける。
 元々、泉を泊める予定はなかった。翌日は互いに仕事があったし、夕飯の時間を一緒に過ごしたあとは、家にそのまま帰すつもりだったのだ。結局はそういう雰囲気に変わってしまって、一晩中盛り上がってしまったけれども。しかも、着衣のままで。ジャケットやジーンズはどうにかなるとして、皺になったシャツを着用するわけにはいかない。だから仕方なく着替えを貸しているのだけれど、思いのほか破壊力は絶大だった。積極的に着させるつもりは毛頭なかったが、意外と悪くない。


……なぁなぁ。今日はどうする?今日も、おれの家に泊まってく?」


 レオは泉の腰に両手を回して、舌ったらずの甘い声で尋ねた。


「はあ?……あんた、どれだけ俺としたいわけ」
「こらっ!カラダが目的みたいに言うな!がるるるる!」
「だってさあ。あんた昨晩……まぁ、その話はいいや。ていうか別に泊まってやってもいいけど、それだったら一旦、家に帰らせてよねえ」


 着替えとか持ってきたいからさぁ。泉はそう言って、レオの拘束をほどく。昨晩の熱が未だに残留しているシーツを抜けて、ベッドから下りた。シャツから伸びる足が、「それはそれとして、いいかげん起きろっつの。チョ~うざぁい」とレオの太腿をつっつく。


「ひとのからだを、足でいじるなっ!」
「あんたがとっとと起きないからでしょ?てか、ぐうたら寝てたいのはむしろ俺のほうだと思うんだけど。俺のペースも考えないで、調子に乗りやがってさあ……
「ぐぬぬ……。それは、おれも悪いとおもってるよ。でもさあ、セナだってトンカチでぼこぼこ壊してくるだろ。おれの理性を完膚なきまでに!」
「なぁに、この俺にまだ文句でもあるわけ?」


 泉は形の整った眉を歪めながら、ベッドに手をついて前かがみになった。立派な男であるので胸はなく、けれども露わになったシャツの空洞からは、劣情の足音がひしめいた。おれ、死んじゃう!レオは髪のしっぽを震わせながら、左胸を抑えこんだ。そうでもしないと、心臓が静止してしまいそうだった。


……うるおいがありすぎる……
「はあ?」


 いつかどこかで聞き続けた、まるで遠い国のラジオみたいな話。レオは頭のなかでこっそり投書した。おれ、水になっちゃいそうだよ。



RN:H2Kingはラジオネーム:エイチツーオーと読みます(くだらな~~~!)