らい
2017-11-05 23:11:31
1514文字
Public レオいず
 

ハッピー・スウィートレイン

レオいずワンドロ・ワンライ企画様/テーマ「膝枕」/一緒に暮らしているふたりの日常(作曲に煮詰まったレオが癒されるだけの話)


 読んで字のごとく煮詰まった。楽譜を目がけてため息を吹きかけても、音符はなにひとつ浮かびあがってこない。今度のアルバムには書き下ろしの新曲をたくさん収録しよう。隠しトラックはもちろん、おまえら一人ひとりに最高のソロ曲をプレゼントしてやる!そう提案したのはレオ自身であるのに。連日の仕事疲れで脳がやられているのか、はたまた暗黒のスランプ期に突入してしまったのか。脳の創造機関にインスピレーションを送り届ける貨物列車は、数時間ずっと運行見合わせ状態だ。参った。とても参った。おれは天才作曲家なのにっ!こんなところで立ち往生してるわけにはいかないってのにっ!―――ぎゅるるるる。ペンを放り投げて背を伸ばすと、腹の虫が悲鳴をあげた。時計の針はずいぶんと進んでいる。そういえば朝ごはんしか食べていなかったことに気がついて、レオは「はらへった」と呻きながら部屋を出た。


「ようやく出てきたと思ったら。どうなの、アルバムの進捗は」


 ソファーに腰かけてファッション紙を読んでいた泉が声をかけてくる。レオは拳銃に見立てた人差し指をこめかみに当てて、「凄まじく詰んでる!クラクションを鳴らしても退いてくれない迷惑駐車みたいに、おれのインスピレーションを脳みそまで通してくれないやつがこのなかの、どこかにいる!」と返す。そうして戸棚の奥から板チョコを取り出した。弱体化した発想力には、糖分がよく効くのだ。アルミを剥がして、上の部分をパキッと折る。ボール遊びをする犬のようにチョコをくわえて、泉の隣によいしょと座った。


「セナも食べる?こないだスオ~から分けてもらったお墨付きのチョコレートだから、甘くておいしいぞ~。はむ」
「はあ?あの末っ子。甘いものは控えろってあれほどって、悪いけど。俺は、いらない」
「なぁんだ、元気でるのにな。ん~、甘いっ!体力がみるみる回復していく~!」


 とろける甘さが舌を伝って、頭蓋骨に横たわる重石を溶かしていく。思考回路がふわりと揺らいで、レオはソファに寝そべった。決して柔らかくはないけれど、どこか安心感がある枕。天下一品の特等席、泉の膝上である。頬をグリグリとすりよせると、泉は「ちょっとぉ、邪魔なんだけど」としかめっ面で見下ろした。


「いったい誰の許可を得て俺の膝を枕がわりにしてるわけぇ?」
「今さら許可証は不要だぞ~。そりゃあ昔のセナは違ったかもしれんけど、今のセナはおれのものだもん。おれ専用のセナまくらっ!」
「はあ?」
「王さまの命令は、ぜぇ~ったい!もぐもぐ」
「そんなトンチキな行使権が通用すると思ってるわけぇ?チョ~うざぁい」


 まぁ、最近のアンタは疲れてるようだし。今日は特別に俺の膝、貸してやってもいいけど。
 泉はツンと顔を背けながら、レオが持っているチョコレートを取り上げる。そうして横一列に割ってみせた。鼻孔にふわりと流れこむ、甘い香り。細長い指でつままれたチョコレートが、レオのくちびるに運ばれる。


「別に心配してるわけじゃないけど。調子狂うからさぁ。俺の前でぶっ倒れたら、タダじゃ済まさないからねえ」


 チョコレートを押し込まれて、糖分がふたたび血液をめぐる。頭の奥に搭載された真っ赤なライトが、ピンポン!と音を鳴らした。こちら一番ホーム、今たった思い浮かんだばかりのメロディーが発車いたします。地平線の彼方から旋律が駆けてくる。
 きた、きた、きたっ!インスピレーションが降りてきた~っ!
 レオは泉の膝で寝返りを打って、がじがじと服を噛む。何してんのぉ、と泉から拳が飛んでくるまえに、「セナ、だぁいすき!」と飛び起きた。