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らい
2017-01-29 23:14:41
3488文字
Public
レオいず
宛先不明の空へ
レオいずワンドロ・ワンライ企画様/テーマ「写真」/近所のおばあさんとレオ(と泉)の話/CP要素は薄めです。過去捏造にご注意下さい。
昔、近所に住んでいるおばあさんに「あなたはよく笑う子ね」と褒められたことがある。
黙っていれば気品に溢れる貴族のような顔立ちをしているのに、と溜め息全開で残念がられることがほとんどの人生だったから、おれの素顔を肯定的に評価してくれたおばあさんは稀有な存在だったし、なによりも嬉しかったことをよく覚えている。
おばあさんには見える?いくつもの音符が金魚のように連なって、空のキャンバスに悠々と羽ばたいているその姿が!虫取りあみが欲しいくらいだ!はやく捕まえないと、みんな消えてしまうから!
――
指揮者のタクトに見立てた木の棒を振りまわしては、町内中を駆けまわるおれに、周囲の大人たちは首を傾げるばかりだったけど。おばあさんは、「ちいさな音楽家さんは、今日も、素敵な笑顔でいらっしゃるのね」と玄関に水を巻きながら、おれに話しかけてくれたっけ。ノスタルジックな夕焼け色に染まった想い出のなか、おばあさんの姿はいつまでも変わらない。
ライブ前の、控え室。パイプ椅子に腰かけていたおれは、片手に握りしめた一枚の写真を、衣装の胸ポケットにしまい込もうとした。ところが、とつぜん背後から現れたセナに、「ちょっとぉ。なぁに、これ」と取り上げられた。ゆうくんとかいう後輩との電話が終わったらしい。数秒前までは猫撫で声でしゃべり散らかしていたくせに。セナは気だるいトーンに早着替えして、おれを出迎えた。蝶ネクタイ型の変声機、2~3枠ぐらいはセナだけで埋められるんじゃないのか!?おれも鳥さんの声マネは得意だから、おれ達ふたりで10枠程度は収録できちゃうかもしれない。推理の機会があったらぜひ呼んでくれ、わはは!あぁ、でも麻酔銃がなきゃバレちゃうか。意味ないな。この妄想、おわり。というかセナ、ひとのものを勝手にとるな!
「『勝手にとるな』~?はぁ~?あんたがよく行方不明になるせいで、常にこっちは時間泥棒されてるんですけど~?おあいこでしょ、おあいこ」
「グヌヌ
…
。理不尽な論破だけど、おまえらに迷惑を掛けているのは事実だしなあ。おれの頭に常駐している宇宙船の怪電波がインスピレーションを刺激するせいで!スマン!」
「いや、急に謝られても困るし。一番苦労してるのはかさくんなんだから、頭を下げるならそっちにしてあげなよねえ」
「スオ~、ごめん
――
って、スオ~は!?というか皆いないな、どこいった!?宇宙人にアブダクションされたのか!?」
「さっきも教えたでしょ。司会進行担当者と、今日の段取りの最終チェック中。くまくんを中心に、なるくんとかさくんにも行ってもらってる」
「リーダーを差し置いて!?」
「あんた、自分で決めたでしょうが。俺たちはもう三年生だから、後輩たちに少しずつ任せていこうって」
「そういえば、そうだったな!おれの方針だった、すこんと忘れてた!」
「あんたの脳みそ、ほんと欠陥住宅すぎ。
……
とりあえず、もうすぐで戻ってくるって。さっき、連絡きた」
……
で、誰?
セナが隣に座って、写真をまじまじと覗きこむ。すっきりとした鼻筋と、きりっと伸びた目尻。空の下で波を打つ海のような青色が、一枚の写真を見下ろしている。非の打ちどころのない造形の人間って存在するんだなって、セナを近くで見るたびに思う。
「アンタのおばあさん?
…
にしては、妙に落ち着いた雰囲気のひとだよねえ。王さまと血ぃ繋がってるように見えないし」
「さりげなく馬鹿にしてるだろ。さすがのおれでも怒るぞ、がるるるるる!」
「ちょっと、顔の近くで吠えないでよねえ。うっとうしいなあ。
……
で、マジで誰なの?」
「気になるか?おまえに妄想のチャンスをやろう!」
「いらない。そんなことより、はやく答えをいいなよ」
「まぁ~たおまえは、己の思考回路を自ら退化させるようなことをして!
……
まぁ、いいか。
……
おれの近所に住んでいた、優しいおばあさんだよ」
セナに取り上げられた写真は、おれが小学生のころに撮ったものだ。町内会の小さなお祭りがあって、甚平姿のおれと、浴衣姿のおばあさんが映っていた。あなた、昔のおじいちゃんに似てるわね。よく笑うところがそっくりよ。口元に手を当てながら、昔のフランス映画のお嬢さんみたいに微笑んでくれたっけ。あの頃のおれは、物事のひとつひとつを深く考えるほど賢くなかった。「おばあさんも、いっぱいわらってくれるから。おれは、おばあさんのことが、だいすきだよ」と、いかにも小学生らしい返事を投げてしまったけれど。
あなたがよく話しかけてくれるからよ。
おじいさんがいなくなって、心にぽっかり穴が空いていたけれど。
とびきりの笑顔になれる音楽を、あなたが私にくれたのよ。
風鈴をやさしく揺らめかせるような声色に、スプーン一杯分ぐらいの涙が混ざっていたこと。おれは今でも覚えているよ。
さみしい気持ちになったときは、すぐに話しかけてよ。その時はおれ、おばあさんに、いつだってメロディーを届けにいくからさ。ひかり輝く騎士となって、おばあさんを護ってあげる。どこかの漫画から引っ張ってきたセリフとともに、はいチーズの合図で撮ってもらった写真だった。
きっと、あなたと一緒になるひとは、宇宙一、しあわせなひとね。
そんなふうに笑ってくれたおばあさんは、一年前の今日、亡くなった。
「このひと、今日のライブを見に来てるわけ?」
「いや、来ないよ。このひとは、もう、いない」
「
…
ああ、
…
そうなんだ」
「うん」
「
……
はい」
セナは、「返すよ」と低い声を響かせて、持っていた写真をおれの手に握らせた。セナはそれ以上なにも聞いてこなかった。どうして、近所のおばあさんの写真を持っているのか。そもそも近所のおばあさんとおれは、一体どういった間柄なのか。けっして深入りはしてこなかったけれど、いちばん最後に「今日は晴れてるし、こっそり見に来てくれるんじゃない?」とだけ呟いた。非科学的な現象なんて、普段はまったく信じてないくせに。セナはそういうところがやさしかった。おれはセナのそういうところがすきだった。
「あのさ、セナ」
「なに」
「うえ向いて」
おれはテーブルの上の置いてあったスマートフォンを右手にとって、あまった左手でセナの肩を抱いた。「は?」と戸惑うセナに笑いながら、伸ばした親指でシャッターボタンを押す。ぱしゃり、と音が鳴って、液晶画面にはおれとセナの姿が保存された。フレームのなかに、満面の笑みを浮かべるおれと、仏頂面のセナがふたりきりで映っている。
「ちょっとぉ。自撮りするなら自撮りするで、ちゃんと声かけてよねえ?チョ~うざぁい!」
「『撮るよ』なんて予告しようものなら、セナのことだからカメラ目線をしっかりキメちゃうだろ。そんなの普通すぎて大変つまらん!却下!」
「俺はモデルなんだから、そんなの当たり前でしょ。というかその写真、どうするつもり?まさかSNSにでも上げようとしてるわけ?カメラも、標準インストールのアプリだよねえ?こないだもくまくんに寝顔を撮られたうえに勝手にアップされて、『可愛いですね』みたいなコメントがいっぱい来たんだからねえ?そんなの、俺が目指してる方向性とはちが
――
」
まくし立てるセナのほっぺたに唇をくっつけると、セナは瞬時に固まった。かと思えば、すぐに右ストレートが飛んできた。それを左に交わして、キック攻撃は上にジャンプ。渾身のグーパンチは、しゃがんで交わした。真っ赤に照れるセナにげらげら笑いながら、おれは胸ポケットにしまいこんだ写真にそっと語りかけた。
あれから一年も経ったけど、おじいさんには無事に会えましたか。ライブが落ち着いたら、こっそりお線香を上げに行くよ。あなたは、よく笑う子ね。そうやって褒めてくれたときと同じように、めいっぱいの笑顔の写真を持っていこうと思う。おれの隣には、しかめっ面のヤツが写っているけれど。あらあら、とんでもない照れ屋さんを捕まえちゃったのね。きっと想い出の姿のまま、ふんわりと笑ってくれるだろう。
とびきりの笑顔になれる音楽を、あの頃のように作ってみせるから。宇宙一しあわせにできるかどうかは、別として。
おれはこれから先もずっと、世界中に音楽を紡いでいくよ。今、隣にいるひとが。この世界のどこかで、ひとりぼっちで膝を抱えているひとが。心の底から笑えるように。
だから見ていて。空に届け。響け。巡れ。おれのメロディー。
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